第32話

「う、ううん」


「起きたか」


「え?は、はい。ひいっ!」


 オット、そういえば今の俺のかっこうは血まみれの黒騎士だ。ただの村娘にはちょっと心臓に悪いだろう。


「すまんすまん。この格好じゃあ怖かったな」


スライムアーマーを変形させて顔を晒した。


「えっ、一瞬で鎧が消えた?」


 顔が見えるようになって幾分か警戒心が薄れたのか、柔らかい表情になった。

 さっきも簡単に攫われそうになってたし、やっぱりこの子不用心じゃないか?


「まずは自己紹介だ。俺は雄亮。君は?」


「わ、私はチナです。あのう、もしかしてユースケさんが助けてくれたです?あの人さらいは……」


さっきのスプラッタ現場を思い出したのかチナの顔がみるみる青くなっていく。


「ああ。ちょっとあの光景は君には少々刺激が強すぎるからここは別の部屋だよ。もう大丈夫。安心して」


 本当は、部屋は移動せずに死体を片付けただけだけどな。

 わざわざ言って怖がらせることはない。


「ふ、ふえーん」


顔色は治ったが、今度は目をウルウルとうるませ始めた。


「え?ちょっと、なんで泣いてるの⁉」


 安心して思わずって感じか?

 まあ、あと一歩で奴隷だったんだから無理もない。


「い、いいえ。ひっぐ。私なんかのせいであなたを人殺しにしてしまったです。うえーん」


 ……………………ええ子やないかい!

 明らかに不審者の俺の心配にするとか、お人好しすぎて逆に怖い。

 よく今まで生きてこれたねこの子。


「いや気にするな。こういうことは慣れてるから」


「慣れてる?殺し屋さんです?」


 発想がぶっ飛んでやがる。

 まあ、俺の格好を見れば無理もないけど。


「いや、よく家(ダンジョン)に盗賊冒険者が命(コアちゃん)を狙って侵入してくるからな。正当防衛だ」


 嘘は言ってない。

 そもそもダンジョンに入ってる時点で不法侵入なのだから家主ダンジョンマスターに何をされても文句は言えないだろ。

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