一反一穣の主~初めての作付け



『PON★』

「…………」

「…………」

「……何か聞こえた?」

「いいや?(ブンブン)…でも、すごいね? 君は手品・・まで得意だなんてさ。どこに隠し持ってたんだい?」

「えっ。うん、そう…手品だよ? アハハ…」



 明くる日の早朝。

 最早慣れた必要出荷分の芋老人を畑からほじくり出した後、農奴隷達が他の雑穀やベリー類の収穫に勤しむ中…俺と服を着た優しいコディアックヒグマことソッカイさんと共に、俺がアベル嬢から下賜された領地(一反の畑。結構広いのよ?)の前にしゃがみ込んでいた。


 まあ、隣のクマさんは立っていてもしゃがんでもほぼ体高が変わらないように見えるほどのわがままモフフカボディーだが。


 だが、屋外の数百メートル離れた所の足音も正確に判別できる彼が聞こえないとなると…やはり、この俺が手に持つ女神から与えられたオールナイト・フォン(略して…なくても良いか?)は見えず、発する音声も聞こえず、何も感じとれずに認識自体できないということだろうね。



 だが、今し方俺の掌に転がり落ちた種は別だ。

 ソッカイさんもちゃんと認識できている。



 俺は一旦、今朝出した種とは別に腰から下げていた小袋の中身をソッカイさんの肉球の上にパラパラと出して見せた。



「ソッカイさん、〔植物学〕スキル高いじゃん? これが何の種だか判る?」

「うーん…全部は判らないけど。ああでも、この三粒はカニリンゴの種だね」

「カニリンゴ?」

「うん。(アクアントの)西の方では割と馴染みのある野生種の果実だよ。とっても酸っぱいけどね」



 ソッカイさん器用にクマ顔をキュっとすぼませて見せる。

 つまり、かなり酸っぱいんだと思う。



「それとコレは林檎だと思う。この辺じゃかなり珍しい…僕も実際に見たのは一度切りだったかな。聞いた話じゃ、炎国フレイムスの竜人が好んで食べる果実らしいよ。この国では滅多に出回らないはずさ。他のは…ゴメン、正確には判らないや。…恐らく、大体カニリンゴの近似種かそれに近い果樹の種だと思うけど」

「ふむふむ」

「因みに、その蒼林檎は食べると人間も獣人も簡単に死んじゃうくらいの毒があるらしいよ?」

「え゛っ」



 ソッカイさんに見せたのは俺が昨日までユニークスキル【種男】のアプリ、種メイカーで手に入れた種だ。

 

 俺がそれぞれ種を鑑定アプリに掛けたその結果は――


 柿の種×3

 柿の種(偽)×3

 林檎の種×2

 青林檎の種×1

 カニリンゴの種×3

 グラニースミスの種×1

 フジリンゴの種×1

 蒼林檎の種×1

 ゴールデンデリシャスの種×1

 ガラの種×1



 …………。

 なんで殆ど果樹の種なんだ?

 しかも、(恐らく)リンゴ系ばかりなんだ?


 俺にリンゴ農家に転身しろという啓示なのか…いや、そんな馬鹿な。

 タイトルは“異世界リンゴ農家”に代わっちまうぜ?


 フジリンゴとゴールデンデリシャスくらい俺だって知ってる銘柄だ。

 ガラってのが聞いたことがない…けど、種の形的にリンゴ系ではあるっぽい。


 それと、気になるのはその酸っぱいカニリンゴと蒼林檎とやらの種か?


 元の現実世界に帰ってから調べて見ないことには判別しようが無いが、異世界特有の種なのか、それとも俺の世界コッチにも在って単にソッカイさんが他のリンゴ系のものを知らなかっただけ…という線も有り得る。


 まあ、蒼林檎はどうにもこの異世界特有の種類っぽいけどな。

 この異世界の作物はどうにも誤変換みたいな名前のヤツが多い気がすんだわ。

 俺が知らないだけで意外と毒リンゴも実在しててもおかしくはねーけども。



「(スンスン)…というかこの色合いも形も違う細長いオレンジ色の種は……死んでる? いや、そもそも植物の種子じゃない? しかも、何だろ? 微かにエルフ麦の匂いが…」

「あ~それね。種に似せた菓子だよ。喰ってみる?」



 流石は専門家…じゃなくても速攻でバレっか?

 

 俺とソッカイさんはこのまま持ってても仕方ない柿の種(偽)を一粒ずつポリポリと食べた。

 ……うん。かんなり湿気ってんな。


 因みに、エルフ麦とは一言で言えば…ズバリライスである。

 既に俺は何度か食したが…ちょっと香りこそあるが、ほぼ日本のコメと大差ない(が、流石に現実世界の我らが主食とは歴然の差があると、コメ農家でもねーのに勝手に威張り散らすがね!)アクアントの主食となる穀物の一つだな。


 思い付きで処ぶ…試食させた柿の種(偽)だが、ソッカイさんには「味が濃いし、面白い!」との割と好感のある高評価だった。


 なんだろ…この微妙な罪悪感は?



「それじゃ…コッチは?」

「ゴメンね。君がさっき手品で出してくれた方のはもっと判らないや。……ハッキリしてるのは、それが魔法植物・・・・の種ってことくらいだよ。僕達が育ててるのは食べられる普通・・の作物かお花くらいで、そっちの知識は全くないからね」

「そっかぁ~」



 心優しきコディアックヒグマが眉を八の字にしてしまう原因は俺が再度、彼に差し出した三粒の種である。

 それと、ソッカイさんが言うフツーってのは俺にとってはちょいと気に掛かるが…まあ、今は良い、見逃してやろう。



 ……しっかし、何だぁコレぇ~?



 俺は改めて【種男】のスキルレベルが2になったという事を検証すべく、種メイカーの三連続ガチャで引き当てた三粒の種を見やる。


 それぞれが、サーモンピンク色のほぼ完全な三角錐。

 ライトブルーのトゲトゲがいっぱい付いた球体。

 俺が知ってるものの三倍ほど大きいヒジキ・・・だ。


 ……しかも、トゲトゲのヤツは脈打っていて、ヒジキに至っては前後の頭と尻尾?を元気に動かしてピチピチしている。


 …もう一度、いや、良い加減に最後にするが…何だコレ?



 価値の是非は知らんが…今すぐにでも手放したい、捨ててしまいたい!


 だが、その辺に勝手に捨てて変なものが生えてきたら困るじゃん!


 だから、ソッカイさんに相談してんだよ。


 けれども、〔植物学〕と〔畑〕のレベルが5もある彼でも見当がつかないとは困ったなあ。

 聞けば、ソッカイさんはレベル5の獣市民だ。

 能力値に一切の修整が無い非戦闘員の一般人(つまり、レベルアップによって能力値が上昇しない)であるアーキタイプ:市民としてはかなりレベルが高い方らしい。


 まあ、実際俺よりも3も高いしな?

 というか、そもそもの能力値が高い(※フィジカル寄り)という獣人系なら普通に今の俺よりも強そーだが。


 おっと、話が逸れたが…結局このヤベー種をどうすっかなんだよなあ~。



「何か悩んでるみたいだけど、取り敢えず植えて見たら?」



 そんな俺を余所にクリクリの瞳でそう言い放つソッカイさん。



「い、いいのかなあ~?」

「だって、君の畑だけ遊ばせるのも勿体無いじゃないか。大丈夫だよ。君の畑は農園の端で他の畑からも離れてるし。仮に危ない植物だったら、お嬢様や屋敷の人達が何とかしてくれるさ。子爵様の御屋敷には炎魔法が得意な方が多いからね」

「そう言うんなら…いっちょ、やってみっかなあ?」



 俺はソッカイさんのアドバイスに素直に従って、早速このキモイ種を処……畑に捨て……植えることにしたってわけだ。


 おっと、安心してくれ。

 アベル嬢の朝食は既に準備して部屋に運んで貰っているから抜かりはない。



「ところで、今更なんだが…リンゴ、いや、果樹の木って最初は植木鉢とかで育ててから、苗木を植えるんじゃないの」

「ああ、うん。普通・・はね? でも、ほら…この農園には〔畑〕スキルのレベルがそれなりにある僕達が居るわけだから」



 あ~…なるほど?

 鉢で育てると、スキルの恩恵の対象になる畑扱いされないと。


 ぶっちゃけ言うが、この世界の畑作は想像以上に色々とおかしい。

 そりゃ作物からしてファンタジーな代物揃いのようだが…それ以上にこの〔植物学〕と〔畑〕スキルの存在だな。

 特に後者だ。この〔畑〕スキルはおもっくそ畑に植えたものの成長速度や品質に影響を及ぼす。

 仮に数人の〔畑〕スキル所持者が持ち回りで作物の世話をしたとしようか。

 その作物によるが、早いと種蒔きから数日で作物が収穫できる。



 どこの農業ゲーだって話だ。


 いや、実際にのほんとするクマ農夫の後ろでマメっぽい作物を慣れた手付きで収穫している獣人達の姿があるが……あのマメっぽいのは俺がこの屋敷に来た翌朝に種を蒔いたもんだ。



 でも、早く収穫できるんならそれに越した事ないって思うじゃん?

 ところがどっこいそう上手い事言ったらこうも毎日農業に勤しむことはないって話でな?


 この子爵家の農園のように安全に農業を行える環境自体が稀有らしい。


 あ~つまり、この外の一般農家は魔物なり悪党なりがうろつく危険な場所に住んで農業に従事することになるわけで……もう、説明しなくても良いか?


 そう、その発育の良い食い物に魅力を感じ、狙うものは腐るほどいるんだなあ。


 個人で上手くやっていくことは土台無理で、基本はどこぞの領主の庇護下で兵士や用心棒達に守って貰いながら農作物を細々と生産するしかないわけで…この水資源豊かで農耕地としては理想的とされるアクアントにおいても生産自給率はそこまで高いわけじゃないんだとさ。


 まあ、他所の国と比べれば遥かに豊かなのは事実らしい。

 ここ百年は飢饉も無いってアベル嬢が自慢してたっけ。



「ふぅ~…まあ、こんなもんかな?」

「そうだね」



 俺とソッカイさんは同時に腰を上げると、手に着いた土を払い落す。



 結局、俺は種メイカーで出してストックしていた種(※一粒残った柿の種(偽)を除く)全部を畑に植えることにした。


 かなり距離を置いて種を植え込んだが、それでもまだ、畑の三分の一、いや、四分の一も使ってねーぞ…?

 こんな広い畑(※あくまで非農家の個人的な見解です)貰っても困るっちゃ困るよね。


 あと、畑の収穫物についてだけど…仮に今後俺が植えた柿や林檎の収穫が可能(普通なら数年掛かるよな…)になった場合。

 両手で抱えられる以上の収穫量になった品目の五割を税?としてアベル嬢に納めることになっているようです。


 まあ、柿と林檎(※一部、毒リンゴ)なら別にええよ。

 そもそも十本ちょいの木から穫れる量じゃあ大した商売にならんだろ。


 ……いや、多分。

 てか、農協の人とかに怒られちゃうんじゃないか?

 どうだろ? ん~…勝手に品種改良品やブランド品を許可なく販売してもいいもんか…。



 あ。ここ、異世界だった(真理)


 (※この作品は一切の違法・犯罪行為を推奨するものではありません笑)



 それと、例の魔法植物の種はソッカイさん助言に従って柿や林檎とは対の端に植えることにした。

 魔法植物の種類によっては近くの単なる普通の植物まで魔化(多分良い意味じゃないんじゃない?)してしまう可能性があるからと。



 びょん。



「おわ!? 植えた途端に芽が出やがった!」

「魔法植物だからね。一般的な植物と比べて成長速度が極端なことも多いって聞くし…最初に決めたように、僕達が直接関わると僕達のスキルまで加算されてしまう。君がお嬢様に付いて離れている間は僕が様子見だけにしとくよ」

「うん、頼むぜ」



 秒で芽吹いたのは…あのライトブルーの脈打ってたヤツだったぜ。


 芽もライトブルーとか、ホント植えて良かったのかなあ~?


 だが、一番ヤバかったのはあのヒジキだな。

 土に近付けたら勝手に潜り込んでいきやがったし…。



「お~い! サンチョ、支度は出来ているかあ!」

「オッサン、早く私達とイイコトしに行こうよぉ~?」

「ガーデニア、卑猥な言い方をしないで下さいませんか」

「もう諦めようよ、ナセル?」

「どうやら君を迎えに来たらしいよ」

「ああ…じゃ、行ってくるよ」



 俺は土で汚すまいと脱いで高柵に引っ掛けていたパデッドアーマーを着込むと、同じく立て掛けていた青銅の剣の鞘紐に頭と左肩を潜らせ背中に背負う。



 ……ゴブリン、か。


 さて、今日でどれだけノルマを熟せるかね?




  (種)



 ▼勇者タネモト▼


 ▶レベル:2   EXP:▯▯▯▯▯▯▯▯▯▯

 ▶アーキタイプ:戦士

 ▶身分:オツベル家の召使い・ミルファの冒険者‐等級・銅の無星

 ▶称号:狼族の情夫、赤髪の乙女・オールドルーキー

 ▶HP:25   MP:0

 ▶所持金:1ゴールド、62シルバー

 ▶攻撃力:10  >付与:無し  

 ▶防御力:5   >耐性:無し

 ▶筋肉:F+

 ▶敏捷:F

 ▶魔力:F-

 ▶精神:F

 ▶知識:17

 ▶状態異常:無し


 E:ブロンズソード

 E:パデッドアーマー

   クロース

   治癒のポーション+1

   ――――――――

   ――――――――

   ――――――――

   ――――――――


 勇者タネモト◀スキル・カスタマイズ


 【種男】Lv2     〔戦士〕Lv0

 〔従者〕Lv0     〔片手剣〕Lv0

 〔植物学〕Lv2    〔畑〕Lv1

 〔家庭料理〕Lv1   〔性交渉〕Lv0

 〔 - 〕      〔 - 〕


  ==残り予備スキル枠:10==


 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕


 *種メイカー最大使用回数:3回(スキルレベル+1)

 *ドロップアイテムにスキルレベルに応じた種アイテムが追加

 *????


 ▼クエストボード▼

  業務期日(3/7)


 ==今回のノルマ==

 

 ●モンスターを5体倒せ!

  (0/5)

 ▶達成報酬:3ゴールド


 ==ペナルティ==


 ●達成報酬無しの上、カウントはリセット。

  次回のノルマへ持ち越し。


 ==現在進行中のイベント==


 ●ミルファ近郊北部のゴブリン討伐依頼

  (参加中のパーティ:赤髪の乙女)

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