ISEKAI 二週目



「……やっぱり現実なんだよなぁ」



 俺はまたもや現実と夢の狭間のような感覚を覚えるあの部屋へと戻ってきてしまったんだぜ…。


 つか、コールした途端にこの場に瞬間移動とか…どんだけだよ。


 コレ、仮に人前とかでやったら大騒ぎだろ。



「あ。タネモトさん!」

「おう、ルリちゃ…ん?」



 覚えのある少女の声に振り返るとそこには三日振りのルリちゃんの姿があったんだが……どうにも気に掛かって言葉に詰まっちまったよ。



 彼女の顔に真新しい痣があったからだ。



「…それ…どうしたんだい?」

「え? あ! こ、これは昨日…学校の体育でその…思いっ切り顔にバスケットボールがぶつかっちゃって?」

「そう…そりゃあ災難だったな」

「えへへ」



 何やら誤魔化すように笑って見せる彼女の表情に良からぬ影を感じる気もするが…まだ、知り合ったばかりの仲でそこまで込み入った事を聞くのもちょっと…なあ?


 彼女もまた繊細そうな年頃の娘さんだし。



「そういえば…まだカイドウさんが来られてないですね」

「そうみたいだね?」



 なにしてんだあのチャラ男?

 てっきり、半日前くらいからスタンバっててあのウザイテンションでルリちゃんを困らせてるんじゃないかと思っていたんだがなあ…。


 もう、始業(次の異世界行き)まで三十分を切ってんぞ?



「ちょっとアンタ、いま、良い?」

「おぉう!?」



 突然背後から声を掛けられて変な声出たわ!? 止めろや!


 誰だコノヤロー!と後ろを振り向けば…なんとあの双子らしき女子がいやがったぜ。


 …まあ、冷静になって考えれば、この場に居る面子にルリちゃんを除けば女性は彼女らだけだったな。



「アンタの名前とレベルと大体の居場所、教えてよ」

「これまた、いきなりだな…」



 随分と気が強い女子だな?

 ショートボブのスレンダー美人さんなのは結構だがなあ。

 歳は二十代…女子大生くらいか。


 その背後で困った顔をしている方の娘もまた可愛い。

 どっちかというと彼女の方と仲良くしたいと思ったのが僕の素直な心象です。



現実世界コッチでのことはいいわ。欲しいのはあくまでも異世界ゲームでの情報だから。早くして。もうすぐ始業前のホームルームが始まるから」

「ちょっと…お姉ちゃん…」



 む。やはり背後の大人しそうな娘の方が妹か…文句無し!


 それとこの強気姉はあの異世界をあくまでゲームとして割り切るスタンスなのか。



「…まあ、別にいいか? 俺は勇者タ……いや、タネモトでレベルは1。現在位置は大陸右上のアクアントの東、ミルファの街に居る」

「レベル1…? 低っ!(笑)」

「失礼でしょっ」



 大丈夫だとも妹ちゃんよお。

 俺はオートーナーだからよう…別にこんなくらいじゃあ怒りも凹みもしねえって…。

 ちょっと眼輪筋がピグピグしそうになる程度だ、平気さあ。



「ふーん…別に特別強いとかじゃあなさそう。じゃ、また無事に帰ってこれたら話を聞かせてよ」

「お、おい!」



 聞くだけ聞いて自分らの位置に戻ってくもんだから反射的に声が出ちまった。


 というか、俺の他には…ルリちゃんの事とかはいいのか?

 アウト・オブ・眼中かよ。



「何?」

「なんで急に俺のことを聞いてきたのか知らんが…何が目的だ」

「目的って…ハァ。確かにコッチから聞いておいてそれだけってのは…許してくれないか」



 立ち止まった強気姉の方がツカツカとまた俺の前に戻ってきた。



「私は勇者ミカって…勇者なんて何の冗談って話よね。レベルは5。それ以上はまだ信用できないから話さない。けど、今の居場所だけは教えてあげる。フレイムスってクソ暑い国」

「フレイムス…聞いたことのある場所だ」



 フレイムスか…ルッツから聞いた話じゃ砂漠と火山のある確かに暑そうな国だそうだな?



「そう? 意外と結構アッチのこと知ってるんだね。…で、コッチは妹のミクル」

「こ…こんばんわ」

「「こ、こんばんわ…」」



 確かに深夜帯の挨拶としては間違ってないので俺もルリちゃんもそう返しておいた。



「私はレベル3です。その…実は自分がいる場所はよく判ってないんです。かなり寒い場所で、多分、お姉ちゃんのいる所とは大分離れてると思うんです」

「寒い場所? 一応聞くけど、そこでは一人かい?」

「はい。この場にいる方で近い人は少なくとも一人だけかと…」

「ホント妹と合流するにも正確な場所が判んなきゃ、どうしようもねぇー?」



 俺はこの場と異世界でしか使えない方の相変わらずパチモン臭い端末を取り出して地図アプリを起動する。


 寒いかどうかは判らんが…離れてるってことは中央の大陸から離れた三つの別の陸地か?

 それで寒いってんなら多分北…?

 でもって異世界テスターの位置を示すマーカーの座標とミクルさんからの証言とで察するに――…地図の北西にある陸地か!



「ここじゃないか?」

「うーん…もしかしたら、そうかもしれません」

「えぇ~!? だとしたら私と滅茶苦茶離れてるじゃん」


 

 まあ…正確には地図上だと俺と下の大陸の三人と、かな?


 だが、陸繋がりじゃないってのは正直ヤバイ気がする。

 船に乗って行けたらそれで良いが……確か、仮にその大陸に妹さんが居るんだったら……難しいかもしんない。


 いや、そもそも地図アプリを使えば自分の現在位置くらい判るだろ…どーいうことだ?


 もしかしてブラフの疑いもあるか…なら、ここは敢えて黙っとくか?



「……俺はこの大陸に魔族の国があるとかって聞いてるんだが。心当たりとかある?」

「あ。そう言えば、初めて遇った現地の人?の顔色がやたらカラフルだったり小さい角とか生えてまし…」

「ちょっと!? そんな大事なこともっと早く言いなよ!」



 どうやら妹さんの方はちょっと…いや、結構天然らしい。

 そうか、やっぱ魔族とやらもいるみたいだが……彼女の様子からして必ずしも敵対的ではなさそうで安心したぜ。

 まあ、そもそも俺がその場に行くかどうかは別問題だがな。



「ところで、結局のとこなんで俺に声を掛けたんだ?」

「…………」



 一番気になることを尋ねたら、急にミカの野郎(呼び捨てだこんな奴)が白けた表情で俺と壇上で欠伸をしていた女神とを交互に見やった後に盛大に溜め息を吐きやがった。



「……ほぉ~んと男って鈍いわね。まあ、アンタはそれ以外も鈍そうだけどね」

「喧嘩売ってんのかネーチャン? おう」

「ちょっ、タネモトさん落ち着いて…!」



 流石の俺もカチンですけど、何か問題でも?

 ほぼ初対面相手にそんな態度がよくできたもんですねぇ~?(憤)



「お姉ちゃ、いえ、ミカがすいません。普段はあんなじゃないんですよ? ……それと、ミカがあなたに声を掛けた理由ですけど…ちょっと…」

「…?」



 俺は声を落として口元に手を寄せるミクルさんに耳をやった。



「……あの女神さん? …最初からちょっと違和感があったっていうか…その――……気付いたら、ずっとあなたばかり見てるんです」

「……は?」

「ミクル! 早く戻んなさいよ!」

「う、うん! じゃ、すみませんでした…また今度」



 最後に無茶苦茶気になる事だけ言って彼女らは俺から去って行ってしまった。



 俺は恐る恐る壇上へと顔を向けると…。


 そこには欠伸で出た涙を拭きとった直後であろう女神ヘレスが俺の視線に気付いたのか、ニヘラァ…とコッチに向って微笑み掛けてくる姿があった。



 …俺は無言で視線を逸らすしかできなかった。



 「ふ~む。勇者カイドウがまだですね?」


 

  結局、カイドウの奴は始業前にホームルームの時間(十五分前)になっても姿を現さないでいた。

 俺も含めた他の面子もまた意外にも大人しく自分達の異世界ゲート?前に立って待機している。

 ここの場面だけ見れば、ちゃんと真面目に働いているようにも思える。

 

 その実、命掛けの強制的異世界への出向業務ですけどね?



「では……ほいっと!」

「うわぁー」

「おぉ~…! こんな感じで転送?されてくんのな…」



 一瞬ピカッと部屋内が輝くと、俺の隣には動揺した様子のチャラ男が尻もちをついてやがった。



「な~にしてたんだよお前は?」

「あ! タネっち! ちょ聞いてよぉ? 俺の親父と姉貴がさあ~俺がいざ金を稼いで家に帰ったら…“ろくに働いたこともないくせにこの金はどうした!”って責めらてさあ~? すわ盗んだの何だので…今まで部屋に軟禁されてたんだよぉ~! 酷くない?」

「…なんか呆れたわ」



 まだ、カイドウが俺に縋りついてギャーギャー煩いが壇上の雇い主が手をパンパンと鳴らせば嫌でも静かになるもんだ。


 そこで、今回のノルマ(※アプリのクエストボードに反映)が発表されると、あんだけ不満タラタラだったカイドウの奴がいわゆるテンアゲ状態になってうざくなりやがった。


 だが、その初ノルマに対する反応にはだいぶ差があるようだったぜ。


 特に、後ろの学生三人組からは「終わった」だの「どうすんだよ!?」とか騒いで紛糾している。


 隣のルリちゃんや、さっき自己紹介?を終えた姉妹のミクルの表情は晴れないように見える。


 正直…俺もこのノルマは厳しいものだった。


 だが、やるしかないだろう。

 もうかなりヤケクソだが。



  (‥)



 目を開けると、見知らぬ天井が…いや、既に俺は知っている。

 この牢屋めいた空間と、この鼻腔を擽るハーブの香りに獣臭……。



「やあ、サンチョさん。おはよう。…夜中にだいぶうなされてたみたいだけど、大丈夫かい?」

「……フゥー。…ああ、おはようさん。俺は…まあ、大丈夫だよ」



 俺はまたこの世界へと戻ってきてしまったようだ。

 そして、コッチは俺が現実世界へと帰っていった時間から引き継がれているようで、俺がこの異世界から三日間消えていたことなぞ知る由もないんだろう。



 最早慣れつつある獣人農奴隷達との朝食と畑仕事を終えたタイミングで、目の覚めるような赤い髪を持つ少女ともう一人、見覚えのある人物が俺の元を訪れた。



 かくいう俺も準備も覚悟も既に出来ている。



「サンチョさん、気を付けてね」

「ああ、ソッカイさん。ありがとう。まあ、大きな怪我はしないように頑張ってくるわ」



 それは帰還前に既に取り決められていたことだった。

 予期せず今回のノルマ達成には必要不可欠なものとなったのが功を奏したな。


 だが、このメタボな俺には相当堪えることになるだろうなぁ~…。



 …そして、地獄のような三日間が過ぎ去り。



 俺は現在、ミルファの街の北門を潜っていた。

 視界の先には未だ未開が残る大地がただ、広がっている…。


 そんな俺の前後には晴れて仲間・・となった魔法戦士アベル、獣戦士ガーデニア、神官ナセル、魔法使いギルスの姿もある。



 そして、俺の手にはかつて手にしても理不尽に弾かれた…あの女神ヘレスから与えられていた青銅の剣が握られているのだった…。



  (種)



 ▼勇者タネモト▼


 ▶レベル:2   EXP:▯▯▯▯▯▯▯▯▯▯

 ▶アーキタイプ:戦士

 ▶身分:オツベル家の召使い・ミルファの冒険者‐等級・銅の無星

 ▶称号:狼族の情夫、赤髪の乙女・オールドルーキー

 ▶HP:25   MP:0

 ▶所持金:1ゴールド、62シルバー

 ▶攻撃力:10  >付与:無し  

 ▶防御力:5   >耐性:無し

 ▶筋肉:F+

 ▶敏捷:F

 ▶魔力:F-

 ▶精神:F-

 ▶知識:17

 ▶状態異常:無し


 E:ブロンズソード

 E:パデッドアーマー

   クロース

   治癒のポーション+1

   ――――――――

   ――――――――

   ――――――――

   ――――――――


 勇者タネモト◀スキル・カスタマイズ


 【種男】Lv2     〔戦士〕Lv0

 〔従者〕Lv0     〔片手剣〕Lv0

 〔植物学〕Lv2    〔畑〕Lv1

 〔家庭料理〕Lv1   〔性交渉〕Lv0

 〔 - 〕      〔 - 〕


  ==残り予備スキル枠:10==


 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕


 *種メイカー最大使用回数:3回(スキルレベル+1)

 *ドロップアイテムにスキルレベルに応じた種アイテムが追加

 *????


 ▼クエストボード▼

  業務期日(3/7)


 ==今回のノルマ==

 

 ●モンスターを5体倒せ!

  (0/5)

 ▶達成報酬:3ゴールド


 ==ペナルティ==


 ●達成報酬無しの上、カウントはリセット。

  次回のノルマへ持ち越し。


 ==現在進行中のイベント==


 ●ミルファ近郊北部のゴブリン討伐依頼

  (参加中のパーティ:赤髪の乙女)

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