RP~召使いサンチョ~ Part.1



「おはよう! サンチョ・・・・さん!」

「改めて今日からよろしくな! サンチョ・・・・

「………よろしくお願いします<(_ _)>」



 微妙な朝の起床と共に俺は牢屋めいた自室から出ると、即座に周囲からフレンドリーに声を掛けられる。


 彼らはいわゆる……なんだ? 仕事仲間か?

 まあ、もう仲間で良いだろう。



 一応…彼らは奴隷・・身分の獣人達なんだが。



「さあ、朝飯だぞ」

「…サンチョさんは食べられるものだけ食べてね?」

「ああ…はい」



 全員(俺も含めて)十三人…なんか縁起悪い数だがワイワイとさして広くない広間に集まって朝食をとる流れに。


 こじゃれた椅子やテーブルなんぞねえっ。

 あるのは冷たい石床と竈のみ。

 地べたに座り込んで車座になってのモーニングですよ。

 まあ、ちゃんとその床は彼らが随時清掃して綺麗だったからそこまで思うこともない。

 床が硬くて痔持ちならば悲鳴を上げるところだろうが、むしろ土くれが剥き出しになってるような場所でないことに俺は感謝すべきだろうなあ。

 おっと、因みに俺は痔じゃないぞ?

 仮にそうだったらウォッシュレットも水洗トイレも(多分)無いこの異世界は地獄だろうぜ。

 


 今朝の献立は塩漬けベリーと穀物のお粥、それと彼らの主食である謎の食い物。

 

 お粥の中に色とりどりのベリー(ブルーベリーとか木苺っぽいの)が入っているのにはちょっと驚いたが…確か、外国圏じゃ割とポピュラーだったような気がする。

 俺でも喰えそうなので有り難く頂きます。


 …………。


 うん、甘じょっぺえ…塩味が八の甘味が二かそれ以下くらいの味だな。

 そもそも砂糖が入ってないからこんなもんかもしれん。

 他の異世界を舞台とする作品群に漏れず、この異世界においても砂糖は大変高価な品だそうですよ?

 現実世界から砂糖持ち込めるんならスローライフ希望の商人系主人公になれちゃうかも。


「ぐぐぐっ……!? ダメだコリャ。歯が抜けそうになんなコレ……本当に食べれるのか?」

「ハハハ。この芋老人は流石に人間の顎じゃキツイよ」

「僕達には十分美味いんだけどなあ~」



 謎の食い物ことその名を芋老人。

 見た目は厚めの干し芋だ。

 しかもその名前の由来は、硬過ぎて無理に食いちぎらんとすると歯が持ってかれて老人の如き歯並びになりかねないという……異世界産の凶悪なお芋さんである。



「普通は煮詰めて粉にしたものを砂糖の代用品として使うものだから」

「獣人の顎エグイな。というか煮たりしないの?」

「煮たら甘味と旨味が全部湯の中に出ちゃうんだよ」

「そのお湯を煮詰めて加工品にするらしいぜ」

「一回、煮た後の芋が勿体ないからって食べたけど…」

「ありゃあ不味かったよなあ~」

「うんうん。あ。というか煮た後も硬さ自体は殆ど変わらないから…ただ不味くなるだけだよ?」

「…どんな強靭な繊維質してんだよ、この芋」



 俺の歯型すらほぼ残させない芋老人に戦慄し、そんな俺を見た周囲は笑う。

 なんだかんだ皆して良い奴ばっかっぽいんだよなあ…う~ん、奴隷ねえ。

 もっとこう凄惨なものを想像してたんだが。



「(ぴくぴくっ)…ん?」

「どったの?」

「どうやらお嬢様がお見えになったみたいだ」



 頭上の丸い耳を動かしながら出入り口の方を見たのは俺の隣にいるソッカイさんだ。



 彼はコディアックヒグマである。



 …あ、ちょっと説明を省き過ぎましたすみません。

 彼の名はソッカイ。

 この場に居るオツベル子爵家の農奴隷(この異世界での農業労働に従事する奴隷のことね)を纏める布の服を着たコディアックヒグマである。


 え? コディアックヒグマて何だって?

 そんなん自分でググれと言いたいとこだけど…そうだなあ、所詮イメージでしかないが北海道のクマといえばヒグマ。

 アメリカならグリズリー。

 オーロラで有名なアラスカ半島ならコディアックヒグマだ。

 それ以外に説明の仕様がないんだから仕方ないじゃないか!(逆ギレ)


 あと兎に角デカイです。

 立ち上がると天上すれすれの二メートル半くらいの巨体だったわ。


 けどそんな見た目なのに滅茶苦茶……優しぃんだよなあ。

 童話の世界からやってきちゃったのかな?



「先ず、君に用があるんだろう。さて、僕達も仕事に出ようか」



  (‥)



「おはよう! サンチョ・・・・

「…おはようございます、アベルカイン様。……あれ?」

「むぅ…」

「お、お嬢様…?」

「……まあ、いいだろう。好きに呼べと言ったのはオレだしな」



 相変わらず目に痛いくらいの鮮やかな赤髪(今朝は下ろしてらっしゃる。ソッチの方が可愛い気がすっけど?)が朝の陽に煌めかせるは、俺の第二の雇い主・・・らしいミルファの代官オツベル子爵家の御息女であらせられるアベルカイン・ヴァーリス・オツベル嬢です。


 てか、寝間着パジャマじゃん。

 冒険者時の恰好よりも数倍ロリ感がマシマシだわぁ~。


 あと今更だが、もう俺の渾名サンチョ呼びは決定事項らしいね?


 というかソッカイ達は俺の名前をガチでサンチョだと思ってんね。


 まあ、別にもうそれはそれで、いいんだけどもさあ…だが、昨夜一晩考えたじゃないか。



 俺は暫くの異世界生活の基礎が定まるまでこの就職チャンスビックウェーブに全力で乗っかるってなあ…ッ!



「今日一日はここの暮らしに慣れて貰う。明日はギルドに向かうぞ! ランハートに詫びさせる為にな! だが、暫くお前をこのオツベル子爵家の敷地で預かる以上……タダ飯喰らいにさせておくほど、オレは甘くない。よって、基本朝から昼までは我が家の農園にて働いて貰うぞ!」

「はい! ありがとうございます!」

「フフン。お前には特別に一反(屋内プールくらいの広さ)の土地をくれてやろう! 畑仕事はソッカイに教えて貰うといい。頼んだぞ、ソッカイ?」

「喜んで、お嬢様」

「うへへはへぁ!! このサンチョ、お嬢様に拾って頂いた恩を少しでも返すべく精進いたしますですぅ!」

「わはは。そうかそうか!」



 俺は全力で感謝を表すべくアベル嬢の前に我が身を放り出してのたうち回った。


 隣に居たソッカイさんがドン引きしているようだが、少なくとも雇用主の機嫌はとれたようなので…少しメンタルの最大値が削れたが、良しとしよう。



 その日はソッカイ達獣人に混じって土いじりをして終わったよ。

 たまにアベル嬢たちが覗きにきたりもしたが特に問題なかった…と思うよ?



 さて、どうしてこんなことになってしまったのか…。

 半日ほど時間を遡るとしよう。



 そう、アレはオーガーズに俺が宿屋で逆ナンされていた時のことだった……。



  (‥)



「待ちなっ!」



 俺を宿屋から連れ出そうとする四人を鉄兜に金属性マイクロビキニの女戦士が止めに入る。

 いやぁ~実に人気が出そうなMODじゃないか(呑気)



「アタイらを銀星二つのオーガーズと知っての横取りかい? そっちは確かまだ銅星三つかそこらのヒヨッコパーティだろ」

「四つだ。仲間のレベルさえ上がれば五つ…そしてすぐにでも銀星に昇級できる」

「フン! ゴブリン相手にでも負けちまいそうなモヤシを二人も連れてよく言うね」

「なにぉ? オレの仲間を馬鹿にするのか」



 オーガーズの俺に声を掛けてきた女と火の玉ヘアガールとの間でバチバチと火花が散っている。


 いや、実は表現じゃなくてガチで散っている。



「ちょいと! うちの宿の中で魔力のぶつけ合いなんてやめておくれよ!?」



 俺と筋肉女との4Pを奨めてきやがった宿の女将が悲鳴を上げている。


 そして、圧倒的にロリは筋肉量と身長差で負けとるぞい。



「…オッサンを譲る気はないけど。もう止めときなよ、お嬢もさ? コイツ等、銀星ってのもあるけど恐らく剛力・・の薄血だよぉ~? 魔法抜きだと私らじゃ太刀打ちできないって。ね?」

「む…」

「フン。薄血で悪かったな、ラウルフ」



 取り敢えずリアル視線火花バチバチは止めてくれたみたいだ。

 だが、また出たな薄血……それにゴーリキ?ってのも初耳だな。


 ……上手く鑑定できっか判らんが。



 カシャー。


 俺は両陣の視線から逸れたことをいいことに筋肉の方を盗撮…じゃない、鑑定アプリを使用してみた。



 ▼巨躯ストロベリー▼


 ▶レベル:9  EXP:?

 ▶アーキタイプ:魔法使い(パワード)

 ▶身分:ミルファの冒険者‐等級・銀星二つ

 ▶称号:オーガーズの綺羅星

 ▶HP:???? MP:????


 ▶攻撃力:??? >付与:不明  

 ▶防御力:??? >耐性:不明

 ▶筋肉:A

 ▶敏捷:C-

 ▶魔力:B-

 ▶精神:C-

 ▶信頼関係:下心有り

 ▶状態異常:無し



 ――げっ!? 割かしガチで強いんじゃねーか?


 しかもそんな見た目で魔法使いじゃねーか!? マジか!?


 肝心のHPやらMPの鑑定は失敗しちまったようだが…レベルは9か。

 ルッツよりは下だが、タムやニコちゃんよりは高い…。

 だが、一番ヤバイのは……筋肉の値がルッツと同じAだってことだな。

 そりゃあんだけ育ってればなあ…さっきもめっちゃキレてた・・・・もん。


 つうか、脳筋の魔法使いほど怖いもんねーから!


 あと、名前可愛いな!?



 巨躯ストロベリー◀スキル


 〔魔法使い〕Lv5   〔戦士〕Lv7

 〔マーシャルアーツ〕Lv?   〔治癒〕Lv?

 〔強化〕Lv?



 スキルもなんかヤベェ!?

 いやいや、〔マーシャルアーツ〕って何だよ!?

 というか自身のアーキタイプの〔魔法使い〕より〔戦士〕のスキルレベルが高いってどういうことなの?

 しかも後半の〔治癒〕と〔強化〕ってヤツがいわゆる魔法使いに必須の属性スキルらしいが…どう考えても性質の悪い肉弾系魔法使いというか、彼女こそが真の魔法戦士なんじゃ?と思えてならん構成具合だった。

 寧ろ、ヒーラーもできるタンクとかちょっと強過ぎません?

 


 赤髪ロリの方は鑑定してないけど、先ずこのストロベリーさんと喧嘩して勝てる気がしないですね、はい。



「だがなあ、幾ら…アンタがこの街の代官様の娘だからってなあ…!」

「や、止めなよ。相手は冒険者じゃ格下でも貴族なんだぞ? クランも見てないでさあ」

「放せよ、ラズ」



 ほう。何とこのロリ…じゃなかったレディーは良いとこのお嬢様らしいですよ?

 鼻息の荒いストロベリーちゃんを他の二人が羽交い絞めにしてる感じからしてガチっぽいぞ。

 というかラズにクランね。

 きっと、二人もラズベリーとかクランベリーとか可愛い名前なんだろう。



「けどなあ! こんな良い男をそう簡単にこんなチビにくれてやれってのかいっ?」

「ち、チビだとぉ!? オレはもう十六だぞ!」



 ええっ!? ……小学高学年くらいかと思ってたわあ。



「だったらアタイらよりもひとつ上・・・・なだけじゃないか!? このチビ助が! 貴族の癖に冒険者の真似なんかしやがって!」

「に、二度も…!? 丸焼きにしてやるぅ~!」

「ちょちょちょステイステイ!? そんなことしたら勘当どころじゃ済まないよぉ~!」



 ええっ!? コッチはコッチで中三十五かあぃ!?

 そんな齢でこんなオッサンなんぞナンパすんじゃねー!

 異世界だからって見境なさ過ぎィー!



 ……だが、このままでは本当に殴り合い(最悪、燃やし合い)になってしまう。

 止めて! こんなオッサンを巡ってコレ以上争わないでっ!(涙)


 とりま、ここは男も居る(謎の安心感)四人組の彼らの方についていってみるか。


 俺はさくっと仲裁すべく、両者の間に割って入るとストロベリーちゃんの顔を見やる。



「ええと…ストロベリー、さん?」

「えっ。アタイ…アンタにその……名乗ってたっけ?」



 あ゛っ(※迂闊ムーブ)



「い、いえ。実は他の宿であなたのことは耳にしてましてね? その…将来有望株の優秀な冒険者だってね。そうでしょう? ……“オーガーズの綺羅星”さん?」

「……っ!? えへっ…エヘヘヘ? そっ、そっかなあ~?(*^^* ;)」



 俺がそう言ったことが彼女にとって余程嬉しいことだったのか。

 一瞬で怒りは霧散し、デレっとした表情になった。

 ふぅ…危ねぇ、危ねぇ~。


 …………。

 だが、その怒りとは別の赤味を帯びた顔は年齢相応に幼く見えてしまい。

 こう…なんだろう…俺の心の中の庇護欲?にグッとくるもんがあるなあ。


 まあ、どう考えても現実俺が庇護される方ですけどねー。



「実は私も早く言えば良かったんですが…彼らとの先約は本当でしてね」

「うっ…そ、そうか…アンタがそう言うんなら…仕方、ない…な?」



 彼女は俺に向って手を一瞬伸ばすが、途中で停めて宙ぶらりんになる。


 あ~いけません、そんな可愛くションボリするのは俺に効く・・



「……また、機会があったら。その時は冒険の話でも聞かせて下さいね」

「っ!?」



 俺は親愛の意味も込めて彼女の空を漂っていた寂し気な右手を両手で握ってしまっていた。


 まあ、こんなオッサン純度百パーセントの俺から手をニギニギされたりなんかしたら、現実世界なら即痴漢案件で俺は豚箱行きの所業であろう。


 だが、何分俺もその辺のスキンシップについてはルッツに鍛えられてっから。



「では、行きましょうか? 皆さん」

「おおぅ…」

「す、凄いものを見たような気がしますが」

「オッサン、私の手も握って…」

「やめんかっ!」



 俺は震えて顔を真っ赤にコクコクと機械のように頷く彼女と別れ、四人のティーンズに加わって宿を出ることに。

 だが、彼らの反応は微妙であった。



「あっ!?」

「狡ぃぞ! アタイにも触らせてよ!」

「うぉい!? うちの部屋のドアを蹴破ろーとすんじゃねぇこのデカブツ共!」



 未だ騒がしい宿の方では先程のストロベリーが逃げるように部屋に籠り、それを追う二人とあの女将が何やらバタドタ騒いでいるようだが……まさか、オッサンに握手されたのが気持ち悪過ぎて泣いちゃったんだろうか?


 だとしたら悪いことをしてしまったし……俺もそれなりに凹むんですよ?



 で、結局このティーンズ達は俺をどこに連れてく気だ?


 聞けば、彼らは等級・銅星四つの新進気鋭(あくまでも自称)の冒険者パーティ“赤髪の乙女”であるらしい。

 って、そのパーティ名は些かワンマンが過ぎるのでは?といった視線を一応は先頭を行くロリに向けておく。

 だって赤髪なんてこの合法ロリ・オンリーであるからな。


 その合法ロリこと魔法戦士の少女アベルがこのパーティのリーダーなんだと。

 そして見た目は高校一年生くらいの栗毛で小綺麗な恰好をした少年がナセルで、修行中の見習い神官だそうだ。

 僧侶かヒーラー枠かね?

 アベル嬢ほどではないが背の低いもうひとりの少年は同じく見習いの魔法使いで、名前はギルスだそうだ。

 して最後のメンバーである獣人…ラウルフの彼女が石弓クロスボウ射手のガーデニア。

 …ガーデニア? はて? どこかで聞いたような気もするが…まあ、その内思い出すこともあるかもしれんし、思い出さなかったらそれはそれで大したことではないということだ。

 というか彼女はやたら俺に引っ付こうとするので、数百メートル歩く毎にアベル嬢と清廉な精神の持ち主であるナセルに追い払われていた。

 

 なんだろ? もう例の月の期間は終わったはずだが…俺は獣人からやたらモテる体質かなんかなのかね?



「コイツは特別淫乱なだけだ。獣人の抗薬も本当に効いてるのかどうやら…。今後何かされたら、すぐオレに助けを求めるんだぞ? いいな」

「ちょっ酷くなぁ~い?」

「「酷くはない(ありません)」」



 どうやら親交深い仲間であってもその点で彼女を庇う者はいないようだった。


 そんな楽し気な簡単な自己紹介をしながら夜の街を暫く歩くと、えらく長く続く胸壁と堀に囲われた場所に着く。


 ……ん? なんだこの奥に屋敷が見える馬鹿広い場所は?



「戻ったぞ!」

「お帰りなさいませ。…当主様が不在であるからと、このような夜分まで外出されておられるのは如何かと思いますよ?」

「わかっておる! …今日は……客をひとり連れているのでな」

「はあ…お客様?」



 門番らしき武装した中年女性がアベル嬢の後ろに続く俺達を見やる。

 はへぇ~…マジでお嬢だったんだなあ~…確か代官の娘とかって酒場で言われたもんなあ。


 そして、門番さんが俺を見つけてしまう。

 まあ隠れてもない(サイズ的に隠れようがねえ)けども。



「アベル様」

「な、何だ」

「………コソコソ(処女を御捨てになりたい気持ちは痛感の至りでございますが、なれば出先の宿でこっそりと済ませれば良かったのではありませんか? 流石に敷地内に種商売の者を入れるのは如何かと。…その、子爵家にお仕えする者もそれなりに妙齢の女はおおございますよ? 取り合いに等なるのでは…)」

「ちぃ違うわああああ!? この馬鹿者っ! 早く通さんかあ!!」



 ……え? 揉め事?

 大丈夫かなあ。



 こうして、俺は何の因果か来訪初日でその街の代官様お偉いさんの敷地に足を踏み入れたのだった。



「行く当てが無いのなら、どうだ? 暫く我が子爵家に世話になる気はないか?」

「え!? マジで…ううんっ! ……本当によろしいのですか? 私のような卑しい者を子爵様の在所などに入れてしまっても…」

「……気持ち悪いほど腰の低い男だな? まあ、アズマ人にだって色々あるんだろうから、オレは無用な詮索はしない。我が母は現在ミルファを離れているが、数日の内には帰られる。だが、路頭に迷う男を助けたとてそれを謗るような方ではない。安心するといい」

「は、はあ」



 むむむ…親御さんの許可もなく彼女の独断専行ってのはちょっと気に掛かるが。

 少なくとも現実世界に帰還するまで屋根の下で寝ることができそうだな。



「さて、今日はもうだいぶ夜も更けた。もう休もう。…さて、どこに泊めたものかな」

「あ! 私の部屋でどうですかぁ!」

「「却下だ(ですね)」」

「くぅ~ん…」



 くぅ~ん…じゃねえよこの発情ラウルフめ。


 どうやら、彼女はこの子爵家に下宿…いや、実はこのアベル嬢の護衛だったりすんのかもしれんなあ。

 男性陣ふたりはここから少し歩いた所にある孤児院の出身で、基本寝泊まりするのもそこらしいね。



「仕方ない…おお~い! ソッカイ、起きているか!」



 敷地というか、庭から続くかなり広い農園らしき場所を横切った俺達一行を引き連れたアベル嬢が石造り建物に向って大声を上げた。

 おいおい…もう深夜帯だろうにご近所迷惑なんじゃ……と、思ったけどこの広さなら問題ないかも。



「お嬢様? こんな夜更けにどうされましたか?」

「おおぃ!?」



 流石にここ何日か異世界の洗礼に耐えてきた俺でも逃げ腰にならざるを得なかった。


 優し気な男の声の返事にやや安堵した瞬間に登場したのは布の服を装備した巨大熊だったからだ。

 見た目は完全に巣穴から這い出てて来たヒグマ……なんだっけ? ああそうだ、コディアックヒグマってヤツだコイツ!

 リアル豪傑熊だぞ!?



「安心して下さい。彼はとても優しい方ですから」

「へっ…ああ、それは失礼した」

「はは。気にしないで。僕達ウルスラを初めて見る人の反応は皆そうだから」

「起こして悪いな。今夜から暫く面倒を見て欲しい者が……そう言えば、まだ名前を聞いてなかったな」

「あ。そういえば…」



 そういやそうだったわ。

 ギルドでも俺は単なる逆走オジサンだったしなあ。



「私はシドと言います。今後ともよろしくお願いいたします」

「…………」

「…? あ、あのぉ…」

「…………」



 何故か目の前の赤髪ロリの様子がおかしい。

 どったの?



「シド……カッコイイな。気に入らん」

「へ?」



 え。まさかの名前の方にダメ出しですか…?



「……うん。決めた。その名前は気に入らんから、お前は今日からサンチョ・・・・だ!」



  (種)



 ▼勇者タネモト▼


 ▶レベル:1   EXP:▮▮▮▮▮▯▯▯▯▯

 ▶アーキタイプ:戦士

 ▶身分:オツベル子爵家・居候

 ▶称号:狼族の情夫、召使い

 ▶HP:15   MP:0

 ▶所持金:62シルバー

 ▶攻撃力:0   >付与:無し  

 ▶防御力:1   >耐性:無し

 ▶筋肉:F

 ▶敏捷:F-

 ▶魔力:F-

 ▶精神:F-

 ▶知識:17

 ▶状態異常:無し


 E:クロース

   ――――――――

   ――――――――

   ――――――――

   ――――――――

   ――――――――

   ――――――――

   ――――――――


 勇者タネモト◀スキル・カスタマイズ


 【種男】Lv1     〔従者〕Lv0

 〔植物学〕Lv1    〔畑〕Lv0

 〔性交渉〕Lv0    〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕


  ==残り予備スキル枠:10==


 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕

 〔 - 〕      〔 - 〕


 *種メイカー最大使用回数:2回(スキルレベル+1)

 *ドロップアイテムにスキルレベルに応じた種アイテムが追加

 *????


 ▼クエストボード▼


 ==今回のノルマ==


 ●今回は試用期間につき、兎に角頑張って七日間生き延びよう!

  (6/7)

 ▶達成報酬:1ゴールド


 ==ペナルティ==


 ●テスター業務の終了。

  (※なお、報酬は発生しません。)


 ==現在進行中のイベント==


 ●特に無し

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