獣人達との旅~異世界初夜
こうして、俺の長い長い(※七日間です)異世界探究の旅が始まった――
が。三時間で俺の心は折れてしまった。
いや、運動不足で最近メタボ傾向の俺にしては頑張ったぞ?
舗装されてなどいようはずもないデコボコ、アップダウンだらけの地面ばかりの森の中を進むだけでも大変なことなんですよ?
しかも、俺。
あの女神の勝手な嗜好を強いられて、スニーカーじゃなくてサンダル(ローマ風の粗いつくりで履くのも面倒なタイプ)だよ?
足の指が痛ぇのなんのって…。
せめて、ブーツか何かにしてくれよ?
…ん? カイドウ達は普通にブーツだったような気がするんだが…?
おいおい、またイジメか?
イジメ、カッコ悪い。
まあ、俺の前後にいる彼女らに至っては裸足なのでそう弱音を吐けるわけもなく。
ただ、俺が休憩を要求するとルッツはすんなりと承諾してくれた。
…え? 優しい(トゥンク※本日二度目)
てっきり「ニンゲン雑魚乙」くらい言われるかと思ってたんだが。
なんか…山賊山賊言ってスイマセンした。
ちょっと進んだ先にある開けた場所が本日のキャンプ地となった。
(‥)
「チガゥ」
「あ痛っ!?」
俺が
野営の準備が始まると、最低限の荷物しか持たない主義の彼女達は早速現地調達を敢行する。
ルッツとタム(正確にはトァムだが、俺には発音が難しくてこう呼ばせて貰っている)は今夜の肉を狩りに出掛けた。
対して、居残り組の俺とニコちゃん(同じく正確にはニゥコだが、以下同分)は近場で山菜獲りに興じている。
ちゃん呼びしているが、彼女は三人の中では一番背が高いスーパーモデル体型だ。
タッパだけはある俺よりも拳一つ分は高そうなので、百九十前後あるやもだな。
……コヨーテの獣人らしいが、コヨーテってそんなデカイ生き物だったっけ?
「ドク・ドク・クエル・ドク・クエナイ・ドク・シヌ・クエル・マズイ・ドク・ドク・クエル・ドク・ドク」
「…………」
俺が適当に掻き集めてきた山菜らしき植物の選別をご教授頂いている訳だ。
だが、残念なことに彼女もタムもルッツほど言葉が流暢ではない様子…。
取り敢えず、「シヌ」と真顔(今のとこ彼女はそれがデフォだが)でニコちゃんがそう指差したものだけは覚えておこう。
てか、毒多くね?
まあ…その辺は俺の世界でも同じようなもんか…。
俺は本日何度か目になる選別作業で喰える・喰えないものに分ける。
「(分け分け…)……こんなもん?」
「チッガ(べちんっ)」
「あうちっ!?(※痛い)」
また引っ叩かれた。
オッサン泣きそうになるよ?
『ピコーン♪』
…ん?
何だ今の判り易ぅ~いSEは?
*新たなスキルを習得しました!*
*〔植物学〕が自動的に装備スロットに追加されます*
「んお!?」
「っ(ビクッ)」
音の出所である取り出したスマホモドキに表示された文字を見て俺は驚愕する。
新スキルだとぉ!?
勇者タネモト◀スキル・カスタマイズ
【種男】Lv0 〔植物学〕Lv0
〔 - 〕 〔 - 〕
〔 - 〕 〔 - 〕
〔 - 〕 〔 - 〕
〔 - 〕 〔 - 〕
==残り予備スキル枠:10==
〔 - 〕 〔 - 〕
〔 - 〕 〔 - 〕
〔 - 〕 〔 - 〕
〔 - 〕 〔 - 〕
〔 - 〕 〔 - 〕
「…植物学? なんでまた。…いや、俺が今教わったから、か…!」
俺は再度スマホモドキを選別中の山菜(※推定。色がカラフル過ぎて食い物に見えねーよ)に向けて鑑定アプリのシャッターを切る。
雑草・雑草・野草・雑草・薬草・雑草・毒草・香草・薬草・雑草・雑草・野草・雑草・雑草……――おおっ!?
ついさっきまで“草”オンリーの鑑定結果にこれだけの変化が!
…まあ、結局“草”なんだけども。
だだ、致命的な毒草とやらが見分けられるようになったのは大きいぞ。
てか、現在のスキルレベルが0なら…レベルさえ上げればもっと鑑定結果が詳細に判るようになるかもしれん。
「なあなあ! ニコちゃん。俺にもっと植物について詳しく教えてくれっ!」
「……ン」
俺は年甲斐にもなく、隣にしゃがむケモ耳少女(ルッツとはまた別タイプの美人)に逸る気持ちを抑え切れずにそうせがんだ。
彼女は暫くしかめっ面をしていたが――
「ヤ」
「…………」
バッサと断られてしもうた……。
ニコちゃんは俺からプイと顔を逸らすと、ザカザカと鑑定結果が野草・薬草・香草だったものだけ即興の網籠に掻き集めて立ち上がると尻尾をブンブン振り回して俺の頬を払いながら去って行ってしまった。
…いかん。
そりゃあ初対面同様のオッサンから急に顔近づけられたら、世界・異世界共通でキモがられて当然だわ。
ああ、どうして俺は爽やかなイケメン王子ではないのか…と、世界と女神ヘレスを呪いながら俺も「よっこいしょういち」と立ち上がった。
…あ。ちゃんと俺を待っててくれてたわ。
ニコちゃん割とクーデレ系なんかな?
(‥)
「みゅぎゅわあああ~~!?」
「シド。喜ベ。肉が獲れタゾ( *^^)b」
「ン!(`ー´)」
「……なぁ~にそれぇ~( ゚Д゚)」
焚火(※無論、ニコちゃんが全部やってくれました)の前で山菜らしきものの下拵え(※俺は見てただけですね、はい)をしていた俺とニコちゃんが出迎えたルッツは満面の笑み(※犬歯剥き出し)で何かの首根っこを捕まえて引き摺っていた。
おいおい…さっきも見たわこの光景…。
「げっ…人面…鳥!? ハーピーってヤツか?」
身体はデカイ鳥っていうか鷲かなあ…?
まあワシなんてそうそうジックリ実物を見たことねえから判らんけど。
そんなことより問題は頭が人間そっくりってことだろ!
長い白髭に禿げ上がった人間の老人の頭が鳥の胴体から生えている。
こんな悍ましいクリーチャーまでいるのかよ…こんなもん創造するなんて、あの女神マジで趣味がよろしくないな。
「プフッ…そんな事ヲ言うとトリオンナ共が怒り狂ウゾ? アイツらはメスしかイナイ。コイツはフラッターってイウ魔物の一種ダ」
「みゅぎゅわあ~~みぎゅ…ギュボボボ!」
「そうなの…?」
「あア。長く生キルホド狡賢くナル。言葉も喋レルようになっタリ、呪文も使ウゾ」
マジかぁ~。
…てか、転移直後に聞こえてきたあの気色悪い鳴き声ってコイツじゃねーの?
ヤっバイわぁ~…マジでこの異世界……。
「ダガ、コイツは見てクレダケダ。まダ若い個体だっタンダロウ」
「ジジイの禿げ頭で若いとは……これ如何に?」
「ツイテルナ。老鳥と違ッテ肉が柔らカイ( ^^ )」
「ギュボボボボ――ギョホォ!?」
「…おぅふ( - -)」
本日三度目の首チョンでした。
ゴトンッ。
「はあ?」
俺は目の前の光景に思わず声が出ちまった。
人面鳥が息絶えると共に――その傍らに降って湧いたかのような鉄の箱が出現したからだ。
だが、動揺しているのは当然のように俺のみ。
ルッツは手斧の血を払うままに、その箱を足蹴にして蓋を開くと手を突っ込む。
「……チッ。ハズレダ」
そのまま箱から取り出したものを腰の下げ袋につまらなそうにズボっと突っ込んで終了。
役目を終えた鉄の箱も当然のように光に分解されて消え失せ、ルッツ達による解体が問題なく俺の前で始まってしまった…。
あの箱…恐らくドロップアイテムの演出とかなんだろう。
「えぇ~…そんなとこだけゲームっぽい仕様なのかよ…」
「…? 何を言っテル? 腹が減っタノカ? 少し待ッテロ…。ニゥコも手伝エ」
(‥)
ルッツが俺の前で獲物の屠殺ショーを行った理由だが、それはなるべく調理する寸前で〆る必要性があったからだそうだぞ?
何でもこのリアルハゲワシには毒があるらしく……ってそんなもん端から喰うなって話だが、獣人は特に問題なく食せるそうで。
有難いことに脆弱な人間たる俺への配慮だそうでして。
死ぬと無毒な肉の部位まで毒が回ってしまうらしく、その為の処置だったそうな。
「……美味い!?」
「フフフ……そうカ、そうカ…」
「「…………」」
日が暮れて鬱蒼とした森の闇に囲われながら、俺達は夕食であるあの……いや、肉が不味くなるからもう焼き鳥でいいや……いや、コレは鶏肉だ!!皆もそれでいいなっ!?
…そう、焼き鳥に舌鼓を打っていた。
鶏肉ってよりはレバーに近い味がする気もするが…別に俺は孤独な(だったら今頃既に死んでたかもだが)グルメを気取るつもりは毛頭ない。
焼き鳥は香草を揉み込んだ肉と山菜を共に枝を削った串に刺して焼き、削った岩塩やら野草の実を潰したもの(胡椒っぽい?)を振って焼いたシンプルな一品。
…ルッツは柔らかいと言っていたが俺の顎だと結構硬い肉だな。
だが、目の前で骨ごと粗い部位をバリバリ噛み砕くタムとニコちゃんを目にするとそんな贅沢を言えるわけも無し。
精々、今後は歯槽膿漏とかにならないように気を付けるとしよう。
「飲メ」
「……?」
俺が二本目の串(いやでも軽くキロ越えしとる肉の量)を何とか食べ終えた俺に隣に座っていたルッツが何やらススメてくるのだ。
……酒、か?
押し付けられた瓢箪めいた容器からそこそこに高い酒精の
参ったな…俺はそこまで酒に強くない。
「いやぁ、実は俺はそんなに酒が――」
「……(スッ)」
「いただきます(真顔)」
「ン」
一瞬目を細めた彼女からの好意を断ることなぞどうして俺にできようものか。
あとアレだ。
彼女の腰には常に切れ味抜群の手斧があるのを忘れてはならない。
俺は覚悟を決めてそれを煽る。
……予想以上に発酵臭がキツイ。
果実のような甘い味もするが、特に
だってのに後味はビールのように苦い……完全に異世界の酒だな。
いや、下戸の俺が知らないだけで俺の世界にもあるかもだがな。
ルッツは俺が一口飲んだだけでは満足してくれんようで、その後にもうひと煽りするとニヤニヤしながら俺から瓢箪をひったくり自身も煽る。
そして、また俺の顔に押し付けられる。
…それが繰り返される。
正直、仮にこの飲み回しの相手がルッツのような美少女ではなくオッサンだったらゾッとするが……こうなれば致し方なし。
彼女が満足するまで付き合うしかないだろ…。
だが、気に掛かるのはタムとニコちゃんだ。
無言で俺らのやり取りをむっつりと黙って見ているだけ…気になるわぁ~。
てか、ルッツは彼女らに酒をやらんのかね?
俺が何とか三本目の串を平らげたとこで瓢箪の中身が空になったようでこれにて晩餐は御開きになったようだ…うぷっ。
てか、よくアレだけの肉をペロリと食えるな。
彼女らは俺が喰った量の三倍+俺が喰えない部位を平然と食べきっていたぜ。
…恐るべし獣人。
「……良シ。…トァム。ニゥコ。行っテコイ」
「「…………」」
「…?」
暫し、ルッツに対してジト目を浴びせた二人だが…最後に俺をチラチラ見た後、左右の森の中へと入っていく。
心なしか、尻尾がションボリと下がっていた気もするが…まあ、俺の気のせいか?
「さテ。シド……
「ん? ああ、もう寝るのね。てか…二人は?」
「…見回リダ!」
「あ。そう…」
何故かルッツの語尾が強い気がする…オラなんかちょっと怖くて動悸がすっぞ?
「てか、悪いなぁ…俺だけこんな良い物使わせて貰って?」
「イイカラッ!」
「お、おう。どうも?」
殆ど荷物を持たない彼女らが持つ唯一の品であるこの毛皮の敷物。
広さは畳二枚分ってところか。
今日からコレが俺の寝床らしい。
彼女らに悪いが…結構酔いが回ってるのもあって、俺は有難く横に――
「ナニシテル」
「はい?」
何故か止められる俺。
「……ヌゲ」
「…………はい?」
NUGE?
もしかして“脱げ”と言われたのだろうか?
この、三十路でメタボ傾向にある立派な中年男にであろうか?
「ドゥシタ! アィタ・カリハダッデ・アリキティカァ!?(※恐らく:どうした! 明日から裸で歩きたいのか!? と、言っています)」
「ひぃ!?」
いきなりどうしたってんだ!?
言葉が乱れに乱れってっぞルッツゥ!?
唯一のこの
全く以て…こんなオッサン脱がせて誰得だってんだ…。
その間、十五センチほどの距離まで迫ってきているケモ耳は激しく尻尾をブン回して涎を垂らして俺の哀愁しかないストリップをガン見している。
まさか……獣人には食人習慣があって、本日のメインデッシュが俺というオチじゃねーだろうな?
「…モウ…ガマン…デキナイッ」
「あんっ!?(悲鳴)」
完全に獣と化したルッツに俺は押し倒されてしまう。
い、いかん!? このままでは
ベロリ。
…めっちゃ舐められたんですけど?
「ハァ…ハァー…で、デハ今夜かラ…ルッツに…報酬ヲ…払う……シド、その…
「何言ってンのぉ!? お、落ち着け!? 報酬なら今払うから!? 何ならあるだけ全部でも――」
「イランッ! コンナモノッ!!(バシッ!)」
「えぇー!?」
覆い被さってきた彼女の完全に瞳孔が開いてしまっている貌に怯えた俺が必死に脱ぎ脱ぎした服のポッケから取り出した銀貨の袋が弾き飛ばされて飛んで行く。
「ハァー…ハァー…ハァー……っ!(ニチャア…)」
俺の下腹部をチラリと伺ったルッツの顔が淫靡に歪む。
恥ずかしながら、俺も怖かったんだけども…何分こんな可愛い顔した子に襲われる経験なんてないわけでしてね、はい。
些か…少なからず興奮してしまったわけでして…はい。
「力強ぇー!? あ、ダメだって!? せめて避に…――アッー!」
こうして俺の異世界の初夜は更け、俺は枕を涙で濡らしたのさ…。
え? そりゃあ濡らしたのはケモ耳美少女の逞しい腕枕ですけど何か問題ある?
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