第39話 顛末
― つまり、君はわたしが頼んでもいないのに、ミトラの王宮管理官と連絡を取って、アルシノエに臨時の私室を取り、そこで彼女に一日待ちぼうけを食わせたというんだね。
― はい、王。そのとおりです…。
しょんぼりとカルティバが答える。要はこいつは気を利かせたつもり、だったのだ。
私が成人体を得て、新生命宮に降り立った時、ひとりのミトラ人女性が出迎えに来ていて、私のための臨時の私室へ案内してくれた。その部屋にはメッセージが残されていて、あの人が手が空き次第尋ねてくるとあったのだ。
未成年の私に求婚までした人からのメッセージである。一応私も鵜吞みにしたのだ。だいたい私には学校以上の王族教育の素養がない。ずっと王宮住みであればまだあれこれ見聞きして理解することもあっただろうが、悲しいかな私は多感な10歳以降を予知能力者のエリアで暮らしてきたのである。成人したての王族がどんな待遇を受けるものかということについて、全くわけのわからないまま、ついていったというのが本当の所だ。
ところが何時間待っても何の音沙汰もない。一晩経って慣れない場所での緊張が解けた私は、退屈しのぎに当の相手を「遠見」してみた。
「遠見」というのはテレパシー接触を持たないで相手の様子を感知することだ。この接触をしないという状態をぎりぎりで保つのは結構難しいことで、下手をすると相手に気づかれる。気づかれる以前に内院のセキュリティに引っかかるという可能性も高い。王たる人を相手に遠見を仕掛けるなんていうのは、アイドルのストーカーをするようなもので、一歩間違えれば犯罪なのだ。我ながらよくやったものだと思うが、そこで見たものは当時の私には相当ショックを受けるものだった。
セレタス王は半裸で三人の女性にかしずかれながら着替えの最中だった。プライベート空間だろうに中まで入ってるってこの人たち何? しかも当のあの人は何か別のことに気を取られて目の前のことが見えていない。テレパシー能力にマルチタスクが働かないタイプの人は珍しくなく、その時のセレタス王もそんな感じだった。要は電話でしゃべりながら目的地まで歩いたり、必要な書類を探したりできるかどうかっていうことだ。他のすべてをうっちゃって静止しないと電話で話ができないというのは性分であって優劣ではないのだが、それができる私はその時点でもう、できない相手にイラっとしていた。
その時のセレタス王は(何の話をしているかはわからなかったけど)とにかくテレパシーでの会話に集中していて、着替えのほうは女たちにされるがままだった。彼女たちはそれをいいことにわざと服を脱がせてみたり、肌に触れてみたり、抱きついてみたり、中には背中にキスした者もいた。
私が一瞬で遠見を打ち切り、即慣れ親しんだ新生命宮の古い自室へ帰ったのは言うまでもなかった。もっとも理由を聞かれても言えない。言うわけにいかない。
― で、君が私に、その企みを教えてくれなかった理由はなんだったのかな。
― その、幽霊都市騒ぎが起こっていまして…。気がついたときは、ルシカ公、いえミトラ王は部屋においでにならなくて…。
私に負けないくらい内心の怒りを隠して話を聞いていたあの人が、ここで、愕然とするのがわかった。
― そうか、あのときだったか…。
― 幽霊都市ってなんですか、父上?
皇子さまだけではない。私だってそれ、知らない。コーグレス王が一瞬言いよどんだすきに、今度はアーセネイユが割り込んできた。
― お話中すみません、王。ちょっとおかしなことがわかりました。オーフ系第4惑星にリゼア系で運用しているのとは別のタイプの妙な筐があるんです。これを使って膨大な量の武器がマティに送られています!
幽霊都市とやらもカルティバ副官の失態も(ついでに言えばあの人のスキャンダルも)、全部すっとんで、話はまたマティに戻ってきた。私と、あの人と、コーグレス王が、ミトラ王宮の表の間に集まった。皇子さまは傷心のトトラナ様につきそって、キナン王宮に帰っていった。
ウロンドロスがこれまでの経緯をざっと説明する。交易都市ディクラからオーフ系第4惑星に逃亡した、私を暗殺しようとしたソル系人を、アーセネイユは再び追跡していた。驚いたことに彼らはいくつもの武器商から大量の武器を買い付けていた。もちろん例の片道だけしか使えない、廃棄されたことになっている筐で送られてくるのである。そして、それはもうひとつの、アーセネイユがいう「妙な筐」で送り出されているのだった。送り先がマティだとわかったのは偶然だった。
― 例の男が届いた荷物のコンテナのいくつかに妙な文字を書いたのです。自分の生まれ故郷の数字だと言って。で、それがつい今しがたマティにあることがわかったんです。
― マティに
と、ウロンドロスが捕捉する。まあ、彼が言うなら間違いではないのだろう。これでオーフ系第4惑星とマティで戦争を起こそうという人々とがつながっている証拠がでたわけだ。
― たしかに同じコンテナなのですね。
コーグレス王がダメ押しする。
― まちがいないです。もともと交易用文字で番号が書かれていたのですが、その末尾に手書きであの男が文字を書いたんです。そのもともとあった番号もそっくり同じでした。問題なのは…
急にアーセネイユが黙った。何か変化があったようだ。
― 何?
― あ、すみません、王。今送り出されたようです。問題なのはイクセザリアが見た時点では、まだそのコンテナはオーフ系第4惑星に存在していて、発送されてもいなかったということなんです。
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