第7話 闇にうごめく影の手

場面は変わり、森の中にいる。そこでは、朝にカイトの家に訪問した3人組が、慌てふためきながら森を駆け抜けていた。


「どうするんだ、あの女を捕まえないと、姉貴にどう報告すればいいんだよ」


身長の低い男が言った。


「オレ、アイツ、コワカッタゾ」


体の大きな男が泣きながら言った。


「そうだそうだ、そのまま言えばいいと思うぜ」


体の細い男がそう言った。


「馬鹿野郎、そんな馬鹿正直に言ってみろよ。今度こそ、俺たちの首は胴体から離れるぞ」


背の低い男がそう言いながら、顔色を失っていく。


彼らが走り続けると、目的地に到着した。見かけは崖のように見えたが、彼らが近づくと、何もない場所から扉が現れた。


「わかったか、お前たち。俺が姉貴の機嫌を取る。余計なことをすんなよ。さもないと「さもないと何があるんだい?ゴプ」


ゴプと呼ばれた男が言いながら、扉を開こうとしたとき、内側から扉が開いた。中からは、ショートジーンズとタンクトップを着た女性が現れ、右腕が義手、左目に眼帯をつけていた。


「楽しみにしてるわよ、報告」


女性の見える右目は笑っていないように見えた。


___________________________________________


「なるほど、あんたたちは辺境の村にいる青年にすら恐れをなしてしまったわけね」


女性が言った。部屋は扉の中にあり、女性はソファに座り、男三人は彼女の前に立っていた。


「まずはグレド。いつから、その筋肉を無駄にするほどの根性になったのかしら。帝国では暴君なんて言われたじゃない」


「デモ オレ 「でもはなし。その根性鍛えなおそうかしら?」


グレドと呼ばれた大男が再び泣き出してしまった。


「次にクラー。帝国では『怪盗』なんてあだ名がつくほどの窃盗犯なのに、こんなことになるのかしら。その手を切り落としてやろうか?」


クラーと呼ばれたごぼうみたいな細さの男は無言で女性をにらんだ。


「最後にゴプ。あなたには任せておけば大丈夫だろうと思っていたのに。どうしてこんな状況になったのかしら。女一人連れ去れないなんて。これからどうするつもりなの?」


「すまない、ショークの姉貴。こんなつもりじゃなかったんだ。全部あいつのせいで」


最後の背の低い男のゴプはそう言われた。


「わかる? あの女には高額な報酬と私たちの命がかかっているんだから。依頼者の命令に応えられないと、どうなると思う?」


「……檻の中に逆戻り?」


ゴプが少し考えた答えにショークは言葉を詰まらせながら


「違うわ、もし私たちがアイツを連れ戻すことができなっかったら……」


「少なくともあなたの命はないでしょうショークさん」


「「「「⁉」」」」


部屋の奥から、白い仮面をつけた男が現れた。高級そうなスーツに身を包み、アタッシュケースを持っている。


「盗み聞いていましたが、まさか失敗するとは。ショークさん、なぜあなたが行かなかったんですか?」


「性格が悪いわね。私はただ体調が悪かったから……」


「体調ですか。もしかして、以前私が渡したものが原因ですか?」


「そうよ」


ショークは左手に剣を出現させた。


「それはP.S.N.R《パーソナル》と言われるもの。20年前に終わった戦争で主に使われた武装心理学の賜物です。なぜ使わないんですか?」


「確かにこれを使ったときには、10人もの連邦保安官にも勝てるほどの力を得たけれどね。今はこれが私を飲み込むような感覚になって、かなり怖いのよ」


「10人も!それは逆に好都合。それはあなたに適合しようとしているんですよ!もしあなたが本当になら!さらなる力をそれはもたらすでしょう!今晩その力を使って、あの女を取り返して我々にあなたたちの力を証明してみてください!」


男は興奮気味にそう言った。部屋の中に男の笑い声が木霊する、その無茶ぶりに一番反応したのはショークだった。


「あんたねぇ、何でもかんでも好き勝手言ってんじゃないわよ」


ショークが持っている剣に力を入れた瞬間、部屋の中でベルの音が鳴り響いた。


「主様、お時間です」


その時、部屋の一角から、メイド服を着た女性が現れた。彼女の姿は妙に優雅で、しかし不気味な空気をまとっている。彼女は部屋の中心に近づき、上品な仕草で空間に穴を開けた。


「はい、主様にはお客様が来ています。早めにお帰りになさることをお勧めします」


彼女の声は柔らかく、しかし奇妙な響きを持っていた。そして、その言葉と共に、部屋の一部が歪み、空間の穴が次第に広がっていく。その穴から見える景色は不可思議なもので、まるで別の次元の世界からの光景のようだった。


仮面の男は興味津々の表情を浮かべ、彼女に微笑みかける。


「次会うときは、生きた人間として会えるといいですね」


メイドは微笑み返し、彼の言葉に頷いた。そして、彼女は空間の穴を通りどこかへと消えていった。


部屋の中の空気が解放され、4人は汗をかきながら息をついた。この世界ではないような存在からの依頼。最初は簡単な仕事だと思っていたが、今や首の位置が危うい。このままでは全員死ぬだろうと、4人全員が感じていた。


ショークが立ち上がり、言った。


「早く、そいつの家へ案内しな!」


「「「ウッス 姉貴!!!」」」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



4人組は深夜に日付をまたいで、カイトの家の前に立っていた。


「ここが奴の家か。思ったより立派な家じゃない」


ショークが言いながら、剣を手にする。


「だが、こっちは商売だ。恨むなら、あんたの無駄な正義感を恨んでちょうだい」


彼女は剣を抜き、構えた。


≪対人武装心理学兵器P.S.N.Rパーソナル MPシリーズ 使用を確認。認証を開始します≫


彼女の脳内に、合成音声のような声が流れる。


≪ユーザー名:ショーク・ドレスト。起動準備が完了しました。本性ロールを選択してください≫


その声を聞いた後、彼女は剣を前に掲げる持ち方に変えた。


歩兵ポーン


本性ロール名:歩兵ポーン。精神開放ランク:マジョリティ・アルター。適合率98%。命令オーダーを受諾。戦闘兵装を召喚します≫


剣から光が溢れ出し、それに包まれると、ショークの姿が変わった。彼女は赤い長袖の服に身を包み、脛あてや籠手などの戦闘用の装備が付いた姿となった。


「さあ、あんたが持ち去ったものを返してもらおうか」


ショークが言うと同時に、グレドが玄関に体当たりし、扉を破壊しようとした。


「行くわよ!」


グレドシュの合図に応えて、3人が玄関に向かった。


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