第3話 進みだす出来事

「この近辺で行方不明になった女性を探していてな、確か特徴として白い髪で尻が大きい別嬪さんでよ。あんた知らないか?」


男の言葉に、僕は少し不快な気持ちを感じながらも、相手を刺激しないように応じた。


ガシャン


さっきのテーブルから物の落ちた大きな音が聞こえる、僕は急いで音の場所に駆けつける。


「エルメスさん! 何が………」


そこには、さっきまであった料理と皿が地面に散乱し、椅子も倒されていた。

エルメスは地面にうずくまり震えていた。


「エルメスさん、大丈夫……ですか?」


僕は彼女に寄り添い、聞いてみる。


「あ……あなたも……」


「はい? なにか……」


エルメスがとても小さな声で何かを言っている。


「あなたも……見捨てるんですか……」


「……」


何が言いたいのか正直わからないが、何かあったのかはわかる。


「……大丈夫ですよ、僕はあなたの味方ですから」


僕はそう答える。


「おー、そこにいたか」


多分だが、元凶が来た。

男たちがズカズカと部屋に入ってくると、彼女の震えがますます激しくなる。


「ありがとうな! 兄ちゃん」


大男がエルメスの腕をつかもうとしている。僕はその腕を制止した。


「彼女は疲れているようですし、少し休ませてもらえませんか?」

僕は優しく提案する、当然だが男たちは否定する言葉を返してきた。


「そうはいかないな。ここにいる女は私たちが探している。ついてこい、すぐに。」


男がそういうと大男がエルメスの腕を強引に引く、僕は機敏に反応した。

僕はその手をつかみ男を固定する。反対の手で拳を作り、その拳が大男の顎に鋭い一撃を与えた。



大男は驚きの表情を浮かべ、後ろに飛ばされるようにして倒れた。その勢いで彼の相棒である小柄な男性も一緒に後ろに跳ね飛ばされた。二人とも地面に激しくぶつかり、その音が静かな部屋に響いた。


「僕の客人だ、手荒な真似をしたがここで帰ってくれないか、そもなくば」


僕の言葉に少しの威圧感を込めると、男たちは怯えたように退散した。

こんなに怖がるとは思わなかったが、仕方がない。

彼らが去った後、彼女の震えは少しずつ収まっていった。


「もう大丈夫ですよ、彼らは追い返しました。今のところは安全です。」


エルメスはまだ震えていたが、少しずつ落ち着いてきた様子だった。


「……ありがとう。」


彼女は涙と鼻水で顔を濡らしながらそう言った。その姿も美しいと感じた。彼女の顔をやさしく拭いて、今後のことを考える。彼らはまた戻ってくるだろう。彼女を守るためにも、対策を考えなければならない。


「エルメスさん、一緒に街に買い物に行きませんか?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


僕の提案はすっかり受け入れられた、なんでも今は一人でいるのがとても怖いらしい。

街までの道を歩きながら、エルメスについて考えながら観察していた。


彼女は歩くたびに周囲の景色を興味深そうに眺め、小さな花にも微笑みを浮かべる。その瞳には初めてこの地を訪れた子供のような純粋な輝きがあった。しかし、その微笑みの奥には時折、何かを思い出すような影がうっすらと浮かんでいるようにも見えた。


一方、僕は彼女の様子を静かに観察していた。彼女の表情が変化するたびに、心の中で彼女の心情について推測を巡らせた。彼女が何かを思い出したのか、それともただ単純に新しい場所を楽しんでいるのか。その微妙な変化を見逃さないように気を配った。


彼女の歩く足取りも軽やかで、どこか懐かしいような雰囲気が漂っている。時折彼女が振り返って、僕に微笑む姿を見ると、僕はほっとした気持ちになった。彼女と一緒にいることが、彼女にとって心地よいものであることを感じた。


街の活気が次第に近づいてくる中、僕はエルメスを、彼女の側に寄り添い、彼女の様子を静かに見守り続けた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る