第二話 始まりは運命と絡めた方がやりやすい

「ここら辺に落ちた筈、だよね…?」


 杖(護身用)を抱えて怖がりながら魔石を探す少女、一ノ瀬凪。


「ひぅっ!?」


 がさ、と物音が鳴れば小さく悲鳴を上げる。


「ひゃぁっ!」


 ネズミが歩けば、小さく悲鳴を上げる。

 薄暗い人目のつかない所で、さして戦闘力のない少女が歩くのは危険が多い。逆に、このくらいの警戒があった方が良いのだろう。


「わ、あった!」


 くすんだ色の宝石、魔石を見つけて拾う。


「ん?…………きゃあああ!?!?!?」


 魔石の直ぐそばで、天使が倒れていた。


(も、もしかして魔石が頭に当たって…?)

「だ、だだだだ大丈夫ですか!?」


 凪のせいでは無いのだが、それでも魔石の持ち主は自分だからと責任を感じた凪。天使をゆすって起こそうとする。

 すると、小さくぐう、と音が鳴った。天使から。


「へ…?大丈夫、ですか…?」

「…………」コクリ


 小さく頷く天使。ひとまず安心だ、と思った後に、とりあえず、家でご飯をあげようと考えた凪。

 天使を背負って、家に向かって足を進めた。力は自信がある凪である。




「美味しいですか?」

「…………!」ブンブン


 ご飯を作り、椅子に座った天使に渡すと、凄い勢いで食べ始め、これでは足りないとたくさん作った凪。机一杯になるまで作って、天使の反対に座って尋ねると、天使は凄い勢いで頷いた。


「良かったです」


 安心したように微笑む凪。しかし、彼女の心の中はかなり荒れていた。


(『シン』付きだ!!どうしよ、どうしよ!け、警察に連絡する?いや、でも可愛いし、いやでも"抑制の首輪"付けてるし、連絡した方が、いやでも)


 堂々巡りの思考は、一切結論が出なかった。もしかして罪はなにもしてないのでは、何か仕方がない理由があるのではと考え始めた時、天使の手が止まった。机の上のご飯は全部なくなっていたのだ。


「満足、しましたか?」

「…………!」コクン


 大きく頷く天使。とてもかわいい、と凪は思った。


「えっと、名前は有りますか?」

「…………」ブンブン


 とりあえずと質問をした凪。

 天使は横に首を振る。


「天使、であってますか?」

「…………」コクリ


「あそこで倒れてたのは、お腹が減ってたからですか?」

「…………」コクリ


 ほっと安心の息を吐いた凪。自分の魔石が理由だと、『シン』付きだった時にやばいと思っていたからである。


「その首輪を付けてるのは、その、わ、悪い理由で、ですか?」

「…………」ブンブン


 聞かないといけないからと、ビクビクしながら尋ねた。天使は首を横に振った。安心の凪だ。


「り、理由は、なんですか、って話せませんよね…許可制で話せたりします?」

「…………」コクリ


 ダメ元で聞いたら、頷かれた凪。喜びである。


「じゃ、じゃあ話して良いです!で、その、理由は…?」

「ちから、を、せいぎょするため、らしい」


 綺麗な声、そう凪は思った。そして、話し慣れていないからか、舌足らずな話し方に内心悶えた。心の声をそのまま口にすると、『が゛わ゛い゛い゛!゛』


「力を制御って、何でですか?」

「あくさすが、おまえの力は強すぎるって」


 途中から流暢に話し始めたが、それより凪が驚いたのが、あくさすと言う言葉である。あくさすとは、アクサスであり、それは最高六神の一柱である。戦いごとの最高神である『戦闘の最高神アクサス』。2メートルのムキムキ赤髪おじちゃんである。


「ええ…?アクサス様が、なんで…」

「この首輪は、契約したくなった者が現れたら壊しなさい、って言われてる。だから壊して良い?」

「え゛」


 混乱を極めている凪は、首をこてん、と傾げた天使の言葉にすごい声を発した。


「それって、つまり私と契約してくれるってことですか!?」

「ん。そーゆーこと」


 ばっ、と身を乗り出した凪。頷く天使。


「な、何故ですか?私魔法全然使えないし、理由が知りたいです」

「一目惚れした。大好き」


 凪は、内心後ろに吹っ飛んだ。天使が可愛すぎて。


「良いですよ。壊してください。そして私と契約してください!」

「わかった」


 ばき、と首輪を握り砕いた天使。凪は盲目になったため、何をしてもかわいいとしか考えられない馬鹿になってしまった。


「あ、名前、どうしましょう」

「おじちゃん達からギラって呼ばれてt」

「可愛く無いから私が付けますね」

「やった」


 天使が『た』を言い切る前に、自分が付けると言う凪と、嬉しそうにする天使。へいわなせかいである。


「………………決めました。ネオ、でどうでしょう!」

「ありがとう」


 天使、もといネオは、凪に抱きついた。目にも止まらぬ、とか机を挟んで反対にいたのに、とかは今の凪にはどうでも良く、かわいいとしか思わなかった。頭が働いてなさ過ぎである。

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