第23話
(頼む。リック頑張ってくれ)
ソプラを助けに、オーガキングと戦っているリックを見ていると、怒鳴り声が聞こえてきた。
「お前ら! 何をしているんだ!」
声のする方を見ると、男性がこちら睨みながら近づいてきた。
「兄貴」
「エディー、こいつら知り合いか?」
どうやら、エディーの兄貴みたいだ。
「うん。メイビスだよ。知っているでしょ?」
エディーの兄貴はメイビスを訝しげな表情で見ている。
「久しぶりだな、メイビス。何でここにいる?」
「国立研究所から義手義足を男爵様に届けに来たんですよ」
「そうか、親父は邸宅にいる。それで何故ここに?」
「パーティーメンバーがスカウトを受けたんですよ。あなたの妾候補として」
「ほお」
「これはいったいどういう事なんですか? こんなオーガキングと戦わせるなんて」
「お坊ちゃまには、わからんだろ。帝国やエルフと戦わなくてはならない男爵家を」
「ええ、わかりません。かと言ってこんな残酷なことをしていいんですか?」
「強い者を残すのが使命だからな。所詮この世は弱肉強食だ」
「兄貴。俺もこんなのおかしいと思う」
そうエディーが言うと、兄貴はエディーを殴り倒した。
「貴様だな。ふざけやがって」
「ふざけているのは、あなたですよ――
メイビスはそう言うと、兄貴の足を凍らていく。
「なっ!」
つま先から徐々に足が凍っていくのを見て、エディーの兄貴は言った。
「何をする!」
「あなた、この世は弱肉強食って言いましたよね? 自分が常に強い立場だと勘違いしていませんか?」
氷は膝まで到達し、さらに足を固めていく。
「やめろ! 早く氷を溶かせ!」
「いえ、止めません。あなたがしたことは、許されることでは無いのですよ」
そんなやりとりを見ていたが、リックは必死になって戦っている。僕にできることは――、
「メイビスごめん。僕、リックを助けにいきたいんだ。飛ばしてくれるかな?」
「カイ氏――それはいいアイデアだね」
(いいアイデア?)
「こいつを先に飛ばすから、その後でいい?」
(先に?)
そう言うとメイビスはエディーの兄を闘技場の中へと飛ばした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
(足が凍っているからオーガキングの前では身動きが取れないな)
「メイビス、早く、僕を――」
そう言いかけると、僕も飛ばされ闘技場の中に降りた立つことができた。
◆
「ホーリーアロー!」
すぐさまホーリーアローを放ち、リックを援護する。
「おっ、カイ来たか」
「ごめん遅れて」
「バフを五倍追加で頼む」
(えっ、追加って体に負荷がかかり過ぎると)
「いいから、早くしろ!」
僕の迷いを断ち切る言葉がリックから発せられた。僕は追加でリックにバフをかける。
「サンキュー! とっとと終わらせちまおうぜ!」
リックはオーガキングに向かって飛び掛かり、オーガキングの喉を槍で突き刺す。クロードがオーガキングの足を焼いていたから、リックは思い切って飛び込めたみたいだ。
「Ohoooo!」
声にならない声をオーガキングは叫ぶ。そしてオーガキングが倒れたところをダメ押しでリックは攻撃した。リックの動きを見て、僕もホーリーアローを放つ。
「ホーリーアロー!」
リックと僕はオーガキングから間合いを取り、オーガキングの様子を伺う。するとリックは何かに気づいたのか、僕に話しかけてきた。
「カイ。あいつ誰だ? あの足が凍っているヤツ」
「エディーの兄貴だよ。オーガキングを仕掛けてきた主犯」
「ほう。こいつのせいで、女共の命が危うくなったんだな」
「そうだよ」
「ムカつくな」
リックはオーガキングの様子を確認している。
「こいつしぶといなぁ。あとはこの兄貴に任せるか」
オーガキングの様子を見ると、まだ生きている。
「許せないし、そうしようか」
「リックちゃん! カイちゃん!」
ソプラが僕らに声をかけてきた。
「おう、ソプラっち。女共は無事か?」
「うん。おかげさまで全員無事よ」
「そっか。なら良かった」
「リックちゃんありがとう」
「なーに、お安い御用さ」
「カイちゃんもありがとう」
「うん。ソプラも無事でよかった」
「あの!」
高い声が聞こえたので振り向くと、数人の女性がこちらを見ていた。
「助けてくれてありがとうございます」
「なーに。当然なことをしただけさ」
「ノーキン男爵の方ですか?」
「いや、普通に旅人だけれど」
「そうなんですね」
気づけばリックは女性達に囲まれていた。
「旦那様♪ 旦那様♪ おいらもほめて~♪」
「クロ、よくやった」
「えへ♪」
僕は桟敷席を見上げ、メイビスがいるかどうか確認する。メルもメイビスもシロエもいて、安堵の表情を浮かべていた。
(みんな大丈夫だな)
「リック、メイビスの所に戻ろ――」
◇
「リックさんって言うんですか」
「おう、そうだ」
「お仕事は何をされているんですか?」
「見ての通り、槍持って戦っている」
「どこに住んでいるんですか? 連絡先教えてください」
「住むところは決まって無いんだよね~。何なら一緒に宿屋を探してくれるか?」
「はい、わたし探します!」
「何よ。ワタシが一緒に探すの!」
「ずるい! あたしも一緒についていきたい」
「まあまあ、オレは逃げないから」
◇
「ソプラ。リックはどうしよう?」
「いいんじゃない? 放っておいて。今日くらいはヒーローしててもいいと思うわ」
「だね」
僕はソプラと一緒にメイビスのいる桟敷席へと向かった。
「旦那様♪ おいらを忘れないでよ~」
◆
「メイビス、ありがとう」
「カイ氏もお疲れ」
僕はメイビスの所に行き、お礼を言う。
「エディーに義手義足を渡したから、ボクの役目は終わりかな」
「これから国立研究所に戻るの?」
「ここで一泊してからかな」
「そうなんだ。じゃあ、明日でお別れだね」
「そう、そうなるね」
「シロエと一緒に戻るんでしょ?」
「もちろん。ここまで来て、置き去りになんかできないよ」
「そうだね」
この後、僕らは宿を探し、メイビスとシロエと一緒に夕食を楽しんだ。しばらくは彼らとお別れ。ちなみにリックは別の宿屋にいると連絡があった。きっと女の子達と仲良くやっているのだろう。
◆
翌朝
「おっす。おはよ、カイ」
「リック早いね。珍しい」
「もち、完徹」
(寝て無いのね)
僕ら五人が宿屋で朝食を食べていると、リックが現れた。
「教授にソプラっちに嬢ちゃんに嫁。おはよう」
「おはよう」
「おっはよ、リックちゃん」
「おはようございます」
「リックさん、おはようございます」
「♪♪♪♪♪♪♪♪」
クロードは何やら楽し気にしている。
「カイ氏達はこれからエルフの森に行くんでしょ?」
「そうだね。ここからだとすぐ近くにあるから、明後日の昼頃には着くと思う」
「最初に会ったときに連れ去ってごめん」
「ははは、そんなこともあったね。もう気にしていないから大丈夫だよ」
「そう言ってもらえると有り難い」
「あっ、そうだ。これ――」
僕は念話の指輪を二つメイビスに渡す。
「念話の指輪だよね?」
「そう。もし何かあればそれで連絡してね」
「ありがとう。シロエと大切に使うよ」
メイビスと会話をしていると、リックが話に割り込んできた。
「カイ! お前、予備があるならくれよ。もう女の子と連絡できないじゃん」
(あー、確かにこれがあれば、連絡が取れるね)
「って、冗談だよ。冗談」
「リック。もしあれなら残ってもいいんだよ」
「ほう、随分とまた。口が達者になったな。そんなにオレがキライか?」
「そうじゃないけど、恋人くらいいてもいいんじゃない?」
「まったく。これだから、妻帯者は――」
◆
「じゃあ、メイビス、シロエ。元気でね」
「メイビスちゃん、シロエちゃん。まったね~」
「カイ氏、ソプラ氏。元気で」
「みなさん、気をつけて旅をしてください」
僕らはメイビス達と別れ、旅を続ける。そしてこの二日後、僕らは無事にエルフの森の入り口に辿り着いた。
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