第24話
「メル。ようやくここまで来たね」
「はい。カイ様ありがとうございます」
僕らはエルフの森の中を進んでいる。エルフ達の
(ようやくか)
僕らはそのまま歩いて行くが、青年達は警戒している。敵じゃないよと、笑みを浮かべながら、青年達の前まで来た。
「お前達は何者だ? ここをどこだかわかっているのか?」
「はい、エルフの住んでいるところですよね? 僕らはメル――彼女の父親を探す手がかりを得るためにここへ来ました」
「彼女? ハーフエルフではないか」
「はい」
(あっ、エルフから見たらハーフエルフは忌子だ――しまった)
「その父親とはここにいるのか?」
「いえ、わかりません。手がかりがないので、いろいろと聞いて回ろうかと思っているんです」
「そうか。武器を捨てよ。そうすれば王の所まで案内してもよいぞ」
エルフ青年と話し合いをしていると、別のエルフの青年が話に割り込んできた。
「ばっ! お前、何勝手なことを!」
「大丈夫だ。王が人間ごときに負けるわけないだろう」
「でもよう」
「安心しろ。何かあったらお前らのせいにするから」
「ダメじゃん。はぁ」
そんな青年達のやり取りを見ていると、リックがつまらなそうな声で言った。
「武器は捨てられねぇ。オレの相棒だからな」
「えっ。じゃあ、リックどうするの?」
「ここで待っているか、さっきの町に戻るか――まっ、そんなところだな」
僕はメルとソプラの表情を伺う。リックは続けて言う。
「何かあったら念話の指輪で連絡よろしくな。カイ」
「ああ、わかったよ」
リックとの話に先ほどのエルフの青年が反応して、言う。
「念話の指輪? そんな物を持っているのか。ダメだな、そんなんじゃ中に入れられない。そいつを寄越せ」
念話の指輪を渡したら、リックと連絡がつかなくなる。けれどもメルの父親を探したい。そう思ったので、みんなに言った。
「念話の指輪を預けよう」
「はぁ? カイ、それ本気で言っているのか?」
「ああ、本気だ」
「ふぅ。わかったよ。そんな顔をするときのお前は、
「うん。ソプラもいい?」
「いいわよ」
僕はみんなから念話の指輪をもらい、予備のを含めてエルフの青年に預けた。
(メルとお揃いのは、気づかれていないみたいだし、大丈夫だろう)
「カイ。オレ、そこら辺で待っているから、その荷物寄越せ」
僕らはリックに荷物を預けて、門をくぐる。青年についていくと、広場ではエルフの子供達が元気よく遊んでいた。
「ヤンごっこしようぜ。お前、人間な!」
「えー、また人間? いっつも僕ばかり」
「あたし、攫われた女性やる!」
(ああ、エミル姉が言ってたな。ヤン兄がエルフの女性達を奴隷から助けたって)
エルフの子供達を見ながら、僕はエミル姉とヤン兄のことを思い出していた。
「ここだ。中に入れ」
エルフの青年に言われ、建物の中に入る。
「王様って、てっきりお城に住んでいるもんだと思っていたわ」
「エルフだからね。自然と調和した建物じゃないと駄目なのだろう」
ソプラと話をしながら歩く。メルはどこか緊張しているように思えた。
「この先の部屋が謁見の間になる。ギルバート王が出てくるまで、そこで待て。それから、そのサラマンダーはこちらで預かる」
「ん? おいら誰についていけばいいの?」
「この女性についていけ」
「わかった♪ 友達たくさんいるかな」
クロードは近くにいたエルフの女性に連れていかれた。僕らは言われた通り、謁見の間に入り、そしてソプラに言う。
「ソプラ、ここは立ち膝でお願い」
「そうなの?」
「王様に会うときは、これが作法なんだよ」
「わかったわ」
「メルもいい? こんな感じ」
僕は実際に立ち膝の姿勢になり、メルに見せて構えを教えた。そして王を待つ。しばらくすると、威厳のある男性が入ってきて、おもむろに玉座に座った。
「人間とライカンスロープとハーフエルフか――お前らは何しに来た?」
「ギルバート王。僕はカイと申します。隣にいるハーフエルフはメルと言って、彼女の父親を探すための情報を集める目的でこのエルフの森に来ました」
僕がそう説明すると、ギルバート王は、
「そうか。そんな人間と交わるようなエルフは聞いたことがないな」
「そうですか」
「ああ。そこのハーフエルフ、メルと言ったか?」
「はい。メルと申します」
「お前はこの後、俺の寝室に来なさい」
「えっ」
僕は耳を疑った。メルが王の寝室に誘われる理由は一つしかないと思ったからだ。
「ギルバート王! メルは父親を探しに来たのです。寝室に連れていくのはどうかと思います」
「お前達! その人間を捕まえて、牢屋に入れておけ!」
周りにいたエルフ達が僕に近づいてくる。魔法で撃退したいが、そんなことをしたらメルもソプラも精霊達の力によって無事ですまないだろう。
(くっ。どうしたらいいんだ)
「カイちゃん。戦っていいわよね?」
「ソプラ。精霊達は強い。ここで無理に戦ったら、みんな無事じゃなくなる」
「でも――」
「カイ様。ソプラさん。私、大丈夫です」
僕はどうすればいいのかと悩み、行動に移さずにいると、メルは近くで待機していたエルフに連れていかれ、ギルバート王の隣に立った。
「ギルバート王! メルを――」
「ああ、可愛がってやるよ」
その言葉で頭に血がのぼり、僕がギルバート王に攻撃しようとすると、精霊達が目の前に現れ、ノームが僕を土で捉えた。
「メル!」
「カイ様。私、平気です!」
僕はギルバート王を睨みつける。ギルバート王の目は憐れむ目ではなく、どこか慈愛に満ちたような目をしていた。
「カイちゃん、大丈夫?」
「ごめん、ソプラ。こんなことになって」
「仕方ないわ」
僕はギルバート王の目を信じて、メルが酷い目に遭わずに何もされないことを信じようとした。
「ソプラ……」
「メルちゃんのこと心配しなくていいわ。女の勘が言っている」
僕とソプラは謁見の間で精霊達に捕まり、エルフの青年に連れられて牢屋へと向かった。
◇◆◇◆
私の前には、エルフの王様が付き人と一緒に歩いている。私は黙ってついていくと、ある部屋の前で止まり、エルフの王様は言った。
「お前たちは元へ戻れ。さあ、入れ」
そう言われて、私は王様と共に部屋に入る。
「そこの椅子に腰かけて」
「はい」
これから、何をされるんだろう。下手に抵抗したらカイ様もソプラさんも大変なことになるだろう。私が椅子に座ると優しい
「メーンは元気か?」
(えっ)
「何故、お母さんの名前を……」
「そうか。やはり、メーンの子か。そっくりだから、すぐにわかったよ」
「お母さんを知っているのですか?」
「ああ、もちろんだ。俺はお前の父親だからな」
(えっ、ウソ……)
「メーンと最後に会ったのはいつだっただろう。元気でやっているか?」
「お母さんは……。お母さんは人間に殺されました」
「そうか……」
王様。いえ、私のお父さんは悲し気な表情を浮かべている。
「何であなたはお母さんの傍にいなかったのですか? あなたがいたらお母さんは死なずに済んだかもしれないのに」
「そうだな」
お父さんはお茶を淹れ、しばらく黙り、私にお茶を渡す。
「メーンと会ったのはどのくらい前のことだろう。一目惚れだった」
お父さんはお母さんとの思い出を語り始めた。
「あの頃はとても楽しかった。二人でいろいろな所へ行き、幸せだった」
お父さんは私を見る。
「俺がエルフの王になることが決まって、ここで王としての務めをしなければならなくなった」
「そうなんですか――」
「メーンとメルには申し訳ないことをした。それにあのカイと言う人間とライカンスロープの女にもな」
そう言って、お父さんは私に謝る。
「王として同胞を束ねるには、人間と距離を置かなくてはならない。仕方がなかったんだよ」
ああ、この人が本当に私のお父さんなんだ。王様だから私達の傍からいなくなったんだ。私の目頭が熱くなっていくのがわかる。
「メル、こちらを見なさい」
私はお父さんの顔を見る。
「メル、お前は俺とメーンの愛の宝物だ。だが、このエルフの森に住むことも許されぬし、俺はお前と一緒に暮らすことができない。ダメな父親だが許してくれ」
私は涙を拭った。
「何で……、何でお父さんが王様にならなきゃいけなかったの? 王様じゃなきゃ……、お母さんも……」
「俺はエルフの王子、彼女は人間。連れ添うことなどできぬ恋だったのだ」
溢れ出した涙が頬を伝っていくのがわかった。
「メルには恋人はいるか?」
「います」
「そうか。あのカイという人間か?」
「はい」
「どんな男だ?」
「優しくて、誠実で、みんなから信頼される人です」
「そうか」
「カイ様のお父様は、勇者パーティーにいたらしく、人間の王様と仲が良いみたいです」
「もしかして、ラルフという名前か?」
「はい。何で知っているのですか?」
「先代の王が人間の王に世話になってな。その王の力で奴隷にされたエルフを救うことができたのだよ。そして、その協力者の名前がラルフ」
「そうだったんですね」
「ああ。もう一人、ヤンというダークエルフも協力してくれた。そうか――親父の言っていたラルフの息子か……」
「お父さん。私、あの人のお嫁さんになりました」
「そうなのか。そうか……、俺と同じで人間に恋をしたのだな」
「はい」
「メルの旦那を牢屋に入れて置くわけにはいかないな――挨拶をしたいが、会うと他のエルフに勘付かれて、俺が人間との間に子をなしたのがバレるかもしれない」
「うん」
「メル。俺の代わりにカイとやらに礼を言ってくれ」
「あのね。お父さん」
私はカイ様とお揃いで買った、左手薬指にある念話の指輪を見せる。
「これで、カイ様と話せるよ」
「念話の指輪か?」
「うん」
「カイと言ったかな。聞こえるか?」
『はい。聞いておりました』
「そうか。なら話が早い」
『王様――』
「エルフの王として民を束ねなくてはならない。俺にはメルと一緒にいて幸せにすることができない」
『はい』
「お前にメルをお願いする。メルを幸せにしてほしい」
『必ず幸せにします。約束します』
「ありがとう。それとラルフとヤンに会ったら感謝の意を伝えてくれ。奴隷にされた同胞を助けてくれた恩を忘れないと」
『わかりました。父さんには伝えておきます。ヤン兄にも会ったときに伝えます』
「頼む」
「お父さん……」
「メル、すまない。もうこれ以上時間を使うわけにはいかない。だから」
そう言って、お父さんは私を抱きしめてくれた。
「これが最後かもしれない。愛しているよ。メル」
この温もりが、お母さんとの思い出が、すべて私の心を揺さぶった。
「お父さん」
私は力一杯、お父さんを抱きしめる。お父さんの胸は、私の涙で濡れた。
「メル」
そう言って、お父さんは私から離れる。
「元気でな」
私はカイ様とお揃いの指輪を見た。これを使えばお父さんと――、
「お父さん」
「どうした?」
「これ」
私は指輪を外し、お父さんに渡す。
「これ持っていてください。これとお揃いのカイ様の持っている指輪を私が貰います。この指輪があればお父さんと連絡が取れます」
『僕は賛成です。ギルバート王、指輪を受け取ってください』
「そうか……、なら預かろう」
そう言って、お父さんは指輪を木製の家具の引き出しの中に仕舞った。
「時間かな――。メル、そろそろ外へ行きなさい。牢屋にいる旦那とライカンスロープの女は解放するから待っていてくれ」
「わかりました」
私は扉へ行き、振り返ってお辞儀をする。
「お父さん。今日はありがとうございます。お体には気をつけてお過ごしください」
「ああ。メルも元気でな」
そして私は扉を開け、エルフの王様であるお父さんと別れた。
◇◆◇◆
「出ろ」
牢屋の見張り番をしていたエルフの青年が牢屋の前にきて、そう言った。
「ソプラ、行こう」
「そうね」
牢屋の扉が開き、僕とソプラは牢屋から出る。
「メルちゃん、良かったね」
「そうだね」
「外に行けば会えるかな」
「たぶん大丈夫だよ。建物の外で待っていると思うよ」
僕とソプラは、一階の廊下を歩いていく。
「あそこが、入り口かしら」
「そうだよ。入ってきた所と同じだよ」
僕は入り口の扉を開け、外に出る。
「カイ様!」
入り口を出てすぐの所にメルが待っていた。
「メル――うわっ!」
メルが抱きしめてきたので、びっくりして声をあげてしまった。
「カイ様、ありがとうございます。私の希望を叶えてくれて」
「うん。良かったよ」
「はい!」
「でも、メル。ここを出るまでは静かにしようね」
「あっ」
(メルの父親が王様って、他のエルフが知ったら大変だもんね)
「ちょっと、カイちゃんにメルちゃん。こんなところでイチャイチャしないでくれる?」
ソプラの指摘を聞いて、僕とメルはお互いの顔を見合わせる。
「はぁ、まったく。ほら、行くわよ。リックちゃんも待っているわ」
◆
「ヤンごっこしようぜ。お前、人間な!」
「えー、また人間? いっつも僕ばかり」
「人間だけど、ラルフやってよ」
「わかったよ。しょうがないなぁ」
「あたし、攫われた女性その一やる!」
「じゃあ、うちその三!」
「二は誰がやるの?」
エルフの子供達は広場で遊んでいる。門に着くまでは余計なお喋りは禁物だ。
「おっ、人間とライカンスロープとハーフエルフか。欲しかった情報は得られたか?」
門番をしていたエルフの青年にそう言われたので、こう返した。
「はい。これから、得た情報を元に旅をする予定です」
「そうか。なら良かった」
エルフの青年はそう言うと、念話の指輪を取り出し、僕に返してくれた。
「ありがとうございます」
「おう。人間は好きじゃないが、お前は何となく許せるな」
「ははは、そうですか」
「主様♪ 旦那様♪ おいらを置いていかないでください」
「クロ」
「クロード」
クロードが僕らの所にやってくる。
「ごめん、クロ。忘れてた」
「えーー。酷いよ旦那様」
「私は探してたよ」
「
(メル、今のはウソだろ?)
「メル、ソプラ。挨拶しようか」
そう言って、僕は門番をしていたエルフと向き合う。
「ありがとうございました。みなさんお元気で」
「おう。気をつけて。達者でな」
僕らは門から離れ、リックを探す。すると、こちらに気づいていたのかリックが声をかけてくれた。
「嫁さん、どうだった?」
「はい。おかげさまで」
「そうか、そうか。で、父親は?」
「リック、ここじゃ何だから、町の宿屋に着いてから話そう」
「ん? 何で?」
「いろいろ事情があるんだよ。だからお願い、リック」
「わかったよ」
「あっ! そうだ、カイちゃん。指輪新しく買うんでしょ?」
「あー」
「はっ? そんな間抜けな声出して、まさか」
「メルの気に入った指輪を探して買うよ」
僕らは町に向かって歩いていく。メルと一緒にエルフの森に来たことは忘れることの無い思い出になるだろう。
「そういえばカイ。次、どこへ行く?」
「うーん。どうしよう」
「そうだカイちゃん! 不老長寿の薬を探す旅って言うのはどう? カイちゃんが長生きしてくれたら、メルちゃんも嬉しいでしょ?」
「それはそうだけど――そんな薬ってあるの?」
「知らなーい。あたいに聞かないで」
「メルは行ってみたい場所ある?」
「私はカイ様と一緒なら――あっ、私、世界中を旅してみたいです」
「世界中か」
「おっ、いいねぇ。カイ、せっかくだから世界を周ろうぜ!」
「面白そう! あたい、いろんな国の地酒が飲みたい!」
「よし! そうしようか」
「カイ率いる「青りんごワイン」の世界紀行の始まり始まり~」
「さて、次はどこに行くのかしら?」
「ふふふ。楽しみですね」
あの日、メルを助けてから運命が動きだした。僕は彼女と
「カイ様」
「どうしたの?」
「私、決めました」
「うん」
「私、あなたと幸せになります」
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