第21話

 僕らの旅にメイビスとシロエが参加して一番変わったことは、メイビスのおかげで魔獣を瞬殺することができるようになったことだ。やはり彼はやり手だ。そう思いながら前を見ると、リックとソプラがメイビスのことを話していた。


「教授は相変わらず強ぇえな」

「当たり前でしょ? あたいの元パーティーメンバーだよ」

「そのパーティーにクビにされたのはどこの誰だったかなぁ?」

「はぁ。まあ、カイちゃんのおかげでここにいられるけれどね」

「だよな。カイが勝手に突っ走ってソプラっちをスカウトしたから今があるわけだしな。教授は何で冒険者を辞めたんだろ?」

「メイビスちゃんが言うには、Sランクになると高難易度のクエストをやる嵌めになって、死ぬ可能性が高くなるからって言ってたわ」

「そうなんだな。じゃあ、オレがSになれば教授に勝てるな」

「リックちゃん。対抗意識燃やさなくてもいいんじゃない?」

「だってよう、あの戦いが悔しくて。カイが止めなかったら、大変なことになっていただろうから」


 旅は順調。問題なくノーキン男爵邸のある町の、一つ手前の町に辿り着いた。そして冒険者ギルドへ行き、リックは魔石の換金のため受付へ行った。


「御用件は何でしょうか?」

「魔石の換金だ」


 魔石の換金を待っている中、冒険者ギルドの様子を伺っていると、男達の話声が聞こえてきた。


『あのパーティーまだ。帰ってこないな』

『魔獣にやられたんじゃね?』

『あいつらが魔獣にやられるタマか?』

『そうだけどよー。きっと何かやらかしたんじゃないか』


(この町の冒険者も大変なんだな)


「換金終わったぞ。宿屋を探そうぜ」


 魔石の換金が終わり、僕らはギルドをあとにする。この町の様子は賑やかで、活気づいた感じだった。


「カイ、どこの宿屋にする? たまには超高級ホテルでも取るか?」

「うーん。そこまでしなくていいような――」

「じゃあ、適当に二手に分かれて、宿屋を探すか。見つかったら念話の指輪で連絡ってことで」

「いいよ。じゃあ、僕はメルと宿屋を探すね」

「おう。じゃあソプラっちと教授はオレの方で」


 僕らは二手に分かれて宿屋を探すことになった。


 ◇◆◇◆


 カイちゃん達と別れて、あたいはリックちゃんと話をしていた。


「二人部屋があるといいな。カイと嫁もご無沙汰だろうし」

「そうなの? メルちゃんを嗅ぐと、カイちゃんの匂いがハッキリと付いているんだけども」

「そうか、そうだよなぁ。ソプラっちの旦那は浮気ができないな」

「えぇ、すぐにわかるわ」


 あたいが何気なくメイビスちゃんを見ると、彼は険しい顔つきになっていた。


「どうしたの? メイビスちゃん」

「あいつだ」

「えっ」

「パーティーメンバーを殺したヤツだ」


 その言葉を聞いて、あたいは息を飲んだ。


「サキュバスだよ。ほら、あそこの若い女」


 メイビスちゃんがそう言うと、サキュバスと言われた女がこちらを見て、怪しく微笑んだ。


(えっ、これマズイんじゃない?)


「おっ、いい女がいるなぁ。ナンパすっかな」

「リックちゃん、気をつけて。サキュバスがいるみたい」

「へぇー、ひょっとしてあの女がそうなんかな?」


 怪しい微笑みを浮かべながら女がこちらにやってくる。あたいはいつでも戦えるように構えた。


「あらぁ? わたしに何か御用かしら? ねぇ、そこの君。ひょっとして、わたしの顔を知っているのかな。だったら死んでもらうわ」


 女はメイビスちゃんに呼びかける。


「みんな気をつけろ」


 メイビスちゃんがあたいらの前に出ると、女は間髪入れずに魔法を唱えた。


誘惑チャーム!」


 誘惑チャームならあたいとシロエちゃんは問題ない。でも――、


「うっ!」


 次の瞬間。リックちゃんがメイビスちゃんの背中を槍で突き刺した。そしてシロエちゃんは叫ぶ。あたいは驚いてリックちゃんに言った。


「リックちゃん! 何してんのよ!」


 ダメだ。サキュバスの術中にハマっている。シロエちゃんはメイビスちゃんのところへ駆け寄る。


「ふふふ――素敵なお兄さん。そのまま、その魔導師をってしまいなさい」


 あたいはリックちゃんを蹴り飛ばし、メイビスちゃんとの間に入る。リックちゃんはすぐに立ち上がって、不敵な笑みを浮かべた。


「ふっ!」


 リックちゃんの槍が襲ってくる。


(早い!)


 あたいは槍を躱すが、動き方次第でメイビスちゃんやシロエちゃんを危険な目にあわせてしまう。


「リックちゃん! 落ち着いて!」


 リックちゃんの攻撃は止まらない。躱し続けても埒が明かない。だからあたいはリックちゃんを倒すことにした。


「メイビス兄さん!」


 声のした方に目をやると、シロエちゃんは悲痛な面持ちで倒れているメイビスちゃんの傍にいた。


「ふっ!」


 危ない、脇見をしてなんかいられない。ギリギリのところで槍を躱す。


「おりゃ!」


 蹴りを繰り出すがリーチが足りず空ぶる。


(リックちゃんに勝てないだろうけど、やるしかない)


 戦いが始まり、町の人達は方々ほうぼうに散らばっていったみたいだ。あたいがどうしようか悩んでいるとカイちゃんから連絡が来た。


『リック、宿屋見つけたよ』

「カイちゃん! 助けて! みんな危ない!」

『えっ』


 カイちゃんが来るまで時間を稼ごう。シロエちゃんが「メイビス兄さん! メイビス兄さん! しっかりして!」と大きな声をあげている。


「あら? ライカンスロープも結構やるのね? ふふふ――でもそんなの無駄よ。ここにはいい男達がたくさんいるわ『誘惑チャーム!』」


(えっ、何?)


 何が起こったかわからない。ただ目の前の戦いで必死だった。


「ふっ!」


 リックちゃんの突きを躱す。躱してばかりで何もできない。


(痛い!)


 石をぶつけられたみたいだ。サキュバスの言っていることから通行人が投げてきたのだろう。


「こんなことで負けられないわ!」


 気合を入れ直し、リックちゃんの懐に入る。


(うっ!)


 リックちゃんの蹴りが胸に入り、思わず倒れ込んでしまう。マズイ――。「負けちゃダメ」そんな思いで顔を上げると物凄い炎が頭上に現れた。


「おまたせー♪ おいら来たよー♪」

「クロちゃん!」


 クロちゃんの姿が見え、カイちゃんが近くにいることがわかった。


「カイちゃん! メイビスがやられたの! お願い!」


 あたいは張れるだけ大きな声をあげた。


 ◇◆◇◆


「リック、宿屋見つけたよ」

『カイちゃん! 助けて! みんな危ない!』


(えっ)


 ソプラの切羽詰まった声が聞こえた。だた事では無い。僕はすぐ、クロードにお願いをした。


「クロード。ソプラ達が危ない目に遭っている。すぐに飛んで行ってくれないか?」

「わかったよー♪ 旦那様♪」


 クロードが空高く飛び、辺りを見回す。するとクロードが何かに気づき飛んで行ったので、僕はその方角に向かって走り始めた。


「メルもついて来て!」


 行き交う人の間を通り抜け、僕はソプラを探す。しばらく走るとソプラが見え、リックと戦っていることに気づいた。


(何が起こっているんだよ!)


「カイちゃん! メイビスがやられたの! お願い!」


 ソプラの大きな叫び声を聞いて、メイビスを探す。メイビスはシロエの傍で倒れていて、辺りには血が流れていた。


『ハイヒール!』


 僕はすぐに魔法の届く所までへ行き、メイビスにハイヒールをかけた。


「あら? 君は邪魔するのね? 『誘惑チャーム!』」

反射リフレクト!!』


 誘惑チャームを使うとは、厄介な敵だ。


「へー、誘惑チャームが効かないんだぁ。あなた達あの男を殺し――」


 女がそう言った瞬間。氷の槍が女の胸を貫いた。


「なっ、な――」

「みんなの分。お返し――」


 メイビスは女に致命傷与え、シロエに寄りかかって目を閉じた。リックは崩れ落ち、それを見たソプラはその場で大の字になった。僕は女に近づく。


「カイちゃん。その女、サキュバス」


(こいつがそうか)


 僕は女を睨み、言う。


「仲間を傷つけるヤツは許さい」

「あぁ、あ、わたし何もしてないわ」

「何もしていないわけないだろう。僕に誘惑チャームをかけようとしただろ」

「ひぃー!」


 僕は女の顔に向かって手をかざした。


『ホーリーアロー!』


 女の頭部は吹っ飛び、体が倒れる。しばらくすると女は黒い靄となって消え、そしてそこには魔石だけが残った。


「ふぅ。ソプラ、怪我は?」

「大丈夫。ちょっと転んで擦りむいただけ」


 僕はリックの傍に行き、彼の状況を確認する。


(意識を失っているだけか……)


 リックの状態がわかり、そのあと僕はメイビスのところに行って、再度ヒールをかける。


「ソプラ。メイビスを担いで宿までお願いできるか?」

「わかったわ」


「カイ様。私は何をすれば?」

「リックの槍を運ぶのを手伝ってくれ」

「はい」


 ソプラはメイビスを担ぎ上げ、傍にはシロエがいる。僕はメルに槍をお願いし、リックを背負った。


 ◆


「しばらくこの町に留まる感じだね」


 僕らは宿屋の部屋に入り、リックをベッドに寝かせた。シロエはメイビスのところで心配そうに彼を見ている。


「カイちゃん。メイビスちゃんの回復を待つよね?」

「そうだね。いちおうヒールはかけたけど、血が流れて足りなくなっていると思うから」

「そうよね」


 僕はソプラと話し合い、しばらくこの宿屋にお世話になることを決めた。

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