第20話

 洞窟から出て、眩しい光に目を細めながら目の前に広がる木々を見る。木漏れ日が差し込み、洞窟の中とはまた違う、とても素敵な風景が広がっていた。スライム達はそこら辺をうろうろしている。


「君達、案内ありがとうね」


 僕がスライム達に向かってそう言うと、スライム達はピョンピョンと飛び跳ねる。どうやら「どういたしまして」と言っているみたいだ。


「カイ、オレ腹減っちまった。早くバーベキューしようぜ」

「あたいもお腹すいた」


「わかったよ。君達、元気でね。また来たらよろしくね」


 僕はスライム達に別れの挨拶をしたあと、リック達と一緒に森の中を移動する。森を抜け、草むらのエリアをしばらく進み、バーベキューをしても良いような所まで歩く。川の近くまで来たところで「ここにしよう」とメイビスは言い、マジックバッグから荷物を取り出した。僕らは食事の準備をし、メイビスが燃料に火をつけると楽しいバーベキューが始まった。


「メイビスは氷魔法と空間魔法以外に何か使えるの?」

くうの魔法以外は風と火と水かな。魔導師なのに恥ずかしいけど地の魔法は使えないんだ。それにそれぞれの魔法の練度も低いし」

「そうなんだ」

「カイ氏は付与術エンチャントも使えるって聞いたけど」

「うん。父さん譲りなんだ。姉弟きょうだいの中でも珍しいよ」

「カイ氏。回復魔法が使えて付与術も使えるって、姉弟じゃなく国レベルで珍しいことだよ」

「そうなんだ」

「魔導師だけれど、君の能力が羨ましいよ」

「ははは」

「そういえば、カイ氏の協力している研究の方は順調なの?」

「うーん、順調じゃないみたい。研究のリーダーは『聖者様の黄金水おしっこではダメなのか。やはり聖女様の黄金水でないと』と嘆いていたよ」

「えっ、それ変態じゃない?」

「最初聞いたときビックリしたけど、メイビスもそう思う?」

「確か自動回復ポーションの研究だよね。ボクはてっきり魔法をポーションに込めるものかと思っていたよ」

「だよね」

「自動回復ポーションの研究はノーキン男爵のお願いで始まったらしいよ」

「ノーキン男爵?」

「ノーキン男爵の住んでいる領は、帝国とエルフの森と隣接している所でさ。王国騎士団が常駐していないから、自前で防衛部隊を作っているみたい」

「へぇー」

「何でもノーキン男爵家は、男爵の息子達が部隊長を務めるのが慣わしみたい。だから身体能力の高い女性を愛人として迎え入れて、面子めんつを保つ意味でも息子達の戦闘能力を上げようとしているらしいよ。もちろん訓練もやっているけれど」

「戦える優秀な遺伝子を後世に繋いでいくのか――凄いね」

「まあ、十数人と愛人を作るから、エロ男爵って言われているけどね」


 僕は思わずメルとソプラを見る。メルが男爵の手籠めにされたら嫌だなと思う反面、身体能力の高いソプラなら男爵に選ばれてもおかしくないなと、そう思った。


「そういえば、メイビスは何の研究をしているの?」

自動オートで変形する義手義足の研究だよ」

「そうなんだ」

「それが実用化されれば、困っている多くの人々を助けることができる。カイ氏の『女神の息吹ゴッドネスブレス』が無くてもね」


 その義手義足の研究はとても有難いと感じた。もう「女神の息吹ゴッドネスブレス」は封印したので、僕が助けることができなくても、研究で開発された義手義足があれば助けることができると思ったからだ。


「とても良い研究だね。そういえば、ダンギン石はどこで取れるの?」

「この川の中流から上流だよ」

「そうか。じゃあ、食事が終わったらダンギン石を取りに行くんだね」

「うん。そのつもり」


 メイビスとそんな話をしていると、川の向こう岸にたくさんのゴブリン達が現れた。


「カイ、ゴブリンのお出ましだぜ。あっ、あいつら石投げてきやがった」


 ゴブリン達は足元の石を拾い上げ、僕らに向かって投擲とうてきをする。リックは愚痴を言う。


「やっかいだな。川じゃ足を取られる」

「メイビスちゃん。魔法をお願いできる?」


 ソプラがそう言ってメイビスに頼む。


「もちろん」


 それを聞いたメイビスはゴブリンに向かって魔法を放つ。


『ウインドカッター!』


 一匹のゴブリンの首が跳ね飛び、ゴブリン達は慌て始めた。


「凄い精度だね。こんなに距離があるのに」

「カイ氏の『ホーリーアロー』もそうなんじゃない?」

「ううん、僕はここまでじゃないよ。ここから当てるのは難しいよ」


 メイビスが次々と魔法を放ち、ゴブリン達を殲滅せんめつしていく。ものの十数秒でゴブリン達を倒した。


「教授、強ぇぇ」


 リックが感嘆の声をあげ、ソプラはどや顔。シロエは大量の血が出ているゴブリンから顔を背けていて、クロードはメイビスの頭の上を舞っていた。


「食事を終えたら、ダンギン石を取りに行こうか」


 そう言って、メイビスはまたバーベキューを食べ始める。シロエは食欲を失ったみたいだった。

 食事を終え、バーベキューの後片づけをする。ここでもメイビスの魔法が大活躍し、あっという間に移動する準備が整った。


(流石だな。メイビス)


 僕らは川の上流に向かって歩き始める。幸運にも中流でダンギン石が見つかり、必要な分を取ることができたので、僕らは帰ることにした。


「カイ様。魔銀綺麗でしたね」

「そうだね」

「私の住んでいた所からは想像できませんでした」


「あたいも良かったわ。あんな景色は中々出会えないと思うわ」

「ソプラっちもそう思うか? でも冒険者を続けていれば、またそんなことがあるかもな」


 メル達と共に今回のピクニックについての感想を言い合いながら、国立研究所まで移動する。研究所に着くころには、だいぶ夜遅くなっていた。


「じゃあ、解散ってことで」

「カイ。もうそろそろ研究の協力はいいんじゃないか? 旅を続けた方がいいと思うぞ」

「そうだね。そろそろお役御免みたいだから、移動しようか」


 そんな話をリックとして、今日は解散となった。


 ◆


 翌日


「シロエ、おはよう」

「おはようございます。カイ兄さん」


 いつものように一階売店にいるシロエに挨拶をしていると、メイビスがこちらにやってきた。


「カイ氏、おはよう」

「メイビス、おはよう」

「あのね。義手義足の試作品をノーキン男爵に届けることになったんだ。それで片道だけど君たちの旅に同行してもいいかな? これ地図」


 メイビスから地図を受け取り、ノーキン男爵邸の場所を確認する。ちょうどエルフの森の途中にあり、僕はリック達に相談することにした。


「みんなに相談してみるから、いいかな?」

「わかった。返事を待っているよ」


「あのー」


 シロエが恐る恐る会話の中に入ってきた。


「アタシも行っていいですか?」

「売店の仕事どうするの? 前もってお休みするって言っていないでしょ?」


 メイビスがそう言うと、シロエはガッカリした表情で肩を落とした。


「メイビスさ。シロエのことも含めて、みんなと相談してもいいかな? シロエがかわいそうだよ」

「カイ氏がそう言うのなら」


 メイビスは頭を掻き、そう言った。


「じゃあ、みんなに伝えるよ」


 ◆


 僕はお世話になっている研究室に足を運ぶ。そして、研究班のリーダーに旅に出ることを伝えることにした。


「そうでしたか――残念です」

「もう僕はお役御免ですよね?」

「――そうですね。あとは子種を頂ければと」


(だから、それはダメだって)


「以前も話をしましたが、それはできません」

「ふぅ、仕方ないですね。聖者様、今までありがとうございました」


 そう言って研究班のリーダーは頭を下げた。


「こちらこそ、お世話になりました。また近くに寄ったら顔を出しますので」

「はい。顔だけでなく、子種もお願いします」


(懲りないね、マッドサイエンティストは)


 この後、僕は部屋に戻り、リック達に連絡を入れる。


『カイ、どうした?』

「旅に出るって研究室の人に言ってきたよ」

『そうか。お疲れ』

「それでね。途中までメイビスとシロエが一緒に旅をしていって言っているんだけど」

『途中? どこまでだ?』

「ノーキン男爵の所までだよ。ちなみにノーキン領はエルフの森に隣接する領ね」

『ルートから外れないんだろ? 一緒でもいいんじゃね?』


『あたいもいいと思う。メイビスちゃんとの旅、久しぶりだわ』

『私も大丈夫です』


 こうして僕らは、メイビスとシロエと一緒に旅に出ることになった。次の目的地はノーキン男爵邸だ。

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