第16話

 僕らは馬車に乗り、ディテル伯爵の所へ向かっている。途中、魔獣が出てくるかと思っていたがそんなことは無く、三日ほどで無事に伯爵邸の前まで辿り着いた。


「こ、ここがそうです」

「じゃあ、打ち合わせ通り行くよ。怖いと思うけれど必ず君達を助けるからね」


 ディテル伯爵の所に来るまで、僕らは今後の作戦を練っていた。僕は御者のお手伝いをしている人だと偽って、伯爵邸の中に入る。リック達は護衛だということにして、周囲を確認。鷹狩の行われる現場に行くつもりだ。


「何をやっている!」

「すみません」


 伯爵邸から男の人が出てきて、御者に向かって怒鳴っている。


「もう、鷹狩は始まっている。早く奴隷を引き渡せ」

「わ、わかりました」


 御者の返答を聞き、僕は子供達に呼びかけ集める。そして子供達と一緒に男の人の前に行った。


「この子達が奴隷です。どこに連れていけば――」

「三人しかいないのか――まあ、いい。そこの馬小屋へ行け、その後はそこにいる男に任せろ」

「わかりました」


 僕は子供達を連れて馬小屋へ行く。馬小屋の前には男が立っていて、どうやら僕らを待っている様子だった。


「すみません。遅れました」

「遅すぎる! 急いで行くぞ。ほらこっちだ」


 男が一人の子供の腕を掴んだので、すかさず、


『ダブルグラビティ!』


 男は体が重くなり、身動きがとりづらくなる。


「なっ」

「すみませんが、しばらくそのままでいてください」

「てめぇ、何者だ」


 僕は男の言葉を無視し、馬小屋の中を確認する。残念ながら人はいなく、鷹狩の行われる現場を探すことにした。


「鷹狩はどこで――」

「知るかっ」

『ホーリーアロー!』


 男の目の前にホーリーアローを打つ。男は驚き怯えたようだ。


「どこだ」

「き、北の草原です」


『リック、場所がわかった。北の草原だ』

『おう。こっちも適当なヤツを脅してわかったぞ』

『わかった。急いで行こう、現地集合で』


 ◇◆◇◆


「ぎゃー、痛いっ! だ、誰か!」


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

(あの子、かわいそう。でも逃げなきゃ)


 アタシは鷹狩の的と言われて、みんなと一緒に草原の真ん中に連れてこられる。その場で待機せよと言われ待っていたら、遠くの方で男の人がアタシ達を狙っているのが見えた。そのことがわかったみんなは叫びながら一斉に逃げ始め、不運にも打たれた子は血を流して倒れてしまう。酷い。何でこんなことになったの?


 ◆


「うーん。的が思ったよりも小さいな」

「そうですね。ちょこまかと動いて当てづらいですね」

「まあ、いい。腕試しには持ってこいだ。ちなみに全部で何人いる?」

「十五人ほどかと」

「そうか。弾切れになりそうだな――補充分はあるか?」

「はい」

「じゃ、持ってきて」


 ◆


「死にたくないよぉ!」

「誰か助けてよ!」


(叫ばない方がいいのに――息が切れるまでとにかく逃げなきゃ)


 私は必死に逃げた。叫び声が聞こえた方によそ見をしていたら、近くの地面が凹んだ。


(えっ、ここまで来るの? アタシ、死んじゃう)


 ◆


「よし、これで三人。あいつ遠くに逃げているな。無駄だと思い知らさせるか」

「ディテル様」

「何だ」

「補充分をお持ちしました」

「わかった。そこに置いておけ」

「わかりました」


 ◆


(酷い……)


 僕は鷹狩の現場に着いた。辺りを見回すと、リック達はまだ来ていないようだ。その代わり、子供達を狙っている男を見つけた。


(あいつか)


『ホーリーアロー! ホーリーアロー!』


 僕の放った複数の矢は、伯爵の近くの地面に突き刺さり、伯爵達は焦っているようだった。


 ◆


「なっ! 何が起きた。教えろ!」

「い、いえ。ディテル様。わたくしめには――」

「お前ら! 俺を守れ!」

「そ、そんな――この場を逃げる方が良いかと」

「ちっ。使えないな。中止にするぞ」


「はーあ~い。伯爵ちゃんでいいかしら♪」

「誰だお前!」

「誰でもいいでしょうよ♪」


 ◇◆◇◆


「先越されちまったな」


 オレは子供達を狙っている伯爵らしきヤツを見つけ急いで駆け寄る。残念ながらソプラっちの足の方が速く、先にソプラっちが伯爵に蹴りを入れて倒しちまった。


「早ぇえよ。ソプラっち」

「いいじゃない。カイちゃんのホーリーアローが飛んできたのは驚いたけど」

「そうだな。こいつを早く倒した方が、カイが子供達を助けられるからな」


 オレが逃げ惑う子供達の方に振り向くと、カイが打たれた子に回復魔法をかけているのが見えた。


「相変わらず、カイは仕事が早いな」

「そうね。あんな真剣な顔、久しぶりに見た気がする」


 クロードは嫁に従って、伯爵に仕えているヤツの足元を焼いていた。逃げられないようにするとは――嫁も鬼だな。


 ◇◆◇◆


(アタシ、助かったの?)


 叫び声が徐々に聞こえなくなったので、伯爵様の方を見てみた。すると男は倒れいて、その付近に冒険者らしき二人が立っていた。


「ソプラ姉さん!」


 冒険者らしき一人の人を見て、アタシは泣いた。助かったことがわかったのだ。そして助けてくれた人はアタシの恩人だったから。


 ◇◆◇◆


 あたいは男を縛りあげ、自分の仕事に満足感を感じていた。


「久しぶりにリックちゃんに勝ったぁ♪」

「飲みの席で、お前勝ってるだろうよ」

「それとは別よ♪」


 あたいがリックちゃんとそんなことを話していると、一人の女の子がこっちに来るのが見えた。


「ソプラ姉さん!」


 驚いたわ、まさかあの子が奴隷になっていただなんて。彼女の名前は確かシロエちゃん。隣国の貴族の女の子で、聖女見習いとして教国総本山に行っているはずなんだけれど、何でここにいるんだろ。


「ソプラっち知り合いか?」

「えぇ、馬車に乗る前に話した貴族の女の子。何でこんな所にいるんだろ? シロエちゃーーん!」


 あたいは手を大きく振る。シロエちゃんは息が切れたのか、その場に倒れてしまった。だからあたいは彼女の所に駆け寄る。


「はぁ、はぁ、はぁ」

「シロエちゃん、久しぶり。何でこんな所にいるの?」

「はぁ、はぁ」


 あたいは彼女の息が整うのを待った。


「ソプラ姉さん、はぁ、はぁ、お久しぶりです」

「とにかく無事で良かったわ。もしかして捕まって奴隷になったの?」

「そうです」

「そうなの」

「ソプラ姉さんと別れた後、馬車が襲われて攫われちゃった」

「ふぅ。許せないわ、シロエちゃんを奴隷として売るなんて」

「はい。ありがとうございます。また、助けていただいて」

「いいのよ~。それより体が汚れているから湯あみしようか」

「湯あみしたいです」


 ◇◆◇◆


 ソプラが女の子と話している。僕は不思議に思いながらリックの所に行った。


「ソプラが女の子と話しているんだけど」

「あぁ。貴族の女の子だってさ。馬車に乗る前に言っていただろ」

「あの子がそうなのか」

「まあ、どうでもいいや」

「そんな投げやりな」

「投げやり……」


 リックは何か考えているようだ、すると伯爵を見てからニヤリと笑い、僕にこう言った。


「カイ! ナイス! いいこと思いついたぞ」


 ◆


「カイちゃん、お疲れ様」

「お疲れソプラ。その子は?」

「この子はシロエちゃん。聖女見習いで、前のパーティーで護衛をしたときに知り合ったの」

「前に言っていた、貴族の子でいいんだよね?」

「そうよ。メルちゃんにも紹介するわ」


 メルがこちらにやってくる。クロードは楽しげにメルの頭の上で回っていた。


「メルちゃーん!」

「ソプラさーーん、終わりましたかー?」

「終わったよー」


 メルが僕らの所に着き、ソプラはメルにシロエを紹介した。


「この子はシロエちゃん」

「初めまして」


 シロエは僕らに深く礼をする。


「この人が、カイちゃんね。パーティーリーダー」

「パーティーリーダー? 初めて聞いたんだけれど」

「だって、お父さんのことを考えたら当然でしょ」

「ははは」


 僕は思わず苦笑いをすると、シロエがソプラに話しかけていた。


「ソプラ姉さん。メイビス兄さんは?」

「あぁ、あたい前のパーティーに追放されて、クビになったの。だからメイビスちゃんはここにはいないわ」

「そうなんですね……」

「シロエちゃん。メイビスちゃんのこと意識していたみたいだし」

「そ、そ、そんなこと」

「いいんじゃない。それより、この人はメルちゃん。カイちゃんの奥さんなの」


「初めまして、シロエさん」

「それで、この人がリック」

「よっ!」


「リック。さっきいいこと思いついたって言っていたけど」

「そうだ。伯爵邸にある槍を全部持ってきてくれ」


 ◇◆◇◆


「倒れているところ、すみません」

「なっ――」


 僕は伯爵の家臣と思われる人に声をかける。


「伯爵邸にある槍を全部持ってきてほしいのですが、持ってきてくれるのなら回復魔法をかけますので」


 槍を持ってきてくれるということなので、僕はクロードが怪我をさせた人達にヒールをかける。そして集められた子供達にも協力してもらうようにお願いした。


 ◆


「ほう。思ったよりもあるな」

「リック、集めたけれど何をするすもりなの?」

「まあ、見てなって。ソプラっち、勝負しようぜ」


 リックはそう言って伯爵を縛り上げ、草原へ連れていく。槍で伯爵の足を突き、動けなくした後、こちらに帰ってきた。


「お待たせ」

「……リック。まさかとは思うが」

「おう、そのまさかだぞ。じゃ、ソプラっちやろうか」


「槍を使えばいいのね? 先攻後攻は?」

「オレがお手本を見せるから、先攻で」

「負けないわよ」

「おう。じゃあ、カイと嫁は子供達と一緒に伯爵邸の中に行ってくれ」


(マジでやるのね。槍投げ大会)


 ◇◆◇◆


「行ったか?」

「えぇ、行ったみたい」

「じゃあ、やるか」


 まずはオレから。軽く槍を投げ距離感を掴む。


「ひぃぃ」


 思ったよりもイイ感じに投げることができ、伯爵の手前で槍が突き刺さった。


「や、やめてくれ!」


「こんな感じだ。ソプラっち次いいぞ」

「OK。これがいいかな」


 ソプラっちは長めの槍を選び投げる。伯爵の頭上を通り、奥の地面に突き刺さった。


「うーん。難しいわね」

「どんどん行くぞ」


 そのあとは、オレとソプラで伯爵を狙ったが、中々当たらない。伯爵は失禁して泣いていた。


「お前がやってきたことだぞ。因果応報」


 ◇◆◇◆


 僕はメルと一緒に子供達の今後について話し合っている。方針が見つからないまま、リックとソプラが戻ってくるのを待った。


「どうしようね。メル」

「ここの人に子供達をお願いしても、伯爵様がいますからね」


「よっ! ただいま」


「リックどうだったの? 殺してないよね?」

「ドローだ。いやー、勝てると思ったんだけれど当たらなかった。まあ、そのあと狩りができないように両手を潰したがな」


 伯爵が死んでいないことを裏付けるその言葉を聞いて、僕は安心した。


「リックちゃんに勝つのに力いっぱい投げたけど当たらなかったわ」

「力いっぱいって――ソプラがやったら、ヤバいでしょ」

「いいのよ。シロエちゃんをあんな目に遭わせたんだから」

「ははは」


「それよりもカイ。このガキらどうする?」

「どうしようね」


「シロエちゃんはどこか行きたい所ある?」

「えーっと、教国総本山には行きたくないです」

「そうなの」


 聖女見習いなのに行きたくないだなんて不思議に思った。僕はシロエに教国総本山に行きたくない理由を聞いた。


「どうして行きたくないの?」

「一度入ったら中々外に出れないんです」

「そういうものなんだ」

「素敵な人と一緒になって家庭を持ちたいのに、そのことが叶わないなんてイヤです」

「そうか」

「十何年か前に聖女が総本山にいたんですけれど、魔物に襲われたあと行方不明になって」

「うん」

「そのあとは聖女見習いしか見つかっていないみたいで、みんな教国総本山に集められるみたいです」

「聖女になる人を見つけるのか」

「はい。行きたくなかったのですが、貴族だからってお父様に言われて仕方なく――たぶん行方不明になった聖女もアタシと同じように家庭を持ちたかったのかなって」


(そんなことがあったのか。行方不明の聖女が見つかれば、シロエは行かなくてもいいのにな)


「そうか。これからどうしようね」


「あっ」

「どうしたのソプラ?」

「メイビスちゃんは国立研究所の研究員になりたいんだっけ」

「どういうこと?」

「シロエちゃん、メイビスちゃんに会いたいよね? 気になっているんでしょ?」


 シロエは俯いていた。どうやらソプラの言ったことは図星みたいだ。


「ということで、カイちゃん。国立研究所に行かない? ちょっとだけルートから外れるけれど」

「うーん。それでシロエのことは解決できたとしても残りの子達はどうしよう」


「カイ。それは伯爵に責任とってもらおうぜ」

「ここで面倒を見てもらうってこと?」

「そうだ。人数が多すぎるし、そのくらいしかできんだろ」

「うーん。そうしようか」

「あっ、そうだ、それからな――」


 槍投げ大会で伯爵は気絶したそうだ。その伯爵を木に縛り付けてきたとリックは言っていたので、まあ、殺さなかったことだけでもよしとしよう。子供達はここの人達にお願いをして、ソプラの提案通り僕らはシロエを引き連れ、国立研究所へと向かうことにした。

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