第15話
「リックさん。ありがとうございました」
「おう。エリックとよろしくやってくれ」
「あなたには感謝しても感謝しきれません」
「せっかく、ローザを助けたんだ。必ず幸せにしろよ」
「はい。もちろんです!」
リックとソプラが戻ってきてから、僕達はエリックの家に一泊させてもらった。あの後のことを聞くと、ソプラ曰く、ローザのお義姉さんがリックのことを気に入った様子だったそうだ。リックも「あんだけの美人なかなかいないね。彼女と一晩過ごしてみたいよ」と、その話題になった時にはローザは複雑そうな表情をしていた。
「リックちゃん。残らなくていいの? 貴族になれるかもしれないよ?」
「うーん。貴族ってガラじゃないな。それにアイツの両親、面倒くさそうだし」
「あら、そうなの? 地元だしいい話じゃない?」
「今はいいや。カイと嫁と一緒にエルフの森に行きたいしな」
「ふーん」
「リック、そろそろ行こうか。ローザ、エリック、それじゃ元気で」
「はい、カイさんもお元気で」
「ありがとうございました。皆さんもお元気で」
◇◆◇◆
「ディテル様、鷹狩の準備ができました」
「そうか。今日は何人だ?」
「二十人でございます」
「わかった。しかしなあ、男の奴隷ばかりでつまらんぞ。たまには女、子供の的を打ってみたいな」
「女の奴隷は少々値段が高くありまして、子供ならば――」
「ほう。それじゃ、子供を沢山連れてきてくれ」
「わかりました」
「ちなみにいつ頃、鷹狩ができる?」
「一週間後にはなんとか……」
「じゃ、よろしく」
◇◆◇◆
エリックの家を出発して、僕らは旅を続ける。遭遇する魔獣を倒していくことは、容易くできるようになった。ただ、
「右前方にオーガの群れがいる。みんな気をつけて進もう」
オーガの群れと聞いて、ソプラが不安そうな表情を浮かべる。
「カイちゃん。あたい前衛から下がっていい?」
「うーん。リックどう?」
「大丈夫だぞ。オーガキングが出たらタイマンじゃないとキツイがな」
「わかった。オーガキングが出たら、他は残りのメンバーで戦うよ」
ソプラが下がりたい理由がわかった。まだ、湖畔で戦ったオーガキングへの恐怖が拭えないのであろう。
『ホーリーアロー!』
「でやぁ!」
「かかってこいよ! ふっ!」
「主様。おいらも前にいきたい♪」
「クロード。カイ様に言われているでしょ? 私を守ることが最優先だって」
「むぅ――えい!」
後ろから音が聞こえたので振り返ると、僕の目の前に炎がやってきた。
「リック! ソプラ! 左右に逃げて!」
僕はそう言い、炎の中に巻き込まれた。
「カイ様!」
「ああ、旦那様!」
「ソプラっち。攻撃全開でいくぞ!」
「OK!」
「カイ様! 今、ポーション――」
「『ヒール!』……メル。大丈夫」
目の前の炎が消えて、メルの姿が見える。僕の無事を確認するとメルはホッとした様子だった。
「カイ、大丈夫か! こっちは終わったぞ」
「大丈夫。ありがとうリック」
リックの手を借り、起き上がる。メルを見ると、クロードに説教をしていた。
「クロード。何で勝手なことしたの?」
「ううぅ。ごめんなさい……」
「カイ様に何かあったら、わかってる?」
「何ですか? 主様?」
「カイ様に何かあったら湖に沈めるから。わかった? クロード」
「はぃ……」
(うん。メルを怒らせないようにしよう。うん、そうしよう)
◆
「そういえば、ソプラ。僕らのパーティーに加入する前に男の人がソプラを心配していたでしょ?」
「懐かし、そんなこともあったわね」
「彼、後衛って聞こえたけれど、ジョブは何だったの?」
「メイビスちゃんは魔導師よ。魔法使いの上位職」
「へー、すごいね。そんな人とパーティーを組んでいたなんて、なかなか組めないでしょ」
「あたいに言わせれば、カイちゃんと一緒にパーティーを組んでいることの方が凄いわよ」
「そうなの?」
「カイちゃんは勇者パーティーにいたメンバーの息子って自覚無いでしょ?」
「ははは、言われてみればそうだね。でも、父さんがそういう人だなんて、僕知らなかったんだよ」
「カイ。あそこで馬車が襲われている。急ごう」
リックが指を差した方を見ると、野盗に襲われている馬車があった。
「メル、ソプラ。急ごう――って、クロード?」
いつの間にかクロードは馬車のところに行っていて、野盗達と馬車の護衛は炎に包まれていた。
(もう!)
◆
「主様♪ 旦那様♪ ほめて、ほめて~♪」
馬車の所に着くと、クロードはこちらに来て、呑気にメルの周りを飛び回っている。
「みんな生きてるな」
「そうだね」
「カイ。こいつら全員ガラ悪くね?」
「そう見えるね」
「魔力温存してくれな。こいつらにヒールかけなくても死なないから」
(うーん。それはどうかと)
「臭うわね」
「ソプラどうしたの?」
「臭いのよ。たぶん馬車の中」
「ちょっと見てみようか」
僕が
(奴隷?)
「リック! 誰か意識がある人いるか?」
「いるぞ、御者台で縮こまっているヤツが」
「わかった」
僕は御者らしき人に状況を聞くことにした。
「すみません」
「ひぃー」
「大丈夫です。あなたに危害を加えるつもりはないですから」
「本当ですか?」
「はい。それで聞きたいことがあるんですが」
「何でしょうか」
「荷台にいる子供達は何ですか?」
御者は視線を外し答えない。
「わかりました。護衛を治療しないので、道中魔獣に襲われないようにしてください」
「わかりました! わかりました! 言います!」
「それであの子達は?」
「ディテル伯爵の所まで連れていくように言われたんです」
「ディテル伯爵? 何であの子達が?」
「カイちゃん。こっちはクロちゃんが枷を溶かしてくれた。子供達は大丈夫」
「ありがとう、ソプラ」
ソプラから子供達の無事が伝えられると、リックがこちらに来た。
「オレがコイツやっていいか?」
「ダメだよ。無意味に暴力振るっちゃ」
「質問に答えないなら、実力行使が一番でしょ」
「ごめんなさい、ごめんなさい。命だけはどうか」
「あの子達は?」
「伯爵の鷹狩の為に連れていくんです。鷹狩の的にする為」
(的? 子供達を的にするって)
「的にしてあの子達を殺すのか?」
「そうです」
「カイ。ムカつくからコイツやっちまおうぜ」
「リック落ち着いて。この人にその伯爵の所まで連れていってもらおう。伯爵を懲らしめないと」
「それもそうか。よし! お前案内しろ」
「その前にこの人達にヒールを――」
「カイちゃん、こいつら女癖が悪いろくでもない連中よ。ほっといて大丈夫」
「ソプラ、この人達を知っているの?」
「えぇ。パーティーに入ってきた女をまわして食い物にするの。危うくあたいも入るところだったわ」
「そうなんだ。あれ? 前のパーティーで――」
「あのパーティーは護衛の仕事のとき、貴族の女の子に手を出そうとしたの。だからその子に手を出さないように、あたいが代わりにしてあげたの。それから、ことあるごとに要求されたけど。まっ、メイビスちゃんは紳士だったからそんなことは無かったけどね」
メルはそのことを聞いて、クロードに護衛の人達を焼いてもらうようにお願いしたが、僕はメルを諭しクロードを止める。道端に野盗と護衛が転がっているが放っておいて、僕らは馬車の中に乗り込んだ。
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