第16話

「リックさん。ありがとうございました」

「おう。エリックとよろしくやってくれ」


「あなたには感謝しても感謝しきれません」

「せっかく、ローザを助けたんだ。必ず幸せにしろよ」

「はい。もちろんです!」


 リックとソプラが戻ってきてから、僕達はエリックの家に一泊させてもらった。あの後のことを聞くと、ソプラ曰く、ローザのお義姉さんがリックのことを気に入った様子だったそうだ。リックも「あんだけの美人なかなかいないね。彼女と一晩過ごしてみたいよ」と、その話題になった時にはローザは複雑そうな表情をしていた。


「リックちゃん。残らなくていいの? 貴族になれるかもしれないよ?」

「うーん。貴族ってガラじゃないな。それにアイツの両親、面倒くさそうだし」

「あら、そうなの? 地元だしいい話じゃない?」

「今はいいや。カイと嫁と一緒にエルフの森に行きたいしな」

「ふーん」


「リック、そろそろ行こうか。ローザ、エリック、それじゃ元気で」

「はい、カイさんもお元気で」

「ありがとうございました。皆さんもお元気で」


 ◇◆◇◆


「ディテル様、鷹狩の準備ができました」

「そうか。今日は何人だ?」

「二十人でございます」

「わかった。しかしなあ、男の奴隷ばかりでつまらんぞ。たまには女、子供の的を打ってみたいな」

「女の奴隷は少々値段が高くありまして、子供ならば――」

「ほう。それじゃ、子供を沢山連れてきてくれ」

「わかりました」

「ちなみにいつ頃、鷹狩ができる?」

「一週間後にはなんとか……」

「じゃ、よろしく」


 ◇◆◇◆


 エリックの家を出発して、僕らは旅を続ける。遭遇する魔獣を倒していくことは、容易くできるようになった。ただ、


「右前方にオーガの群れがいる。みんな気をつけて進もう」


 オーガの群れと聞いて、ソプラが不安そうな表情を浮かべる。


「カイちゃん。あたい前衛から下がっていい?」

「うーん。リックどう?」


「大丈夫だぞ。オーガキングが出たらタイマンじゃないとキツイがな」

「わかった。オーガキングが出たら、他は残りのメンバーで戦うよ」


 ソプラが下がりたい理由がわかった。まだ、湖畔で戦ったオーガキングへの恐怖が拭えないのであろう。


『ホーリーアロー!』

「でやぁ!」

「かかってこいよ! ふっ!」


「主様。おいらも前にいきたい♪」

「クロード。カイ様に言われているでしょ? 私を守ることが最優先だって」

「むぅ――えい!」


 後ろから音が聞こえたので振り返ると、僕の目の前に炎がやってきた。


「リック! ソプラ! 左右に逃げて!」


 僕はそう言い、炎の中に巻き込まれた。


「カイ様!」

「ああ、旦那様!」


「ソプラっち。攻撃全開でいくぞ!」

「OK!」


「カイ様! 今、ポーション――」

「『ヒール!』……メル。大丈夫」


 目の前の炎が消えて、メルの姿が見える。僕の無事を確認するとメルはホッとした様子だった。


「カイ、大丈夫か! こっちは終わったぞ」

「大丈夫。ありがとうリック」


 リックの手を借り、起き上がる。メルを見ると、クロードに説教をしていた。


「クロード。何で勝手なことしたの?」

「ううぅ。ごめんなさい……」

「カイ様に何かあったら、わかってる?」

「何ですか? 主様?」

「カイ様に何かあったら湖に沈めるから。わかった? クロード」

「はぃ……」

(うん。メルを怒らせないようにしよう。うん、そうしよう)


 ◆


「そういえば、ソプラ。僕らのパーティーに加入する前に男の人がソプラを心配していたでしょ?」

「懐かし、そんなこともあったわね」

「彼、後衛って聞こえたけれど、ジョブは何だったの?」

「メイビスちゃんは魔導師よ。魔法使いの上位職」

「へー、すごいね。そんな人とパーティーを組んでいたなんて、なかなか組めないでしょ」

「あたいに言わせれば、カイちゃんと一緒にパーティーを組んでいることの方が凄いわよ」

「そうなの?」

「カイちゃんは勇者パーティーにいたメンバーの息子って自覚無いでしょ?」

「ははは、言われてみればそうだね。でも、父さんがそういう人だなんて、僕知らなかったんだよ」


「カイ。あそこで馬車が襲われている。急ごう」


 リックが指を差した方を見ると、野盗に襲われている馬車があった。


「メル、ソプラ。急ごう――って、クロード?」


 いつの間にかクロードは馬車のところに行っていて、野盗達と馬車の護衛は炎に包まれていた。


(もう!)


 ◆


「主様♪旦那様♪ほめて、ほめて~♪」


 馬車の所に着くと、クロードはこちらに来て、呑気にメルの周りを飛び回っている。


「みんな生きてるな」

「そうだね」

「カイ。こいつら全員ガラ悪くね?」

「そう見えるね」

「魔力温存してくれな。こいつらにヒールかけなくても死なないから」


(うーん。それはどうかと)


「臭うわね」

「ソプラどうしたの?」

「臭いのよ。たぶん馬車の中」

「ちょっと見てみようか」


 僕がほろの中に入ると枷を嵌められている三人の子供達がいた。


(奴隷?)


「リック! 誰か意識がある人いるか?」

「いるぞ、御者台で縮こまっているヤツが」

「わかった」


 僕は御者らしき人に状況を聞くことにした。


「すみません」

「ひぃー」

「大丈夫です。あなたに危害を加えるつもりはないですから」

「本当ですか?」

「はい。それで聞きたいことがあるんですが」

「何でしょうか」

「荷台にいる子供達は何ですか?」


 御者は視線を外し答えない。


「わかりました。護衛を治療しないので、道中魔獣に襲われないようにしてください」

「わかりました! わかりました! 言います!」

「それであの子達は?」

「ディテル伯爵の所まで連れていくように言われたんです」

「ディテル伯爵? 何であの子達が?」


「カイちゃん。こっちはクロちゃんが枷を溶かしてくれた。子供達は大丈夫」

「ありがとう、ソプラ」


 ソプラから子供達の無事が伝えられると、リックがこちらに来た。


「オレがコイツやっていいか?」

「ダメだよ。無意味に暴力振るっちゃ」

「質問に答えないなら、実力行使が一番でしょ」


「ごめんなさい、ごめんなさい。命だけはどうか」

「あの子達は?」

「伯爵の鷹狩の為に連れていくんです。鷹狩の的にする為」


(的? 子供達を的にするって)


「的にしてあの子達を殺すのか?」

「そうです」


「カイ。ムカつくからコイツやっちまおうぜ」

「リック落ち着いて。この人にその伯爵の所まで連れていってもらおう。伯爵を懲らしめないと」

「それもそうか。よし! お前案内しろ」

「その前にこの人達にヒールを――」


「カイちゃん、こいつら女癖が悪いろくでもない連中よ。ほっといて大丈夫」

「ソプラ、この人達を知っているの?」

「えぇ。パーティーに入ってきた女をまわして食い物にするの。危うくあたいも入るところだったわ」

「そうなんだ。あれ? 前のパーティーで――」

「あのパーティーは護衛の仕事のとき、貴族の女の子に手を出そうとしたの。だからその子に手を出さないように、あたいが代わりにしてあげたの。それから、ことあるごとに要求されたけど。まっ、メイビスちゃんは紳士だったからそんなことは無かったけどね」


 メルはそのことを聞いて、クロードに護衛の人達を焼いてもらうようにお願いしたが、僕はメルを諭しクロードを止める。道端に野盗と護衛が転がっているが放っておいて、僕らは馬車の中に乗り込んだ。

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