第13話
「あったま痛ぇ」
「リック大丈夫?」
「ああ、もう少し時間が経てば大丈夫だ」
「そうか。じゃあ出発は明日に変更しよう」
「ありがてぇ」
ソプラの個人ランク昇格祝いでリックは飲み過ぎたみたいだ。なので僕は王都出発を一日あとに延ばすことに決めた。
「メル」
「はい。カイ様」
「出発を明日にするからショッピングに行かないか?」
「はい! 行きます。デートですよね?」
「そうとも言うかな」
「わーい!」
僕はメルと一緒に王都の商業街を見て回った。お菓子を買ったり、果物を買ったり楽しんだ。そんな中……、
(魔道具店? こんな所にできたんだ)
「メル、ここに入ってみない?」
「いいですよ」
僕は魔道具店の中に入る。小さな物だったり杖だったり、様々な物があった。
(こんなのもあるんだ)
僕はショーケースの中にある指輪に目を奪われた。
「お客さん、その指輪が気になるんかい?」
「はい。とても綺麗でなんか惹かれるんですよ」
「そうか」
「これはどんな
「念話の指輪だ」
「念話?」
「そうだ。多少離れていてもお互いのコミュニケーションが取れる。まあ、あんたみたいな若い男には俺はおススメしないけどね」
「どういうことです?」
「会話が丸聞こえで浮気がバレるんだよ」
「私! これ買います!」
店員さんの話を聞いて、メルが食いついた。初めから彼女に買わせるためのポジショントークだと思ったけれど、まあいいや。
「毎度! いくつ買うんだい?」
「二つお願いします」
「メル」
「何ですか?」
「もっと買おう。リック達にも渡せばいろいろ役に立つ」
「そうですね……」
「ほう、嬢ちゃんは残念そうだな。これの派生品もあるぞ、その二つの他にこっちを沢山買ったらどうだ?」
(この店員さん、やり手だ)
結局、僕とメル用の念話の指輪の他に、それとは違う念話の指輪を多めに購入した。
「ありがとな。また来てくれな」
◇◆◇◆
「カイ、ちょっと行ってくるわ」
「娼館か」
「そうだぞ」
「リックは気に入った店でもあるの?」
「ここの娼館、レベルが高いんだよ。次いつ行けるかわからないしな」
「はぁ、気をつけてね」
「おう」
夕方、オレはお気に入りの娼館へ行く。おそらく最後だから、今日は奮発するつもりだ。
「いらっしゃいませ――リック様ですね」
「覚えてくれたのか?」
「はい。素敵な夜を過ごせると嬢達に好評なようなので」
「そう言ってもらえると自信がつくな」
「それで今日はどのような嬢をご所望でしょうか?」
「しばらく来れないから、できるだけ高級なのでお願い」
「そうですか――ちょうどイイ嬢が入ったんですよ」
「へぇー」
「元貴族で男を知らない者です」
「初物か?」
「はい、そうなります」
(初物か……少し抵抗があるんだが)
「わかった。それでお願い」
「わかりました。少々お待ちください」
オレは財布の中身を確認して、嬢を待った。
「お待たせしました」
目の前に現れたのは、かなりの美人だ。カイの嫁より少し胸が小さいが、このような嬢に当たることはほとんどないから、ラッキーだな。
「おう、早速だが部屋まで案内してくれ」
「……すみません。来たばかりなので、どこに行けばいいのか」
(本当に新人なんだな)
「支配人」
「リック様、何でしょうか?」
「一番上の階で突き当りにある部屋でいいんだよな」
「はい。そこで間違いありません」
「わかった。じゃあ行こうか」
オレが先導して部屋まで行く。部屋の前まで来て、鍵を持っている嬢に扉を開けさせた。
「ほう、随分とまた、立派な」
部屋の中に入ると高級そうなベッドがあり、最後の夜にふさわしい場所だなと感じた。
「じゃあ、湯あみをし――、どうした?」
泣きながら震えている、きっと初めてで怖いのだろう。
「いえ、何でもありません」
「何でもないってことはないだろう。泣いている女を抱く趣味はないんだ、だから不安に思っていることがあるのなら言ってくれ」
しばらく待ってみたが彼女は喋らない。埒があかないので、オレから声をかけた。
「名前なんていうんだ?」
「ろ、ローザで、す」
(ローザ……)
「それは本名か?」
「は、い」
(……そうか)
「ここに来た理由があるんだろ? せっかくだから教えてくれないか?」
ローザは自分のことを話し始めた。貴族だったらしいが、贅沢三昧で家が傾きかけていたそうだ。そんな中、夕食の際に何者かに押さえつけされ、目隠しをされる。義母と義姉の話す声が聞こえてきて、これから私を娼館に売る。お金に困っているから「あんたは生贄なんだよ」みたいな事を義母から言われたそうだ。
そして昨日、目隠しを外され「ここは娼館なのか……、何で自分がこんな目に遭わなくてはいけないのだろう」悲しい気持ちが拭えぬまま、今に至るわけだ。
「もう、私には、帰れる、ところが、ありま、せん」
オレは黙って彼女の話を聴く。
「体を売る、ことよりも、エリックに、もう会えない、かと思うと、辛いです」
「エリックとは?」
「幼馴染です」
(……ローザか、これも何かの縁かもしれん)
「なあ」
「はい」
「身請けしていいか?」
「身請けとは何でしょうか?」
「簡単に言うと、お前を買う。ここで不特定多数の男に抱かれるのではなくて、オレ専属になるわけだ」
「そういう言葉なんですね」
「オレ専属になれば、そのエリックに会えるかも知れんぞ」
彼女はそれを聞き、驚いているみたいだ。
「本当ですか! 是非! お願いします! 私を身請けしてください!」
◆
「リック様、この嬢の身受けがしたいということで間違いありませんね」
「そうだ。いくらになる?」
「そうですね――白金貨二枚でどうでしょうか?」
(白金貨二枚ってボッタくり過ぎでしょ)
「わかった。持ち合わせが無いから一旦戻っていいか?」
「はい。その間は嬢を働かせませんので、その分の補償金が追加でかかりますが?」
「それでいい。ローザ、ここで待っていてくれ」
オレは娼館を出て急いでカイの家に戻る。それからカイを探して、
「カイ!」
「リック、どうしたの?」
「金貸してくれ」
「唐突だな、何かあったの?」
「あったと言えば、あったんだが……」
「言いたくないのね。いくら貸せばいいの?」
「白金貨二枚だ」
「白金貨二枚! そんなに持ってないよ」
「あるだけでもいいから頼む」
カイは悩んでいるようだ。金を返すことができなければ、信用が無くなる。このパーティーにいることも難しくなるだろう。
「理由がわからないと貸せないよ」
話したくはなかったが、オレは嬢を身請けしたいという理由を話した。
「そういうことか――」
カイから金を借り、それだけでは足りなかったので、嫁とソプラっちからも金を借りた。
◆
「リック様、お待ちしておりました」
「金ができた。これだ」
オレは支配人に金貨を二百枚渡す。支配人はそれを数え、金貨が足りないかどうかを確認した。
「確かに。――では、準備させますので、しばらくお待ちください」
支配人がローザを呼びに行く、彼女はすでに準備を整えていたのか、すぐにオレの所に来た。
「リック様、お待たせしました」
◇◆◇◆
(まだかな……)
僕はリックの帰りを玄関で待っていた。身請けする子のことで、リックは何かしら僕らにお願いをするのだろう。そんな気がして落ち着かなかった。
「ただいま」
リックが女の子を連れて帰ってきた。
「リック、その子がそう?」
「ああ、そうだ。それでみんなを集めてきて欲しいのだが」
「わかったよ」
みんなをリビングに集める。そのあと今後の旅のルートについてリックからお願いをされた。
「この子がローザ。ミレー領の貴族で、幼馴染に会いたいそうだ。予定ルートから大きく外れるが、そこに行きたい。それとその途中にオレの故郷があるからそこにも寄りたい」
どうやらリックはローザという女の子を幼馴染の所で連れていきたいみたいだ。
「僕はいいと思う。ソプラは?」
「あたいもいいと思うわ」
「カイ様。私、リックさんの故郷が見てみたいです」
全員賛成。クロードはメルの頭の上でうんうんと頷いている。
「じゃあ、これからルートの確認をしよう」
僕がそう言うと、ローザから感謝された。
「みなさん、ありがとうございます!」
彼女は本当に幼馴染に会いたいのかと感じ、この判断は間違いではないと思った。
◆
翌日
「父さん、母さん、いってきます」
「何かあったら連絡を寄越すんだぞ」
「わかった。指輪があるから連絡するね」
「気をつけてね、カイ」
「母さん、いってきます」
僕は実家を出発し、みんなと共にミレー領を目指す。メルがクロードの主になったので、魔獣が出ても炎で難なく倒すことができた。そして次の町の宿屋で、
「ソプラっち、ローザと相部屋で頼む」
「そうなの? リックちゃん身請けしたんでしょ? 一緒の部屋じゃなくていいの?」
「まあ、細かいことは気にするな」
「リックちゃんが言うならいいわ。ローザちゃん、あたいと同じ部屋ね」
どうやら、リックはローザに夜伽を求めていないみたいだ。「娼館に行きてぇ。金が無ぇ」と言っているのに不思議だ。
◆
「もうそろそろ、オレの故郷に着く」
旅は順調。メルもいろいろな所を巡れて楽しいみたいだ。父さんにメルと沢山いい思い出を作りなさいと言われたことを思い返し、これからもメルを大事にする。その気持ちでいっぱいだった。
「着いたぞ」
リックが足を止める。リックの生まれ故郷である村は廃れていて、何とも言えない光景だった。
「ちょっと行きたい所があるんだ」
リックの後をついていく。しばらく歩いて止まった先には、木で作られた十字架、そうお墓があった。
「帰ってきたよ。ローザ姉さん」
リックはそう呟き、お墓の前で黙祷をしている。僕らはそのようすを黙って見ていた。
「……、カイ、ありがとう。ここに来れて良かったよ」
◇◆◇◆
オレは故郷に帰ることができた。暖かい日差しの中、ローザ姉さんのお墓に行き、昔のことを思い出していた。
『えっ。ローザ姉さんがゴブリンに攫われたって、ホントですか?』
『そうだ。村の女全員攫われた。今からみんなで助けにいく』
『オレも連れていってください』
『危険だ。お前は残れ』
『イヤです。それなら勝手について行きます』
村のみんなとゴブリンの巣に行く。ゴブリンとの戦いは死闘を極め、ゴブリン達がの死んでいくだけではなく、村のみんなも死んでいった。
『ローザ姉さん、どこにいるんだ』
オレは竹でできた槍を振り回し、ゴブリンと戦う。目を狙っては刺し、目を狙っては刺し、それを繰り返してゴブリン達を戦闘不能にしていった。
『この奥か。――ローザ姉さん!!』
ローザ姉さんを見つけた。ローザ姉さんはゴブリンに穢され、体中が白かった。そしてローザ姉さんの首はありあない方向に曲がり、死んでいるのが一目でわかった。
『姉さーーん!!』
そこから先はよく覚えていない。たぶん我を忘れゴブリン達に襲いかかったのだろう。気がついた時には死体の山。村のみんなも死んでいたし、ゴブリン達は全員死んだ。
オレは攫われた人も含め、生き残った人達と死体を村まで運ぶ。何度も往復した。ローザ姉さんの亡骸は最後に運ぶことにし、オレはローザ姉さんを抱えたときには涙で視界が歪み、目の前が見えなかった。
◇◆◇◆
「幼馴染の墓なんだね」
「そう、ゴブリンにやられたんだ」
◇
『ああ、女が入ると気を使うんだよ。討伐に失敗するとゴブリンなどに犯されちまう』
◇
リックは空を仰ぎ見ていた。生温い風が吹き、太陽の光が雲の間から差し込む。僕はその光景を見て何とも言えなかった。
「カイ、ソプラっち、ありがとう。行こうか」
「リック、もういいの?」
「ああ、墓参りができたからな。大丈夫だ」
リックの故郷をあとにして、僕らはローザの実家であるミレー子爵邸へと向かう。僕はリックのことが気がかりだったが、リックは魔獣と戦っているときも、みんなと談笑しているときも、今までと同じように変わらなかった。
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