第13話

 猫探しの依頼を受けた翌日、リック、ソプラと共に僕は王都の街中を歩いていた。


「カイちゃん。匂いが混ざって、ここからだとホシがわからないわ」

「そうなのか。じゃあ、北のエリアから順番に歩いて行こうか」


 僕らは北のエリアから時計回りに各エリアを周り、猫を捜すことにする。


「ふーん。ここから北のエリアなのね」

「そうだよ。城に近い所から身分の高い人たちが住んている感じだね」

「カイちゃんの家は城近くに無いわよね?」

「そうだね」

「元勇者パーティーの人が城近くに住んでもいいのにね」

「うーん。意識したことが無いかな。あっ、もしかすると僕ら姉弟に身分は高くないぞと認識させるため、家を城から離れたところに建てたのかもしれない」

「そうなんだ」


「ソプラっち。匂いがわかるか?」

「ちょっと待ってね」


 ソプラはトイレシートの欠片を嗅ぐ。


「同じ匂いは無い。近くにはいないわ」

「ソプラっち、あんがと」

「リック、ソプラ、次の突き当りを右ね」


 歩き続け、地道に探したがこの日は見つからず。日没前には切り上げた。


 ◆


「ただいまぁ」

「カイ様、おかえりなさい」

「メル、お疲れ様」

「えーっと、カイ様。湯あみにします? 食事にします?」


「メルちゃん、それじゃセリフが足りないわ」

「ソプラさん、どういうことです?」

「湯あみにします? 食事にします? それともア・タ・シ♡。でしょ?」


(余計なことを教えなくていいよ。ソプラ)


「カイ、なんかイイ匂いするな」

「そうだね。今日はお好み焼きか」

「カイ、お好み焼きって何だ?」

「隣国の料理なんだけれど、うちではよく食べるんだよ」

「ほう」

「リック、食べてみたら美味しさがわかるから」

「じゃ、もらいますか」


 僕らはリビングに向かう。キッチンの近くで姉弟達が食事をしていた。


「ゴメン。リック、ソプラ、もうちょっと待って」

「あいよ」

「大丈夫よ」


 姉弟達の食事が終わる。僕らが席に移動すると、メルが黒い物体Xを持ってきてくれた。


(ん? なんだこれ?)


「お待たせしましたぁ、みなさん」

「メル、ありがとう」


「カイ、これ何だ?」

「結構焦げているわね、メルちゃんこれは何?」


「えっ、お好み焼きですけど」


「これがお好み焼きか。カイ先に食べていいか?」


 僕が黒い物体Xに戸惑っていると、リックがそれを食べ始めた。


「……」


 リックは微妙な顔をしている。


「じゃ、あたいも頂こうかしら」


 ソプラが物体Xを食べた後、彼女は眉間にしわを寄せた。


「カイ様も是非召し上がってください」

「わかった」


 僕は、お好み焼きであろう物体Xを口に運んだ。


(苦すぎる……)


「どうですかね?」


 メルが心配そうに見てくる。


「お、お、美味しいよ。メル」

「よかったぁ。ちゃんと火を通してよかったぁ」


(火を通した? 燃やしただろ、これ)


「カイ、オレお腹いっぱいなんだ、お前にやるよ」

「あたいもお腹いっぱい。カイちゃん食べて」


(お前ら逃げるな)


「そういえば、メルは食べたの?」

「はい。ここまで火を通していないものを食べました。美味しかったですよ」


(それをくれ)


「メルの食べたヤツも食べたかったなぁ」

「そんなんですか。おかわりができるように沢山作ったのですが、残りは全部ちゃんと火を通してしまいました♡」


(物体Xは沢山あるのね)


「カイ様、沢山食べてくださいね♡」


 こうして僕は一時間近くかけて、メルが出してきたお好み焼きを食べきった。


 ◆


 翌日も猫捜し。今度は昨日行けなかった南のエリアを捜していく。


「ソプラっち、どう?」

「ここも感じないわ」

「ふー。結構大変なんだな」

「そうね、リックちゃん」

「別の意味でBランクの仕事ってことか」


(地道にやるしかないな)


 この日もこれといった成果は出なかった。


 ◆


「ただいまぁ」

「カイ様、おかえりなさい」

「メル、お疲れ様」

「カイ様。今日はカレーです」

「おっ、カレーなんだね。楽しみだ」


(よかった。物体Xじゃなくて)


 昨日と同じように姉弟が食べている。姉弟が食べ終わってから、僕らは席に着いた。


「お待たせしましたぁ」


(おいおい。こんな赤いカレー見たことないぞ)


「お肉苦手なんで、お肉の代わりに豆を沢山いれましたぁ」


「カイ、これがカレーってヤツなんだな。先にもらうわ」


 カレーを出されてすぐに、リックはカレーを食べる。すると彼は目玉が飛び出るくらいに目を見開いた。


「じゃ、あたいも」


 昨日のことがあったせいなのか、ソプラはほんの少しだけ口の中に入れた。


(なんかすごい顔しているな)


 僕もカレーを頂く。


(辛っっ!! マジか、激辛ってもんじゃないだろ)


「カイ様、どうですか?」


 メルが不安そうに見てくる。


「お、お、美味しいよ。メル」

「よかったぁ。これを入れるとピリッとして美味しくなるって義母様が言っていたから、缶ごと全部入れました」


(メル。小さじ一杯でいいんだよ)


「カイ、オレ忘れものしたから外出するわ」

「あたいも忘れた。外に行くね」


(お前ら逃げるな)


「そういえば、メルは食べたの?」

「はい。グリーンカレーを食べました。美味しかったですよ」


(それをくれ)


「メルの食べたヤツも食べたかったなぁ」

「そんなんですか。ごめんなさいカレーのおかわりはないです。昨日のお好みが余っていますから、火を通してあたためますね♡」


 僕は舌にヒールをかけながら、頑張って地獄カレーを食べきった。翌朝、お尻が痛くて堪らなかった。


 ◆


コンコンコン


「おはようございます!」

「あっ、エミル姉!」

「もしかしてカイ君? 随分と大きくなったね」

「ははは、そうですね。何年も会っていなかったから」

「ラルフさんは?」

「父さんなら、今リビングにいるよ」

「わかりました。お邪魔しますね」


 久しぶりに会ったエミル姉の外見は何も変わっていなかった。僕はエミル姉と一緒にリビングへ行った。


「ラルフさん、お久しぶりです」

「エミル、久しぶり。遠路はるばるありがとうね」

「そんなことないです」

「ヤンは?」

「ヤンさんなら腕がなまるからってギルドに行っています」

「わかった。ここに来るよね?」

「はい。もちろん来ますよ」

「それで来て早々申し訳ないんだけれど、精霊の契約の仕方を彼女に教えてもらってもいいかな?」

「はい。大丈夫です! 庭を借りますね」


「初めまして、私はメルと言います。カイ様の妻です」

「うちはエミルです。っていうかカイ君、結婚したの? いつ?」


「四日前だよ。父さんとエミル姉が連絡を取り合った前日」

「そっかー。いいなぁ、結婚できて」

「エミル姉はヤン兄とずっと一緒にいるんでしょ?」

「そうだけど……まあ、いいわ。メルさん、庭に行きましょう」


 エミル姉はメルを引き連れて庭に行った。庭の中央でメルに契約する方法をレクチャーしている。


「ゆっくり息を長ーく吐いて、それからゆっくり吸う。それを繰り返して精霊達と対話しているイメージするの」

「わかりました」

「じゃあ、シルフからやってみようか」

「はい」


 エミル姉はメルの様子を見ている。しばらく待つとエミル姉がメルに言った。


「シルフは今無理か……、それじゃ次はノーム」


 メルはノームとの契約を試みるが、契約ができなかったみたいだ。


「じゃあ、次はウンディーネね」


 エミル姉とメルは庭にある池に行って、ウンディーネとの契約を試みる。


「エミルさん。どうですかね」

「ウンディーネも今はダメみたい」

「そうですか……」

「カイ君、薪みたいなものを準備できる?」


「できます。今準備しますね」


 僕は薪のある所へ行く途中、リックとソプラに会った。


「ちょうど良かった。リックとソプラ、手伝って!」


「何を手伝うんだ」

「薪を運ぶんだよ」


「OK、あたいそういうのだったら得意だわ」


 三人で土が見えている場所に薪を運んだあと、エミル姉から火を起こすようにお願いされた。


「誰も火の魔法つかえないね。ちょっと父さんに火種の作り方を聞いてくる」


 僕は父さんに火の起こし方を聞き、それ手順に従って薪に火をつけることができた。


「メルさん。サラマンダーと契約をしてみようか?」


 メルは呼吸を整えていく、すると炎の近くに精霊達が現れ、その中で赤髪の二十センチくらいの精霊がメルの目の前に行った。


「おいら、お姉ちゃんと契約してもいいよ~」


 どうやら精霊サラマンダーとの契約は上手くいきそうだ。


「はい。お願いしますね」

「じゃあ、主様。よろしくお願いします」


 メルの周りを火の精霊サラマンダーが舞う。そのあとメルの頭の上に乗った。


「カイ、あの赤い小人に名前つけた方がいいんじゃないか?」

「そっか、メル! その子に名前を付けないか?」


 みんなでどんな名前がいいか話し合う。結局のところエミル姉が言った「クロード」に決まった。


「わーい! おいらはクロード! 主様頑張るよ!」


「カイ、オレには完全に小人にしか見えないんだけれど」

「うーん。精霊ってそんな感じじゃないの?」

「クロちゃんが綺麗に舞っているね。素敵だわぁ」


 ◆


「エミル姉に相談があるんだけど」

「何? カイ君」


 メルの精霊との契約が終わった後、僕は猫捜しのクエストのことを話した。エミル姉ならどう捜すのか、参考にしたかったからだ。


「それじゃ、シルフに聞いてみる?」

「えっ、そんなことできるの?」

「ドンピシャでその猫を見つけられるかどうかは、わからないけれど、猫たちが群がっている場所なら教えてくれると思う」

「エミル姉お願い、頼んでもいい?」

「いいよ」


 エミル姉はシルフにお願いをしている。どうやらシルフ達が手分けして捜してくれているみたいだ。


 ◆


「ありがとうシルフ」


「どうだったの? エミル姉」

「猫が沢山いる場所があるって。そこに行けばお目当ての猫が、もしかしたら見つかるかもしれないかな」


 エミル姉に猫が沢山いる場所を聞いて、僕らはそこへ行くことにした。


「カイ様。私も行っていいですか?」

「もちろん!」


 ◆


「ここか……」


 エミル姉の教えてくれた場所に行くと、数十匹の猫が集まっていた。


「カイちゃん。トイレシートと同じ匂いがする」

「わかった。リック、一匹ずつ見ていこう」


 困ったことに僕とリックが近づくと、猫たちが逃げてしまう。メルがあらかじめクロードに猫を逃さないよう頼んでいたので、このエリアから逃げる猫はいなかったけれど。


(そういえば、絵があったな)


 僕は懐から紙を取り出し、その絵を見る。


(うーん)


「カイ様、その絵って」

「ああ、依頼主が書いてくれたものだよ」

「それなら多分あの子だと思います」


 メルが指を差した先には、白と灰色の毛並みが綺麗に生えている猫がいた。


「ソプラ。あの白と灰色の猫がそうかもしれない」

「わかった」


 ソプラが近づき、猫を拾い上げる。彼女はこちらを見て、ウインクをした。


「ビンゴ~♪」

「ふー、この子だったのか。早速依頼主の元へ届けよう」


 ◆


「ホシ!」


 依頼主である元王女様が猫を見ると、彼女は猫をソプラから受け取り、猫を抱きしめた。


「この子で間違いないでしょうか?」

「はい! ありがとうございます」

「良かった~」

「これで、無事帰れます。家族も喜びます」


 ◆


 依頼主に猫を引き渡し、クエスト達成。ギルドに行き、受付でクエスト成功について報告をした後、ソプラは――、


「あたいのギルドカードの更新お願い♪」

「わかりました。少々お待ちください」


「Bランクに上がるといいね」

「上がるかな? なんかドキドキする」


「お待たせしました」


 ソプラはギルドカードを受け取ったが緊張してまだ見れないみたいだ。


「ねぇみんな、一緒に見てもらえる?」


 僕らはソプラの所に集まって、一緒にギルドカードに書いてある文字を見た。


(Bじゃん!)


「カイちゃん! Bだよ! やったー!」


 こうしてソプラは無事に個人ランクBに昇格した。


「ソプラさん。お祝いで、手料理たくさん作りますね」


「いや、せっかくだから、外でメシとろうぜ!」

「うんうん。エールもパーって飲みたい!」


(二人とも、わかるよその気持ち)


 その日の飲み会もリックとソプラは朝までコース。僕はメルと先に上がり、家でメルと一緒に甘いひと時を過ごした。

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