第12話

 メルが精霊と契約できる方法をエミル姉に教わるために、僕らは王都に三日間滞在することになった。ソプラが個人ランクをCからBに上げたいと言ってきたので、滞在している間、メルを除いた三人でギルドへ行きクエストをやることにした。


「いいクエストがあるといいね」

「そうね。カイちゃんもAに上がれるようになればいいんだけれども」

「ははは、僕はいいよ。そんなにランクにこだわっていないし」

「そうなの? Aランクに上がったら箔が付いていろいろとメリットがあるような気がするんだけれど」

「うーん。仮にそうなっても、リックみたいに見せびらかすようなことはしないと思うよ」


 僕らはギルドについて、早速クエストボードを見にいく。三人でも確実にクリアできるクエストを見つけたい。


(うーん。リザードマンの討伐か……水辺で戦うのは……キツイな)


「おい、カイ! いいの見つけたぞ」

「ん?」

「これだ。難易度Bランクだぞ」


(うちの猫を王都の範囲でいいので捜してください?)


「リック。これ本当にB?」

「ああ、王都はかなり広範囲だから捜すの大変だろ。Cランクでもいいと思うがBランクってオイシイだろうよ」

「うーん。でも捜すの大変だよね?」

「ははは。お前、強力な仲間がいることを忘れているだろ」

「あっ」


(そうか。匂いで捜せばいいのか)


「ソプラっち」

「なに」

「このクエストやろうぜ」

「どんなクエスト?」


 ソプラがクエストボードを見て、


「よし! あたいにかかれば朝飯前、楽勝」


 という訳で、猫捜しのクエストをやることにした。クエストボードにある紙を剥がし、僕らは受付に行く。


「すみません。このクエストをやりたいのですが」

「はい。あっ、猫捜しですね。やる人がいなくて困っていたんですよ」

「そうなんですか」

「はい。受付しますので、パーティー名か個人名を教えてください」

「青りんごワインです」

「はっ?」

「青りんごワイン」

「うほん。ギルドの食堂ではブドウワインは置いていません。なので青りんごワインもありません」

「えーっと、パーティー名が青りんごワインなんですが……」

「はっ、ふざけているんですか?」

「ふざけていません。これギルドカードです」


 受付嬢に信じてもらえなかったので、僕はギルドカードを渡す」


「拝見いたします――――これ偽造ですよね? ギルドマスターに確認しますから、逃げないでください」


(あぁ、めんどくさい。リック、頼むよ。ホント)


 仕方が無いので、ギルドの受付前で待つ。


「カイちゃん。随分と時間がかかっているみたいだけれど」

「なんかギルドカードが偽造なんじゃないかって疑われているみたいなんだ」

「へぇー、そうなんだ」


「お待たせいたしました、カイさん。ギルドマスターが呼んでいますので、部屋まで案内いたします」


 僕らは受付嬢に案内され、ギルドマスターの部屋の前まできた。


コンコンコン


「ギルドマスター、連れてきました」

「入れ」

「失礼します」


 僕らは部屋に入る。


「お前らそこに座れ」

「はい」


 中に入ると、何度も修羅場をくぐり抜けてきたような屈強な男がいた。ギルドマスターだろう。僕らはギルドマスターの指示で椅子に座った。


「カイというのは?」

「はい。僕です」

「ジョブが神官になっているが、エンチャントも使えるだろ?」

「はい、使えます」


 僕は何故ギルドマスターが付与術エンチャントを使えることを知っているのか疑問だった。


「そうかそうか。ところで父親はラルフって名前か?」

「そうですけど」


 そう答えるとギルドマスターが僕の目を見て、


「ははは。俺、ラルフ殿の大ファンなんだよ!」


(どういうこと?)


「ギルドマスター、父さんを知っているんですか?」

「おう。勇者パーティーで活躍した影の実力者だよ。ラルフ殿のいぶし銀がいいんだよ」


(勇者パーティー? えっ、えっ、どういうこと?)


「なんだその顔。まるで勇者パーティーにいたことを知らないみたいな顔して」

「知らないみたいじゃなくて、知らないです。初めて聞きました」

「ほう。息子にも教えんとはイイねぇ、能ある鷹は爪隠す」


(マジで。父さん、勇者パーティーにいたの?)


「おい、カイ。話についていけないんだが」

「カイちゃん。勇者って、王様に指名されるあの勇者?」


 リックもソプラも現状を把握できず戸惑っているみたいだ。僕が一番戸惑っているけれど。


「ギルドカードは本物だと受付のヤツに伝えておく」


(偽物かどうか確認しなくていいんですか?)


「ありがとうございます」

「それで猫捜しのクエストをやるんだな?」

「そうです」

「もう一つお願いしたいのだが」


 ギルドマスターは真剣な顔をして、


「ラルフ殿のサインをもらってきてくれないか?」


(父さん。あんた何者なんだ?)


「はい。大丈夫ですよ」

「よかった。ちょっと待ってくれ」


 そう言ってギルドマスターはどこかに行ってしまった。


「カイ、聞きたいんだが。本当にカイの親父さんは勇者パーティーにいたんか?」

「知らないよ。ここで初めて聞いたから」


「カイちゃん。もしそうならあたいヤバいわ。飲んでいる時に背中を思いっ切り叩いたもの」

「それは大丈夫じゃないかな。父さんなら許してくれると思うし」


 ギルドマスターが剣を持ってきて戻ってきた。


「おう。じゃあ、この剣の柄のところにサインを頼む。あと無理なお願いかもしれんが、氷や炎などのエンチャントを施してもらえると有難い」


(父さん。武器にエンチャントもできるのですか? かなり高度な技術ですよ)


「わかりました。聞いてみます」


 僕らは部屋を出てギルドの入口へ向かう。


「なんか凄いことになったわね」

「ソプラっちもそう思うか?」

「だって勇者パーティーにいたんでしょ? ヤバいと思うわ」

「ああ、その息子とパーティーを組んでいるオレらもヤバいな」


 猫捜しのクエストのことも忘れ、僕らは一旦家に戻る。


 ◆


「ただいまぁ」

「おっ、カイ。クエスト早く終わったんだな」

「ううん。まだクエストはこなしていない」

「そうなのか?」

「そう。それでね、ギルドマスターに父さんのサインが欲しいってお願いされたんだ」

「サイン?」

「うん。父さん、勇者パーティーにいたんでしょ?」


 父さんは一瞬止まったが、


「そうだ。よくわかったな」

「ギルドマスターが教えてくれた」


 そのやり取りをしていると、後ろではリックとソプラがなにやら話し合っていた。


『ソプラっち、ヤバくね?』

『あたい、やらかしたぁ』

『オレもやらかした。酒おかわりくれって、キッチンに行かせた』

『それよりリックちゃん。どうする、このままカイちゃんのパーティーにいていいと思う?』

『いるしかないだろ。ここでビビッても仕方ない』

『あーあ、これからどうしよう』


「父さん、この剣にサインと、できるのなら氷や炎などの属性をエンチャントして欲しいんだ」

「サインはいいけど、エンチャントはしない。強い武器は使い方を間違えたら大変なことになるからな」

「わかった」


 僕はギルドマスターの剣を父さんに渡す。父さんはペンを探し、それから剣にサインを書いていた。


「これでいいか?」

「ありがとう。父さん」

「おう。そうだ。クエストはどんなクエストを選んだんだ?」

「これだよ」


 僕は猫捜しのクエストの紙を父さんに渡す。


「面白いの見つけてきたな」

「うん。リックが見つけたんだよ」

「しかしまあ、お前、随分と肝が据わったものだな」

「ん? どういうこと?」

「なんだ、依頼主の名前見ていないのか? この依頼主は王族だぞ」

「はっ?」


『ごめん、ソプラっち。やらかした』

『もう、しょうがないわ。あたいもOKって言っちゃったし』

『どうする? キャンセル料払って辞めるか?』

『うーん。カイちゃん次第かな』

『そうすっか』

『そうしましょ』


 僕は父さんが勇者パーティーにいたという新たな事実を知り、正直実感がなかった。確かにエンチャントの能力は父さん譲りだと知っていたが、そんな凄い人だなんて知らなかったからだ。


「リック、ソプラ。この依頼どうする?」

「カイがやるかどうか決めていいぞ」

「同じく」


(二人ともぶん投げすぎ)


「わかった。じゃあやろう。依頼主様も困っているだろうし」


 ◆


「なあ、カイ」

「うん」

「ここでいいんだよな。打合せ」

「そうだよ。もう一度ギルドに確認したから間違いない」


 僕らは依頼主との打ち合わせため、王城に来ている。門番の騎士に父さんが声をかけていた。


「息子が猫捜しのクエストで打ち合わせがしたいそうだ。中に入っても大丈夫か?」

「はっ! ラルフ様、大丈夫です」


 どうやら父さんは顔パスで王城に入ることができるみたいだ。


(そうか。国王陛下と面識があるのか)


「カイ、こっちだ」


『リックちゃん、あたい実感がわかないわ』

『オレもだ、ソプラっち。マジでカイの親父さんすごい人なんだな』

『王城に入るなんて、夢にも思わなかったわ』

『ああ。そうだソプラっち。王族の前では粗相のないようにな。処刑されるかもしれん』

『げっ! それホント?』

『そのときはカイに泣きついて、親父さんに止めてもらおう』

『でも王様の命令は絶対じゃない?』

『勇者パーティーにいたんだ。そこは何とかしてもらうしかない』


 王城の中に入ると、父さんが騎士の人に話しかけていた。どこに行けばいいのかを聞いているのだろう。


「カイ。三階の部屋みたいだ」


 僕らは父さんの案内で目的の部屋に行く。部屋の中で待機していると品のある女の人が入ってきた。


「初めまして、あなた方が猫探しをしてくれる人なのですね。あっ、ラルフさん」

「お久しぶりです。王女様」

「もう王女じゃないですよ。結婚しましたから」

「そうでしたね」

「こうして会うのは結婚式以来でしょうか?」

「はい」


 父さんは依頼主の女性と話をしていた。


「こいつが息子のカイ。今回の猫探しをする、あとあの二人もそうだ」

「そうでしたか。では早速ですが依頼内容の確認をお願いできますか?」


 僕らは依頼について説明される。依頼主は元王女様で、つい最近ここに帰ってきたそうだ。家族と共に猫を連れてきたが、猫がいなくなって帰るに帰れないと言っていた。


「できれば、あと五日以内に見つけてくれると嬉しいのですが……」

「はい。大丈夫だと思います。うちのソプラが匂いを辿って見つけてくれると思います」


「あの~、王女様。できれば捜す猫の匂いを知りたいのですが」

「そうですか……あっ、トイレシートがあります。それでもいいですか?」

「はい。あたい、匂いがわかれば大丈夫です」


(トイレの匂いを嗅ぐのか……ソプラ強すぎだろ)


「あっ、参考までに猫の絵を描いてきたので見てください」


 僕らはその絵を見る。


(これは……猫?)


『ソプラっち。これ未確認生物だよな』

『足が四つあるから、違うと思う』

『顔と胴体のバランスがおかしいだろ』

『確かにそうだけど』

『オレらには、理解できない絵だな。画伯だ、画伯』

『そんなに芸術的かなぁ』


「ん? みなさまどうかしたのですか?」


「だ、大丈夫です。それよりもトイレシートの方を」

「そうでしたね。しばらくお待ちください」


 こうして楽勝だと思っていたクエストは王族と関わるとんでもないクエストだと知ったのだ。

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