第10話

「うん。僕はずっとメルの傍にいるよ」


 僕はメルの言葉を受け、彼女を抱きしめ一生涯大切にすると決意した。


「カイ様……」

「メル……」


 吸い込まれるように彼女の唇を奪う。彼女との初めてのキスだった。


「キス、初めてだね」

「えーっと、あの、その」

「どうしたの?」

「初めてではありません」


 僕は彼女の言葉にショックを受けた。


(いつ? 誰と?)


「カイ様が魔法を使って眠っている間に……、口移しで十数回ほど……」

「あっ、メルがポーションを飲ませてくれたんだね」

「はい……」


(ふぅ、よかった。焦ったよ)


「もう一度いいですか?」


 メルの要望を受け、僕は再びメルにキスする。唇が離れ銀色の糸をひき、彼女はやさしく微笑んだ。


「戻ろうか」

「はい……」


 恥ずかしそうに俯いているメルと手を繋いで、僕は実家へと戻った。


 ◆


「ただいまぁ」


 客間で待っているだろう父さんとリック達のもとへ行く。


「おっ。カイ、おかえり」

「ただいま、父さん」


「おーー。カイ、嫁と手を繋いで、何かあったんか?」

「ホントだ。メルちゃん、何があったの?」


「父さん。母さんを呼んでもらってもいい? それと姉弟きょうだいも」

「ほう、大事な話があるんだな。ちょっと待ってろ」


 父さんは客間から出ていく。それを見てリック達は僕らに質問してきた。


「遂にやったんかカイ! それで嫁と付き合うんだろ?」

「うあぁ、メルちゃん思いが通じて良かったね」

「どっちから言ったんだ? カイか? 嫁か?」

「どっちなの?」


 リックとソプラはテーブル越しに僕らに詰め寄る。どう返答すればいいのかと思っていると、家族みんなが客間に入ってきた。


「連れてきたぞ、カイ。それで話ってなんだ?」

「うん。そこに掛けてくれる?」


 僕はみんなに席に座るようお願いする。


(ふぅ。よし!)


「父さん、母さん、みんな。僕達、結婚することになりました」


 リックとソプラは目を開いて驚いている。家族のみんなは笑顔になっていた。


「おーーい。恋人を飛ばして結婚か!」

「うわー、羨ましい。メルちゃん、おめでとう!」


 このあと家族に馴れ初めを聞かれ、くすぐったいような恥ずかしいような気持ちで彼女とあった出来事を話した。それから姉さんが出前をとり、みんなで豪華な食事を楽しんだ。


「酒は芋焼酎しかないんだがそれでいいか?」


「おっ! 芋焼酎ですか! 一度飲んでみたかったんですよ」

「何それ? 美味しいの?」


 普段からお酒を飲まない父さんは、プレゼントでもらった芋焼酎をリック達に振舞った。


「母さん、僕はジュースで」

「私もジュースでお願いします」


 お酒はリックとソプラしか飲んでいない。「めでたい。めでたい」と彼らはハイペースで飲み、一時間ほどで、ろれつが回らなくなっていた。祝いの席で、メルが「カイ様くちを開けてください、あーん」とやられた時には、リックが「ヒュー!」と指笛を吹いて、もうホントに恥ずかしくて仕方がなかった。


(恥ずかしいけど、嬉しいな)


 その中で父さんから言われる。


「カイ、彼女と魔力交換するんだろ? 初めてなら、優しくするんだぞ」

「もう~。父さん、勘弁してよ」


 母さんの顔が紅くなっている。きっと父さんの言ったことが恥ずかしかったんだろう。


「えーっと。カイ様、魔力交換って何ですか?」

「メル、ちょっとこっち」


 彼女の手を引っ張り、廊下へ行く。そして、彼女の質問に答えた。


「メル。うちでは夜伽のことを魔力交換って呼んでいるんだよ」

「夜伽……」

「今夜、大丈夫?」

「はい……、大丈夫です」


 祝いの席が終わり、リックとソプラが潰れている。姉さんは二人に毛布をかけ、弟達と共に部屋の片づけをしていた。


「カイ。母さんが部屋を掃除してくれたから、今晩そこを使いなさい」

「わかった。ありがとう」

「それと言っておくことがある」

「ん?」

「彼女はハーフエルフだ。人間より寿命が長い。お前が生きている間は一生懸命愛を注げ。それとたくさんデートや旅などもして、楽しく過ごせ。その楽しい日々の思い出が彼女の力になるから、後悔のないように行動しなさい」

「ありがとう、父さん。彼女を絶対に幸せにする」


 ◆


「この部屋だよ」

「失礼します」


 部屋に入り、旅の荷物を置く。湯あみの準備をしてから、メルに聞いた。


「僕が先でいい?」

「はい」


 服を脱ぎ体を拭き始める。


「カイ様、お背中流しますね」

「うん。お願い」


 メルに手伝ってもらい、湯あみを終える。彼女に「ありがとう」と言葉を伝え、


「今度は僕がやるよ」


 夕日が部屋に差し込む中、メルの白い肌はオレンジ色に染まる。彼女との出会い。ダンジョンで必死に逃げる彼女の手を握り、彼女を救えたこと。彼女が見違えるほど変わって「私、あなたの奴隷になります」と力強く言った声。何度も同衾どうきんをしたこと。攫われた彼女を助け、彼女から十字架のお守りを貰ったこと。メルの体を満遍なく拭きながら、それらのことを思い出していた。そして、


「じゃあ」

「はい」


 僕はベッドの上で彼女と向き合う。


「メル。これからもよろしくお願いします」

「はい。不束者ふつつかものですがよろしくお願いします」


 夕日に照らされる顔。メルは微笑んでいる。彼女はそっと目を閉じて、僕は彼女に口づけをした。そして、それを合図に二人だけの甘い時間が始まったのだ。

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