第8話

「カイ、聞いていいか?」

「何を?」

「お前、確か実家が王都にあるって聞いていた気がするんだが」

「そうだよ。王都出身」

「少し遠回りになるけれど、せっかくだから王都に寄らないか?」

「いいけど。メル、ソプラ、王都に寄ってもいい?」


「もちろんOKよ」

「はい、大丈夫です」


 リックの提案で僕らは王都へ向かう。実家にはしばらく帰っていなかったので、僕はどこかで嬉しい気持ちがあった。

(父さん達に新しいパーティーメンバーを紹介しよう)


 王都への道のりも問題ない。魔獣が出ても楽に仕留められるようになったからだ。もしかしたら、僕もソプラもギルドカードの個人ランクが上がっているのかもしれない。なので実家に寄ってから王都ギルドへ行こうと僕は考えていた。


 ◆


「王都にとーちゃーく!」

「リック、僕の実家はまだ先だよ」

「そうなのか。しかしまあ、お前の両親がどんな感じの人なのか楽しみだよ」

「あまり期待しないでくれ」


「あたいもカイちゃんの両親、気になるなぁ。ね、メルちゃん」

「……はい」

「メルちゃーん、せっかくだから挨拶の練習でもしましょうか?」


 ◇


「メルちゃん、いい? 復唱してね。『息子さんを私にください!』」

「えーっと、それを本当に言うのですか?」

「ノンノンノン。いいから、復唱。『息子さんを私にください!』」

「息子さんを私に――うぅぅ」

「ほら頑張って。『息子さんを私にください!』」

「息子さんを私にください!!」

「もう一度。『息子さんを私にください!』」

「息子さんを私にください!!」


(何をしているんだ? こいつら)


 ◆


 王都を馬車で移動する。最寄りの停留所で降りて、実家へ向かう。実家は停留所から歩いて五分。僕はメルとソプラのやり取りを聞いて、ずっとメルと一緒にいたい、やっぱり僕はメルが好きだということを改めて実感した。いつ彼女にそのことを伝えよう。そして家族と会うことに、なぜか僕は緊張しながら、みんなと一緒に歩いていた。


「カイちゃん、もうそろそろ見える?」

「うん。ここから見て右側にあるよ」

「どんな家なの?」

「うーん。大きな家としか言えないかな」


 そんなことを話しながら歩いていくと、僕は実家にある園庭の門の前に辿り着いた。


「「「……」」」

「みんなどうしたの?」


「カイ、お前お金持ちだったんか?」

「そうなのかなぁ」


「カイちゃん。この家でお金持ちじゃないなんてありえないわ」

「うーん」


「カイ様。私、ご両親に会うの緊張します」

「大丈夫。普通にしていていいよ、メル」


 ◆


「ただいまぁー」


 僕は玄関でそう言うと、母親が迎えてくれた。


「カイ! 帰ってきたのね」

「うん。そうだよ母さん」

「えーっと、お友達かしら」

「うん。今組んでいるパーティーメンバー」

「わかったわ。今、お父さんが呼んでくるから、客間で待っていてね」

「みんな、上がって」


「失礼します」

「お邪魔っしまーーす」

「……お邪魔します」


 ◆


 客間で父さんを待つ。母さんが飲み物を持ってきてくれた後、父さんがやってきた。


「おかえり、カイ。久しぶりだな。たまには連絡を寄越せ」

「ごめん父さん」

「この人達はお友達か?」

「うん。パーティーメンバー」

「そうか。ん?」

「どうしたの父さん」

「カイ、彼女と一緒にちょっと来なさい」

「わかった。リック、ソプラ、ちょっと待っていてね」


 父さんはメルのことを見て、僕とメルをリビングに連れていった。


「そこに座りなさい。母さんもここに」


 僕は父さんの真向かいに、隣にはメルが座って、母さんは斜め前だ。


「カイ、正直に答えなさい。この子はお前の奴隷か?」

「そうだよ。父さん」


 父さんの眉間にしわが寄る。目が細くなり、


「ふざけるな!」


 ダン! と机を叩く音に、僕はびっくりする。


「あなた……」

「すまん。少し黙っていてくれないか?」


 父さんが母さんを黙らせ、僕に聞く。


「どこで買ったんだ?」

「か、買ってな、い、よ」

「ウソをつけ!」

「本当だよ。ねっ、メル」


 メルが発言しようとしたところを父さんが手で遮った。


「カイ、わかりやすく説明しろ」


 僕はダンジョンで囮になっていたメルを助けたこと、そのあとギルドにメルの死亡報告したこと、彼女の奴隷解放のために金貨二十枚を支払ったことを説明した。


「奴隷解放をしたかった事はわかった。でもなぜ彼女はお前の奴隷なんだ?」


「私が望んだんです!」


 メルが大きな声で言った。


「命を助けてもらって、恩返しがしたくて、カイ様の奴隷になったんです」

「恩返しなら奴隷じゃなくてもいいだろ」

「それは……」


 メルは奴隷になってしまった経緯を話した。故郷が襲われたこと、母親が死んだこと、攫われて奴隷として売り飛ばされたこと。そのことを僕の両親に説明した。


「もう攫われたくなくて、奴隷ならば攫われることも少なると思って……」


 父さんは目を瞑り。


「わかった」


 沈黙が訪れる。


「カイ。お前はこの子をどうしたい?」

「……正直に言うと解放したい。でも「女神の息吹ゴッドネスブレス」を使うことを止められたから、解放するかどうか悩んでいる」

「あんたねぇ!!」


 今度は母さんが怒った。


「その魔法何回使ったの?」

「きゃ、客間にいる二人に一回ずつ」


 母さんの目から一筋の涙が流れた。言葉を発しようとするが、うまくできないみたいだ。そして父さんから、


「カイ」

「はい」

「ギルドカードを返却するか、その魔法を二度と使わないかを選びなさい」


(引退か、封印か)


「わかった。封印する」


 父さんの問いかけに対して僕は悩まなかった。母さんもメルも望んでいない魔法。だから封印することを決めた。


「話を戻そう。この子は奴隷解放でいいな?」

「うん」

「母さん、紙とペンを持ってきてくれ」


 母さんが紙とペンを持ってきた後、父さんは紙に地図を書いていた。


「カイ。ここに奴隷紋を消して奴隷解放できる人がいる。お金をあげるから、そこに行きなさい」

「わかったよ。父さん」

「それが終わったら、客間に来なさい。お前のパーティーの冒険譚が聞きたい」


 ◆


 僕はメルを連れて、地図に書いてある場所へ行く。


「奴隷じゃなくなるんですね」

「そうだね」

「なんだか寂しい気がします」

「うん」


 言葉のやりとりも少なく、地図にあった場所に辿り着いた。


「いらっしゃい、何か用か?」


 出てきたのは初老の男性だった。メルの奴隷解放について言うと、奴隷解放は久しぶりにやると言っていた。


「奴隷会館にいたときは、しょっちゅうやってたんだがな。うまくいかなかったら、すまねぇ」


 主人は奴隷紋のあるメルの手の甲に、手をかざす。奴隷紋は放射状に光ったあと、消えてなくなった。


「うまくいったぞ」


 僕は代金を支払い、メルと共に実家へと戻る。歩いて数分経ったところで、メルが立ち止まった。


「メル、どうしたの?」

「もう、奴隷じゃないんですね」

「うん。僕の奴隷じゃない」

「カイ様との繋がりを示すものが無くなってしまいました」

「大丈夫。僕はメルの傍にいるよ」


 僕がそう言うと、彼女は真剣な眼差しで言う。


「私決めました」


 青く透き通ったメルの目は、僕の目を力強く見て、


「私、あなたのお嫁さんになります」


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