第8話

 朝食を食べ終わった後、僕はメルのことで頭がいっぱいだった。きっと彼女は僕のことが好きだと思う。あんなにアプローチされたら嫌でもわかる。これからどうしよう。そうなことを考えながら、宿を出発し次の町を目指す。


「リック」

「なんだ?」

「僕どうしたらいいかな」

「嫁のことか?」

「そう」

「どうせ中途半端な思いとかで、手を出したくないとかなんだろ?」

「うん」

「はぁ、ホントしょうがねぇヤツだな。まあ、オレが言えるのは、オレはお前の本心がわからないって事だけだ。お前じゃないからな」


 魔獣が出てきて戦闘が始まると、メルのことを守りながら戦うことが多い。好きだから守っているのか、戦えないから守っているのか、僕の本当の気持ちは何なのだろう。毎回戦闘が終わった後は彼女を見て、無事なことにホッとする。僕は自分の内面を意識することが多くなった。


「じゃあ、いつものように宿探しだな」


 次の町に着く。お決まりのセリフをリックが言って、僕らは宿を探す。町を歩き宿を探している途中、後ろから男性に声をかけられた。


「おお、ソプラ嬢ではないか!」


 ソプラが振り向いて言う。


「はぁ、アンタか。おっさん何でこんな所にいるのよ?」

「ん? わしか? ちょっと野暮用やぼようでなぁ」


 どうやら薄毛の中年の男性はソプラの知り合いみたいだ。ソプラは呆れながら、


「今、おっさんにかまっている暇はないんだけど」

「ほう、元パーティーメンバーにそんな態度をとるとは、随分とつれないのう」

「あたい達、宿屋を探しているから、邪魔しないで」

「そうかそうか。一応言っておくな。この町には連続殺人犯がいるみたいなんだ」

「殺人犯?」

「心臓が無い若い娘の死体ばかりでな。血も抜かれている。ここらじゃ吸血鬼って呼ばれているんだよ」

「ふーん」

「そうだ、いい宿を知っているから、そこに泊まるといい」


 中年の男性から宿屋の場所を聞き、僕らはそこに向かった。


「ソプラ。あの人いい人だね」

「カイちゃん。あの狸親父何か企んでいるわ。ここであったのも、あたい運がないわ、はぁ」

「そうなんだ」


 宿へ着いて、中に入る。するとそこには宿屋の主人らしき男性がいた。


「おう、泊まりかい?」

「四人なんですけど」

「そうか。今は一人部屋なら空いているぞ、四部屋でいいよな」

「はい。それでお願いします」

「あっ、そうだ。最近ここら辺、物騒なんだよ。夜は気をつけな」

「そうなんですね」

「連続殺人犯がいるんだ。まあ、この俺の所は安全だから安心して泊まっていってくれ」

「わかりました。ありがとうございます」


 僕らはそれぞれの部屋に入り荷物を置く。宿屋の主人に部屋の鍵を預け、それからこの町一番の食堂に行き、僕らは夕食を食べた。

 そしてその日の夜、事件が起こる。


 ◇◆◇◆


(今日もいい獲物を見つけられたな。へへへへ)


 カタ、カタ、カタ、カタ、


ギィー


(寝てるな。押さえつけるか――)


「おりぁぁ!」


 あたいはメルちゃんの部屋に入ってきた侵入者を蹴り飛ばす。男はナイフを持っていて、あたいに向かって身構えた。


「なんだお前!」

「アンタこそ何なのよ」

「見られたからな。覚悟しな」


 男との戦いが始まる。メルちゃんが無事であることを確認し、あたいは光るナイフに向かって蹴りをいれ、ナイフを吹き飛ばす。


「なっ!」


 男が怯んだところにすかさずで蹴りを入れる。男は吹っ飛び、壁に頭を強打した。あたいは男を見る。


(そうか。あんただったのね……)


 ◇◆◇◆


 今夜は警戒を強めた方がいいと、ソプラに相談された。


「メルちゃんが危ないと思うの」

「若い女性が狙われているからね。ソプラも若いけど」

「あたいは自分でなんとかできるわよ。それで今夜は徹夜するつもりでいるから、メルちゃんの部屋で何か音がしたら駆けつけて」

「わかった。メルに言う?」

「下手に怖がらせるのもなんだから、言わずにあたいがメルちゃんの部屋で待機する」

「わかった、ソプラ頼むね」

「あとでお酒奢ってよ」

「ははは、いいワインでも買うよ」


 ◇◆◇◆


「カイちゃん。こいつが犯人だわ」


 意識を失い、床に転がっている人物。そう、この宿屋の主人だった。


「あの狸親父。ぶっ飛ばしてやる」

「ここが怪しいと当たりをつけていたんだね」

「ホントそう。コイツから安全だから安心して泊まってくれって言われた時には違和感があったわ。これで納得」

「策略にまんまとやられたわけだ」

「まあ、吸血鬼を捕まえられたから、狸親父にワインでも奢ってもらうわ」

「ホント、お酒好きだよねぇ」


 ◆


 翌日、僕らは警邏けいらに宿屋の主人を引き渡す。連続殺人犯が捕まり、この町の人達の雰囲気は安堵に包まれていた。


「ほほほ、やはりソプラ嬢はやってくれたな」

「おっさん。ご褒美にワインを二十本頂戴」

「ほほほ、いいぞ。何が欲しい」

「赤ワインと白ワインを十本ずつね」

「よかろう。ソプラ嬢、――ありがとな」

「なに、おっさん」

「これで姪のかたきがとれた。あとは死刑執行を見るだけじゃ」


(そうか……家族のことか……)


 悲しい事実。狸親父と呼ばれていた中年男性がこのために町に残っていたのかと思うと、ギュッと心が痛んだ。

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