第4話

 僕らはエルフの森を目指して、旅をしている。途中出てくる魔獣はリックが倒してくれるので問題ない。僕の役割はデバフを魔獣にかけるくらいだ。魔石も集まってきたので、次の町のギルドで換金しようという話になった。


「うーん」

「カイどうした?」

「いやね。前衛がもう一人必要かなって思っているんだ」

「オレのこと信用できんのか?」

「信用はしているんだけれど、リックが麻痺などで一時的に動けなくなったとき困るなと感じているんだ」

「言われてみればそうだな」

「だから魔石の換金をする時に、いい人がいれば声をかけてもいいかなって」

「よし、そうしよう。あっ、そうだカイ」

「なに?」

「嫁が美人過ぎるだろ。ギルドでトラブルを起こさないように、顔を隠す物を買おうぜ」

「あっ、そうだね。ありがとう」


 僕らはこのあと何事もなく次の町に到着する。メルのために口元を隠す紫色の布を買い、それに伴って占術師のような恰好の服を買った。そしてギルドへ向かい、中に入る。リックは魔石の換金のため受付へ行った。


「おう、受付の姉ちゃん」

「はい、御用件は何でしょうか?」

「魔石の換金だ。ほい、これ」

「わかりました。お預かりしますね、しばらくお待ちください」


 換金を待っていると近くにあるテーブルで、あるパーティーが話し合っているのが聞こえてきた。


 ◆


「そんな! あたいがクビなんて! せっかくAランクに上がったのに」

「ははは、お前個人ランクCだろ。もう必要ないんだよ」

「あたい、みんなの性欲処理してたよ。必要ないだなんて」

「手と口だけだろうよ。それにAランクになったから知名度が上がる。女がたくさん寄ってくるから、もうお前はいらないの。わかった?」

「ヒドイ、酷過ぎるよ」


「やっぱり自分は反対だな。前衛頑張っていたし」

「はぁ、お前は甘ちゃんだな。Sに上がれば国立の研究所に入れるんだろ? こいつのために遠ざかってもいいのか?」

「それは……」

「それにお前のような優秀な後衛はSに上がるのに必要なんだよ。パーティーバランスを考えると、こいつを切ることはメリットしかないんだよ」


(追放か……、ライカンスロープをクビにするなんて、前衛はみんな優秀なんだな)


「じゃあな。けものおんな


 四人の男が席を立つ。残りの男はボブパーマのライカンスロープの女に声をかけていた。


「ソプラ氏、ごめん」

「ううん。ありがとう、味方してくれて」

「自分どうしても研究員になりたいんだ」

「うん。わかってる」

「これ、置いていくね。生活費に使って」

「そんな。こんな大金……」

「うん。これしかできないけど、頑張ってね」

「ありがとう。気をつけてね」


 ◆


「お待たせカイ。ん? どうした?」

「もしかしたら見つかったかもしれない」

「何が」

「前衛だよ」


 僕はライカンスロープの女のいる席に行く。


「こんばんは、お姉さん。この席に座ってもいい?」

「……どうぞ」


「カイ、先に行くなよ」

「リックごめん。お姉さん、彼らも同席していいかい?」


 僕らはテーブル席に着く。


「僕はカイ。神官をやっている。こいつはリック……えーっと」

「おう、リックだ。ジョブはランサー、まあ騎士ナイトって言った方がわかりやすいかな」

「私はメルと言います。カイ様の奴隷です」


「奴隷!! あんた達、あたいを奴隷にするつもりなんじゃ――」


「ううん。そんなことはしない。お姉さんの名前を教えてくれる?」

「ソプラっていうの。それであんた達は何をしにきたのよ」

「僕らは前衛を探しているんだ。もしよかったら、一緒にパーティーを組まない」

「パーティー……」

「そう」

「でも、あたい前衛って言ってもCランクよ」

「うーん、ランクは関係ないって考えているんだけれどな」

「ちなみにあなたのランクは?」

「僕? 僕はBランクだよ。リックはA」


 ソプラは俯く。


「あたい、足を引っ張るよ。だってAとBでしょ?」

「大丈夫。必要なら僕がバフかけるから、戦闘面では気にしないで」

「バフをかけるなら、前衛あたいじゃなくでもいいじゃん」

「そうだね。でも神の導きがあったんだと思う。この縁を大切にしたい」

「そう……」

「どうかな? 一緒にやらない?」

「……、わかった。あたいも困っていたからパーティーに入れるのなら入りたい」

「じゃ、決まりだね!」


「カイ、勝手に話を進めるって――まあ、いいか。よろしく、ソプラっち」


 ソプラがパーティーに入ってくれることになった。パーティー名を決めていなかったので、みんなで相談をする。


「ソプラっちは好きな食べ物とか飲み物とかはなんだ?」

「あたいはワインね。なかなか飲めないけれど」

「嫁は?」

「私は青りんごが好きです」

「じゃ、パーティー名は「青りんごワイン」で決まりだな」


(そんなんでいいんか? リック)


 ものの数秒でパーティー名が決まった。


「じゃあオレ、パーティー申請してくるわ。あっ、どうするよ。嫁は」

「うーん。そうだなぁ、メルはまだギルドカード持っていないから後でもいいかな」

「わかった。行ってくる」


 リックがパーティー名を申請した後、せっかくなのでソプラの歓迎会を開くことにした。


「みんなエールでいいか?」

「僕はジュースでお願い」

「お前はいつもジュースだよな。嫁は?」

「私もできればジュースで」


「あたい、エール三杯お願い」

(ソプラは本当にお酒が好きなんだね)


「じゃあ、オレが代表して。かんぱーい!」


「「「カンパーイ!」」」


 和やかな雰囲気に包まれる。一時間が過ぎ、リックとソプラがイイ感じに酔ってきた。


「ソプラっちよう。オレと勝負しないか?」

「へぇー、何で勝負するんだい?」

「酒だよ。酒。どっちが強いかやろうぜ」

「いいわよ。リックちゃんには絶対に負けないから」


「カイ様、止めなくていいんですか?」

「この僕が止められると思うかい?」


 僕がリックとソプラを呆れて見ていると、周りにいる人達が集まってきた。


「おう、面白いことしているな。俺らもかませてくれよ」

「いいぜ。ソプラっちは?」

「いいわよ。そうだ、銀貨一枚で参加できるってどう? 最後まで潰れなかった人が銀貨を総取りで」

「おお、姉ちゃん。いい考えだ。おう、お前らも参加してくれ」


 こうして歓迎会が十数人参加の謎の酒強いぞ選手権に変わった。


「おう。ヒック、呑んだぞ、次」

「ぷはー、余裕余裕。次」

「あたいね。(ゴクゴク)全然足りないわ。次はリックね」

「おう、(ゴクゴク)いやー美味いなこの酒。次行ってみよう」

「俺だな――」


(うーん。ここにいるのもなぁ)


「メル」

「どうしたんですか?」

「もう、宿屋を探そうか」

「えっ、いいんですか? リックさんとソプラさんを置いて」

「たぶん朝まで続くよ。僕らはゆっくり休もう」

「そうですか」

「じゃあ、行こうか。リック、ソプラ、先に宿屋に行くね」


「おう」

「ばいばーい、カイちゃん」


 ◆


「カイ様、前衛が見つかって良かったですね」

「そうだね。メルも精霊と契約できれば、戦力がアップする」

「そうですよね……」

「大丈夫だよ。もし精霊と契約できなくても近くにいるからさ」

「はい!」


 メルが僕の腕を捕まえ、ギューっと体を押し付ける。


(おう。メルの体柔らかいんだよなぁ)


〈ケケケ。このままの調子で宿屋に行けよ。そのまま襲っちまえ〉

〔いけません。彼女はそんなつもりではいませんから、傷つけてはなりません〕

〈大丈夫だよ。奴隷が誘惑しているんだから覚悟はできているぞ〉

〔奴隷でも奴隷じゃなくても、真摯な対応をしなくてはなりません〕


(あぁぁ、煩悩がぁぁ)


 ◆


「お客さん。一人部屋が一つしか空いてないけどどうする?」

「うーん」

(違う宿屋を探すか)


「カイ様。ギルドも近いですし、ここが良いと思います」

「そうなると、僕と同じベッドで寝ることになるよ」

「はい。もう何度も寝ているから大丈夫です」

(何度も生殺しにあっているんだよ)


「私、カイ様のことを信じていますから」

(神よ。なぜ僕に試練を与えるのですか)


 こうして、酒とは違う別の我慢大会が開かれるのであった。


 ◆


「おはようございます」

「おはよう。メル」

「やっぱりカイ様と添い寝するのは安心しますね」

(メルごめん。柔らかいところを触ってしまった)


「そうなの?」

「はい。あの日のことを思い出してしまって一人で寝るのが怖いんです」

(そうか。母親とも離れてしまったし、囮にもなったから不安なのか)


「そうなんだね」

「はい、だからカイ様といると安心できるんです」

「うん。何かあったら言ってね、メル」


 僕らは食堂で朝食を食べ終えた後、リック達のいるギルドへ向かった。


 ◆


「そ、ぷ、ら。ひっく、おまえの、ばん、だ」

「り、く、ちゃ。あたい、かとう、なん、か、じゅう、ねん――」


(まだやっているのか)


 リックとソプラ以外の人達は酔い潰れていて動かない。


「り、ちゃ、ば、ん」

「お、う」


「二人とも、おはよう」


「かい!」

「かいちゃーーん」


「もうやめたら?」


 二人は僕を無視し、戦いを続ける。そして、


「ははは、あたい、かちぃー」


 リックが潰れ、ソプラが勝った。


「おめでとう。ソプラ」

「へへぇ――」


ばたん


 ソプラも潰れた。


(あーあ、二人とも無理するから)


 僕は銀貨をすべて回収し、懐の中へ入れた。


「カイ様、そんなことしていいんですか?」

「大丈夫。このお金で、一緒に食べ歩きをしよう」

「わーい! 私、青りんご食べたいです!」


 このあと僕はメルと一緒に街を散策するのであった。

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