急展開ですが、これが禍転じて福と為すというやつかしら

シャルロッテは盛大にため息を吐いて背を丸めつつ自室に向かう。


 小柄なシャルロッテがラルフを支えられるはずもなく、彼女が下敷きになる形でその場にふたりは倒れ込んだ。


 ここは魔術を使ってさっさと王子をどかそうかとも思ったシャルロッテだが、そこで運よくラルフを呼びに来てか、ネリアの様子を見に来たのかマルコが現れ、状況にあわてふためく彼に手短に事の成り行きを伝え、後を任せてきた。


 次期国王である王子が倒れたのだ。騒動は大きくなりそうなのが目に見え、そうなる前にとさっさと退散してきたというわけだ。


「はぁ、ひどい目にあったわ」


 意識を手放したラルフに乗られ、腕も痺れて肩も痛い。さすって労わっていると、行きのときと同じく荒れたままの廊下が目に入る。歩調を緩めずに無視して部屋の中へと入った。


 小説では落ち込んでいる王子をヒロインが慰めるってエピソードはあったけれど、まさかこんな展開になるとはね。


「ただいま」


 気怠く告げれば、黒豹姿のヘレパンツァーがちょこんとベッドに座り、彼女を出迎えた。その表情はいささか厳しい。


「遅かったな」


「あら、心配してくれたの?」


 笑顔のシャルロッテとは真逆に、ヘレパンツァーは小馬鹿にしたような顔になった。そこに突然、大勢の気配を感じる。


 ふたりがドアのところに注目したのと、勢いよく扉が開いたのはほぼ同時だった。


 暗い濃紺の軍服を模した男たち数人が、勢いよくシャルロッテの部屋に押し入る。王家に使えるエーデルシュタイン騎士団の連中だ。


 そこにフィオンの姿はなく、全員が敵意に満ちた表情でシャルロッテを見る。


 その中で一際体格のいい男がひとり前に出た。


「アメジストの魔女こと、シャルロッテ・シュヴァン・ヴァールハイト。ラルフ王子に危害を加えた疑いでお前の身柄を拘束する!」


 抵抗を見せれば今すぐにでも切り捨てるといった態ていだ。シャルロッテは無意識にヘレパンツァーと目配せし、おとなしく彼らの指示に従った。

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処刑されるモブ聖女、悪逆非道なラスボスとして生き残ります くろのあずさ @kuro-azu

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