今まであなたはなにを見てきたのかと小一時間は問い詰めたい

 マルコが去ったあとも、シャルロッテは持っていた革袋に目当ての薬草や花を詰み続けた。そろそろ袋がいっぱいになりそうなところで背後に気配を感じる。


「シャーリー! こんなところにいたんだね」

「げっ」


 顔だけではなく声にまで不快感を露わにしてしまったが相手はまったく気にしていない。爽やかな笑顔でやってきたのはフィオンだ。


「部屋にいなかったらから探したんだ。誰かに一声かけてくれていたらよかったのに」


 責めるというよりもどこか寂しそうな物言いだ。しかしそこで罪悪感などを抱くシャルロッテではない。


「言ったでしょ。私は好きに行動させてもらうって」

「そうだね。だから見つけられてよかったよ」

 この男にはどうも調子を狂わされてばかりだ。どう言い返すべきか悩んでいると、第三者の声がそこに割って入る。


「フィオンさま」

 やってきたのは聖女エマだ。彼女はシャルロッテに目もくれずフィオンの元に駆け寄ると、彼の前で躓き転びそうになる。


「あっ」

 フィオンはとっさに腕を差し出しエマを支えた。その姿はなかなか様になる。


 あらー。いい感じ!

 内心でニヤニヤするシャルロッテだが、フィオンはさっさとエマから手を離した。


「どうしました? プリ―スターのところにいるように言ったはずですが」

「シャルロッテさまとご一緒だと聞いて、フィオンさまが心配だったんです」

 離れた腕にすがるようにエマはフィオンを潤んだ瞳で見つめる。


「心配には及びませんよ」

 しかしフィオンには無表情で返した。彼の対応に眉をひそめたのはエマだけではなくシャルロッテもだ。しかしエマは引き下がらない。


「いくら、フィオンさまが剣の腕が立つとはいえ、力には力でしか対抗できません。私の持つ聖力がどこまで役に立つのかわかりませんが」


「あら。私は聖女さまに随分と危険人物扱いされているのね。光栄だわ」


 ふざけたわけではなくシャルロッテは真面目に答えた。しかしどういうわけかエマからは鋭い視線が送られる。敵意に満ちた眼差しは、とてもではないが純粋無垢なヒロイン像からはかけ離れていた。さすがにシャルロッテも面食らう。


「あなたは危険です。あなた自身というよりあなたの持つ力が。私は聖女です。あなたがフィオンさまやラルフ王子など城の者に近づくのに反対します!」


 駄々っ子みたいな言い方だが、彼女の必死さは伝わってくる。この場で他の者がいたら、聖女である彼女がそう言うのなら、と納得する者も出てくるだろう。


 さっすが聖女さま。っていうか、あれ? 私、もしかして聖女自身に敵認定されてる?

 聖女のカリスマ性に感心しつつ自身の状況を整理する。


「なんの権限であなたは彼女を貶めるのですか? それ以上の彼女に対する侮辱は俺へのものとして受け取りますよ」


 しかしフィオンが底冷えするような声で返したのでシャルロッテは我に返った。

「どうしてフィオンさまは彼女をそこまでして庇うのですか?」


「庇うもなにも、俺は自分で彼女を見て、彼女と接して判断しているだけです」


 え、あなた今までなにを見てきたわけ!?

 すかさず口に出したくなったが、痴話喧嘩に巻き込まれるのは御免だ。


「とりあえず私は部屋に戻るわ」

 シャルロッテは面倒くさそうに吐き捨てる。


「シャーリー」

「ついてこなくてかまわないわよ。心配しなくてもちゃんと部屋に戻るから」

 フィオンを制し、シャルロッテはその場を離れる。


「つまり彼女が危険な人物だと証明できたらいいわけですね」

 ぽつりと聞こえたのは誰の言葉なのか。


 証明できるならぜひそうしてほしいところよねー。

 呑気にそんなことを考えながらも、欲しかった薬草が手に入り、シャルロッテの気分は上々だった。

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