ラスボス伝説の道筋が見えたーーー気がします(気のせい?)

「当然だ。私は誰も信用しない。異世界から来たというあの聖女も同じだ」


 いやいや。あなたそう言って小説の最後の方では、ちゃっかり聖女に惚れちゃったとフラグ立っていたわよ? ま、最初は嫌悪感を持つ相手がヒロインに陥落っていうのは定番よねー。


 小説の内容を思い出す。話の大筋は召喚された聖女は慣れない異世界での暮らしに奮闘しつつ自分を護衛する騎士と想いを通わせ合っていく。その間に自身を召喚した神官やら第二王子やら多くの男性キャラと関わりを持ち次第に彼らもヒロインに気を許していく……。いやぁ、乙女の夢が詰まっているわね。


「なーんてね。当事者としては、自分の処刑がヒロインと騎士との距離を縮めるきかっけに使われるためだけなんて本当に笑えないわ」

「処刑?」


 独り言にフィオンが反応し、シャルロッテは我に返る。軽く咳払いをしてシャルロッテはラルフに目を遣った。


「で、その信用していない私をここでどうしようって言うの?」

 シャルロッテの問いかけにラルフは小馬鹿にしたように笑う。その表情さえ彼の顔の造形からすると絵になるほど美しい。


「ろくなことを考えていないなら、いっそのこと目の届くところに置いておいた方がいいだろう。妙な真似をしたら、即刻捕え国外追放とする」

 ラルフの言葉に控えていた護衛にも緊張が走り背筋を正す。つまり、この城にいる限りラルフの匙加減ひとつで極刑が課されるのだ。処刑制度がなくなった今、国外追放がもっとも思い量刑になる。


 シャルロッテはラルフから視線をはずし、うつむいた。わずかに肩を震わせる彼女に、満足げな視線を送ってくるのが伝わってくる。しかしそんなもの今のシャルロッテにはどうでもいい。


 追放――――。それよ、それっ!!!! 王家に仇を為して、極刑としての国外追放! 名を残し、かつ自由な生活が待っているってことよね。

 私、ついにここまできたんだ!


 嬉しくて感情を爆発させそうになるのを堪えるのに必死だ。

 よし、ここは思わせぶりな発言でも残して相手の警戒心を高めておきましょう。


「王子、彼女のことは俺に一任していただけませんか?」

 ところがフィオンの発言にシャルロッテは目を剥いた。

「は?」

「彼女が妙な真似をしないよう見張っておきましょう」

 相変わらず勝手に話を進めるフィオンに怒りしかない。逆にラルフは目を見開き、続けて口角を上げる。

「どうした、フィオン? お前ほどの立場の人間が、わざわざかまう相手でもなかろう」


 そうそう。私のことは放っておいてかまわないから。あなたは聖女と距離でも縮めてなさいよ!

 内心で悪態をつきつつラルフの言い分を応援する。


「それほどまでにこの魔女は危険なのか? それとも……この魔女に魅入られたか?」

「魔女で疑わしいという理由だけで彼女を無下に扱い、実のところ恩人だった場合には王家の対応は問題となり評判を落とすだけです。ここは慎重になるべきかと」


 挑発的な物言いをしたラルフに対して、フィオンはまっとうな忠告をする。彼の言い分は理に適っている部分もあり、ラルフは眉をひそめた。


「好きにしろ。ただし、この魔女のせいでなにか問題があった場合、お前の責任も問うことになる。処遇も含め容赦しないからな」

 立ち上がるラルフにフィオンは安堵の笑みを浮かべた。


「ええ、覚悟しています。彼女のことは俺にお任せください」

 なにを勝手に話を進めているのか。口を挟もうとしたシャルロッテだが、その前にラルフを見遣る。


「ねぇ」

 その場にそぐわない軽すぎる口調に、そこにいる全員の注目が彼女に向いた。場を去ろうとしたラルフもだ。シャルロッテはまっすぐにラルフを見据える。


「あなた、どこかで会ったことがあるかしら?」

 王子に向かってどんでもない口の利き方だ。その証拠に傍で控えている男共の顔には嫌悪と憎悪が滲んでいる。

 ラルフはシャルロッテの無礼を咎めず、皮肉たっぷりに口角を上げた。


「ないな。会ったとしても、お前みたいな下賤者の顔までいちいち覚えていられるか」

 それもそうか、とシャルロッテは肩をすくめる。ただ、ラルフを目にしたときから妙な既視感とでもいうのか、なんとなく彼を知っている気がした。

 物語として読んでいたから? でも実際に会ったのは初めてだし。


 今度こそ去っていくラルフにシャルロッテは一方的に告げる。

「そうそう。お疲れなのか、顔色が悪いですよ、王子さま。仮にも王位継承者でしょ? 体調にはお気をつけなさい」

 シャルロッテの無礼な振舞いに、今度こそ何人かが彼女に剣を向けようとした。


 その前にラルフは凍てつく眼差しをシャルロッテに送る。家臣が向けられたら、地に頭をこすりつけ、許しを乞う迫力だ。逆にシャルロッテはにこりと微笑む。


「それじゃ、お言葉に甘えて好きに過ごさせてもらうわ」

 そう言って素知らぬ顔でフィオンと共に謁見の間を後にした。

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