ラスボス認定してもらうために王子にでも会いましょうか

「あの男、思ったより小物かもね」

 残念そうにシャルロッテは呟く。ブリースターのことだ。


 ブリースターの前で声高らかに悪役を宣言し、彼に畏怖の念を抱かせてやろうと思っていた目論見からどんどんずれていく。


 持っている力が魔力だと責め立てられ、恐怖に身を縮めていた私はどこにもいない。逆に今は怒りしかないわ。


「君が強くなったってことじゃないか?」

 シャルロッテの思考を読んだかのようにフィオンが口を挟んできた。さっきのエマに見せた表情とは打って変わって柔らかいものだ。


「そもそも、あなたがあそこで余計な発言をしたから私の計画が狂ったのよ!? あなたは聖女さまと一緒にいたらいいじゃない」

「冗談。俺は君と一緒にいたいんだ」

 シャルロッテの抗議をフィオンはさらりとかわす。予想外の切り返しにシャルロッテは紫色の瞳を大きく見開いた。


「騎士団長が目も話せないほど危険な存在っていうのも、まぁ悪くはないわね」

 ひとり納得して笑顔になる。やれやれとフィオンが肩をすくめたのは謎だが、そんな彼にシャルロッテは質問する。


「で、私に会いたがっているというラルフ王子はどんな用件なわけ?」

 シャルロッテの問いかけにフィオンは口角をにやりと上げた。

「さぁ? 会ってみたらわかるんじゃないかい?」

 なんとも含んだ言い方だが、少なくとも物語を読んでいたシャルロッテは彼がどんな人物なのか大体想像はつく。


「ま、少なくとも、好意的な呼び出し出ないのはわかっているわ」

 不敵な笑みを浮かべ、シャルロッテは意気揚々と目的地へ向かう。そんなシャルロッテをフィオンは苦笑を浮かべつつ見守った。


 通された謁見の間はさすがに息を呑むほどの豪華絢爛さだった。白と金を貴重とし、調度品のすべてに王家の紋章が記され、眩い光を放っている。


 へー。やっぱり字で読むのと目の当たりにするのとでは全然違うのねー。

 シャルロッテは無遠慮に室内に視線を飛ばした。


 目線を上から下に動かせば、天井はアーチ形で王家の歴史をモチーフにした絵画が描かれ、大きな柱の下には、厳つい顔をした男たちが壁に添って並んでいる。

 そして中央の玉座に堂々と座る男から声がかかった。


「フィオン、この女か」

 冷たさを孕んだ声色だった。嫌悪感の中にある威厳はブリースターの比ではない。肘置きに、肘を突いて冷ややかな瞳でこちらを見下ろしているのは、ラルフ・ドリッテンス・ファートゥム。 現国王の次男で、ファートゥム家の第二王子にあたる。


 白い肌に細い金の髪が柔らかく揺れ、アイスブルーの瞳は相手を牽制するには十分すぎるほどの目力がある。天井に描かれた絵画から飛び出してきたとでもいわんばかりの美青年だった。


 フィオンは恭しく膝を折る。年齢的には彼の方が上に見えるが、そこは身分の差だ。


「ラルフ王子、命令通りお連れしました。彼女はシャルロッテ。亡くなったとされていたシュヴァン公爵のご令嬢です。それは母親による虚偽のもので、彼女は生きていた。そしてこのたび、聖女候補であったクローディア嬢の企みを先に暴き、我々に警告文を送るのと同時に一足早く現場に駆けつけ、事なきを得た。結果的に王家は救われ、大きな混乱もおきずにあなたへの危害も免れた」


「それ、前にも言ったけれど都合のいいように解釈しすぎだからね! そもそも盛りすぎなのよ。もっと違う角度で紹介しなさい!」


 他の面々が頭を下げる中、シャルロッテは平然と言い返す。王族の御前でも彼女は相変わらずだ。もちろん膝を折る気など毛頭ない。ラルフは意味深な笑みを浮かべシャルロッテを見遣った。


「ようこそ、魔女殿。我がファートゥム城へ。それともシャルロッテ・シュヴァン公爵令嬢と呼んだ方がいいのか? ひとまず貴殿の行動に関しては礼を言おう。そのうえで尋ねる。目的はなんだ? 王家に恩を売って取り入る算段か?」


 その内容と声色で彼が自分によくない感情を持っていないのは明白だった。猜疑と嫌悪に満ちた視線は突き刺さるように冷たく、受ける者によっては平伏する圧がある。


「なんでも調べたところによると、クローディア嬢の前にシュヴァン公爵家の令嬢として城に聖女として参入するはずだったのは貴殿だったそうじゃないか」


 さすがは第二王子! 感情的なプリ―スターとは違って、なかなか頭が回るじゃない!やっとラスボスとしての疑いをかけられるようになってきたわ。


「そこまで私のことを調べたうえで、この場に呼び出したのは驚いたわ」


 心の中でガッツポーズをしながら、シャルロッテは余裕たっぷりに言い返した。どうすれば悪役として彼の印象に残るか考えを巡らせる。

 ラルフは鼻を鳴らし、不敵な笑みを浮かべた。

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