利用するのも判断するのもすべてはこちら側です

「クローディアがああなった以上、新しく聖女を探す必要があってね」

 ところが、その言葉にシャルロッテは硬直した。瞬時に顔を引きつらせる。


「なに? つまり私はクローディアの代わりの“聖女として”見極められるって話?」

 声や口調、これまでの流れでシャルロッテの不満は伝わっているらしい。フィオンは慌ててフォローする姿勢になる。


「そこまで言ってないよ。ただ現実を見れば、君の一連の行動は結果的にクローディアを上回る力で彼女を抑え、王家を災いから守った。さらに、君の正体が元々聖女候補だったシュヴァン公爵家の」

「シュヴァン公爵令嬢シャルロッテは死んだの!」

 シャルロッテは強く言い切る。


「今、あなたの目の前にいるのは紫水晶の魔女シャルロッテよ。私は王家の人間を憎んでいるの。いずれあなたの守る王子や国にとっての大きな厄災になる」

 射貫くような眼差しでシャルロッテはフィオンを見つめた。


「やり合うか、捕えるなら今のうちよ?」

 挑発的に告げたが、フィオンは眉ひとつ動かさない。

「いずれ、そうなるとしても今は君とやり合う理由はないよ。捕える必要も」

 なら、今すぐその理由を作るべきか。シャルロッテは思い巡らせる。けれどフィオンはマイペースに話を進めていく。


「とりあえずなにかを口にした方がいい。誰か人を呼ぼう。あとで城の中を案内するよ」


 さらりと言いまとめ、シャルロッテに背を向け部屋を出て行く。そのうしろ姿を眺め、反応が遅れてしまったシャルロッテは呆然とする。


 そこに傍観者が口を挟む。

「やれやれ。お前、このままだと伝説の大魔女としてラスボスになるどころか、王家を救った聖女扱いになりそうじゃないか」

 からかい口調のヘレパンツァーにシャルロッテは鋭い視線を送る。しかし相手は意に介していない。


「よかったじゃないか。聖女なら生娘なのが重宝されるぞ」

「ちょっと、黙っててくれる?」

 シャルロッテは乱暴に頭を掻く。寝癖のついた蜂蜜色の髪が彼女の指を滑り、ふわりと広がりを見せた。


 苛立つシャルロッテに、ヘレパンツァーがおもむろに提案する。

「そんなに恨みのある男なら、この際どんな理由でも会っておけばいいんじゃないか? あとは煮るなり焼くなりさっきみたいにルーンをぶっ放せばいいだろう」


「冗談じゃないわ! プリースターに会ったら一発、殴ってやろうと思っていたけれど、聖女としてじゃ意味ないのよ。あいつの思うつぼじゃない!!」

 語気を荒げシャルロッテは反論するが、ヘレパンツァーは意味がわからなかった。


「さっきフィオン・ロヤリテート騎士団長が言っていたでしょ? 彼は処刑制度の廃止に異を唱えているって。もしも私が聖女としてあいつの前に現れたら、あの男は間違いなく私を相応しくないと罵って処刑すべきだ。処刑は必要だ!と言いだすわ」

 まるで物語の中のシャルロッテを辿る気分だ。


「もちろん、今の私はおとなしく処刑されるような女じゃないけど、あいつの理想のために一役買うのがこの上なく腹が立つし、なにより……聖女としてじゃなくて、誰もが恐れるラスボスとしてあの男の前に立たないと。なんであの男に判断される立場なのよ! 何様なわけ?」

 毒づいて、シャルロッテは唇をかみしめる。


 やっぱりもっとラスボスとして認知されるくらい悪役に徹しないと。

 王家と敵対する覚悟はあるが、実際にやり合うのはなかなか面倒だ。王家や国を滅ぼしたいわけではない。あくまでもラスボスの立ち位置を確立して、好きに生きたい。


 しばし悩んで、シャルロッテはヘレパンツァーに声をかける。


 そしてこの後、シャルロッテの支度を整えるよう命じられ、部屋を訪れたメイドはあまりにもひどいベッドと部屋の惨状に悲鳴をあげた。

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