自白と過去の告白は本当のラストしか通用しません

「本当に君が黒幕なら、自分でそんなことを言わないよ」

 なんとも的確な指摘にシャルロッテは言葉に詰まる。


「たしかにな」

「パンターは黙ってて!」

 納得するヘレパンツァーにシャルロッテはすかさず噛みついた。


「わかんないわよ? 最後、追い詰められたラスボスは必要以上によくしゃべるじゃない。『すべては俺の企みだ』って自分の悲しい生い立ちと共に語り出すのは鉄板よ!」


「だとして、城のベッドで優雅に寝ている状況はどう考えても追い詰められてないだろう」


「それは不可抗力よ! 私のせいじゃない」


 コソコソとヘレパンツァーとやりとりし、シャルロッテは再びフィオンを見る。上手くラスボスとして立ち回ろうと口を開こうとしたら、不意に彼と目が合う。


 すると、どういうわけか彼は優しく目を細めた。懐かしさを湛えた、小さな子どもに対するかのようなもので、シャルロッテとしては不本意極まりなく青筋が立つ。


「やめてよ。もっと憎しみに溢れた敵意のこもった眼差しを向けてくれない?」

「めちゃくちゃな注文をするね」

 眉尻を下げ、困惑気味にフィオンは微笑んだ。


「ちなみにクローディアは医師に診せると、しばらくの安静が必要らしくてね。こちらで見張りをつけて保護しているよ。彼女の処遇についてはその後だ。彼女の母親も共謀した罪で、おそらく爵位の剥奪は免れないだろう」

「べつにクローディアやペネロペがどうなろうと興味はないわ」

 そんなことよりもシャルロッテはフィオンに聞いておきたいことがある。


「処刑制度がなくなったってどういうこと?」

「ああ。話した通りさ。他国でも処刑制度は廃止しているところが増えているし、俺も賛成だと思っている」


「嘘でしょ。あなた、なんのためらいもなく私を処刑台送りにし……そうじゃない」

 ギリギリ言い直しつつシャルロッテはフィオンを睨む。一方でフィオンは苦々しく笑った。


「まぁ、処刑制度を廃止したとはいっても、まだ一ヶ月だから様子見なところはあるんだ。有識者や関係者すべてが廃止に賛成したわけじゃない。神官のプリ―スターは最後まで廃止を反対していた」

「プリ―スター!?」

 耳覚えのある単語に、シャルロッテは反射的に声をあげる。


 プリ―スターは代々王家に仕える神官の立場にあり、聖女に関しては国王陛下より一任され、強い権力を持っている。聖女を見極め管轄する役目を担い、逆に言うと彼のお眼鏡に適わなければ聖女になれないのだ。


 物語の中でシャルロッテは、聖女としての城に参入した際にプリ―スターの前で能力を証明する必要があると説明され、素直に従った。枯れた花を咲かせるのも、濁った水を透明にするのもシャルロッテにとっては造作もない。


 ところが彼女が能力を発揮した途端、プリースターはシャルロッテの持つ力が聖力ではなく魔力だと罵り、生かすべきではないと糾弾してきたのだ。


「ふざけんじゃないわよ。物語ではヒロインを召喚したお目付け役としていいポジションにいるけど、私は許さないんだからね」


 わなわなと怒りに唇を震わせるシャルロッテをヘレパンツァーは呆れた目で見る。

「そのプリースターが一度、君に会いたいと言っているんだ」

「はぁ? どの口が言ってるの?」


 正直、顔を見るどころか名前さえ聞くのも不愉快だ。嫌悪感を露わに言い返したシャルロッテだが、すぐに思い直す。


 あのときはショックと信じられない思いで混乱する中、魔力を抑えるのが習慣づいていたのもあり、ろくに抵抗もできなかった。けれど今の自分は違う。

 ラスボスとして、あの鉄面皮のプリースターの前に立ち、彼の怯えた表情を見るのも一興だ。これで少しは溜飲を下げられるかもしれない。


 ラスボスとしての立場を確立し、王家との決定的な敵対関係に持ち込めるチャンスだ。


 打って変わって笑顔になり、フィオンにプリースターに会ってやってもいい旨を伝えようと口を開こうとする。

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