前向きな解釈にもほどがある(むしろ嫌がらせ?)

「おはよう。すごい音がしたけれど、どうやら目が覚めたらしいね」

「あなた……」

 現れたのは、エーデルシュタイン騎士団の団長フィオン・ロヤリテートだった。


 壮絶な痴話喧嘩で片付けるのには無理のあるこの状況を見て、平然と笑顔でいられるのはある意味、団長としての器の大きさか。

 彼はシャルロッテと対峙したときと同様、濃紺の軍服を身に纏っていた。


「体調はどうだい? 丸二日眠っていたんだ」

 そんなに、というのは声にしない。彼の存在でシャルロッテはある程度の現状を把握する。


 おそらくここはファートゥム城。長きにわたりこの国の王として君臨するファートゥム家の所有物だ。

 シャルロッテの暮らすグランツ王国は他国に比べればそれほど大きくはないが、豊かな自然と土壌に恵まれ人々はのどかに暮らしていた。


 そんな中、王家は国の財産ともいえる自然を極力残す一方で、公共事業や騎士団の結成などを指揮し一次産業中心の生活から雇用を生み出していった。

 とくにファートゥム家の大きな功績は、貯水技術や水道の体制を整え、民に清潔な水を供給する仕組みを作ったことだ。それも国の中心部を流れる雄大なグランツ川があってこそ。


 王都アクワとイグニスの間、グランツ川沿いのヴェントゥス山地の上にファートゥム城は建っていた。城の正式名称はアンデアファートゥム。運命のほとりを意味する。


 頑丈な城壁の上部は白く、青い尖塔の屋根とのコントラストは遠くからでも目を引く優雅な外観だ。王都を中心に国は栄え、王家の支持は増していき今では確固たるものになっている。


 さらにはそこに聖女の存在があった。王都で暮らす少女の中から選ばれる聖女は、王家と国のために祈りを捧げ安寧を願う。不思議な力を持つとされ、象徴的でありながらもその地位は高く、聖女に憧れる少女は多い。


 国民からの羨望と尊敬の眼差しを受け、王家に大事にされる立場だ。聖女候補とされる少女が城に参入し、その真価を問われる。


 なーにが聖女候補よ! なんで自分を犠牲にして王家や国民のために尽くさないとならないの? 自分の能力は自分のために使うわ!


 心の中で毒づいてフィオンを見る。 


「で、どうして私は牢屋ではなく、こんな好待遇なのかしら?」


 いつもの調子を取り戻し、挑発を交えて尋ねるとフィオンは困惑気味に微笑んだ。


「君はわざわざ王家に警告文を送ってまでクローディアが聖女にはふさわしくないと、報せようとしただろう?」


「警告文?」


 シャルロッテとしては、まったく身に覚えがない。一体、なんの話をしているのか。

 眉をつり上げている彼女に、ヘレパンツァーが口を挟んだ。


「つまり、お前の送りつけた脅迫状が結果的にはめちゃくちゃ好意的に受け止められたわけだな」


 シャルロッテは送りつけた文章を思い出す。


【聖女をこのまま城に参内させはしない。あなたたちの計画を中止しないと命はない】


「彼女の不穏な動きと企みを察知し、我々に報せ。さらには実際にあの場で彼女の暴走を止めた。君は王家の危機を救ったんだ。皆、感謝してるよ」

「いやいやいや! どんだけ前向きに解釈してるの!!」

 早口でツッコんだものの完全に予想外の展開だ。シャルロッテは必死に頭を回転させる。


「言ったでしょ? 実は私が彼女をそそのかして、あんな真似をさせたの。すべては私が王家に仇を為そうとして計画した。私が黒幕よ!」


 これでどう? 誰かを操って害を為すなんて、ものすごくラスボスっぽいじゃない。

 内心でドヤ顔を決めているシャルロッテに対し、フィオンが苦笑する。

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