物語の根底がひっくり返りそうなんですが
クローディアの心配をひとしきりした後、ペネロペのやり場のない怒りはすべてシャルロッテに向けられた。
「ロベール・シュヴァン公爵が亡くなった今、妻である私ペネロペ・シュヴァンが宣言します。シャルロッテ・シュヴァン。あなたはロベール公爵およびその家族に危害を加えようとした罪で、シュヴァン公爵家から除名、称号剥奪、およびこの館からの追放を命じます」
「い、今さら?」
高らかに宣言されたものの、なにも響かない。さらにはちゃっかりロベールの死まで自分のせいになっている。
ん? でもこれって考えようによっては、チャンス?
気持ちを切り替えたシャルロッテは不敵に笑った。
「受け入れるわ。あなたの言うとおり、実はすべて私の差し金なの。クローディアをそそのかして王家に」
「あなたにそんなことを決める権限など今はありませんよ」
意気揚々と語るシャルロッテを遮るように間にフィオンが入ってくる。ペネロペは怯えた顔になり、シャルロッテはあきらかに不機嫌なオーラを出した。
「今、いいところだったのに!」
「悪いね。クローディアの処遇についてだが、事実関係を把握するため彼女の身柄はこちらで拘束する。裁判にかけられ、なんらかの罪に問われる可能性もあるだろう」
絶対に悪いと思っていないでしょ!
「そ、そんな……。聖女として城へ参入する話は?」
心の中で不満を抱いているシャルロッテをよそに、フィオンはペネロペに続けていく。
「言っただろう。とっくになくなっている。そして今回、改めてシュヴァン公爵ロベール氏の死について再調査が行われることになった。あなたにも話を聞かせてもらいますよ?」
口調は丁寧だが、冷たさを帯びた声にペネロペは身を縮めた。
「クローディアを追い詰めていたのは、他でもない母親であるあなた自身だったんじゃないですか?」
「なにを言うんですか。私はクローディアの幸せのために」
この場でも保身に走ろうとするペネロペだが、言葉が続かない。
「え、ちなみに処遇ってもしかして処刑するの?」
さらりと口を挟んで尋ねたシャルロッテの問いにペネロペもフィオンも目を丸くした。
「処刑はしない」
わずかに間があり、フィオンは真面目な顔で短く答えた。逆にシャルロッテは皮肉めいた笑みを浮かべる。
「あら、ずいぶんと甘いのね」
自分のときは聖力が魔力だと知られ、弁明の余地など与えられなかった。誰もがシャルロッテを裏切り者だと罵り、処刑台まで送られるのにそう時間はかからなかった。
「甘さは関係ないよ。処刑制度はもうないんだ」
思い出(※正確には小説で読んだ内容)に浸っていると、信じられない内容がフィオンの口から飛び出した。思わず彼を二度見する。
すると彼は困惑気味に微笑んだ。
「知らないのかい? わが国では一ヶ月ほど前から処刑制度を廃止したんだ」
「……はあああぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
自ら発した声の大きさに自分でも驚く。でもこれが叫ばずにはいられようか。
え、聞き間違い? これは夢? だってまだ物語開始前で――。
混乱と同意に急に世界が歪む。足元が崩れ落ちそうになり、本人に自覚がないまま、どこかに意識が引っ張られる。
床に倒れ込む寸前で力強い腕に受け止められた気がするのだが、それが誰なのかまでは把握できない。
わけがわからない。でも私は聖女よりも……ラスボスの方が性に合っている気がする。
とはいえ今回の一件だけで自分をラスボスとして認知させるのは無理だ。次の手立てを考えなくては。そう思いながらシャルロッテの視界も思考も暗転した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます