当人を差し置いて話を進めないでください
シャルロッテの紫色の瞳は揺れずに前だけを見据えた。そして彼女は再び口を開く。
「なにより、これ以上ここで彼女に暴れられて、私より悪役っぽく振る舞われるのが嫌なのよ! こっちの存在感、どんどん霞む一方よ? せっかくのラスボスへの輝く第一歩だったのに、これじゃ境遇が違ってもモブでしかないわ!」
「それが一番の本音か」
シャルロッテのぶれない本心にヘレパンツァーは遠くを見つめる。
しかしシャルロッテとしては死活問題だ。このままではモブとしてあっさり消されてしまう。
すると、クローディアがゆっくりとシャルロッテの方に近づいてきた。その途中で彼女の視線がシャルロッテの後方へと向く。
「これは、これは。総監察官ではないですか。閣下ほどの御方がなぜこのようなところへ? まさかこの魔女が?」
言葉遣いは丁寧だが、上辺だけの敬意は明白だ。その証拠にクローディアの薄気味悪い笑みは不快さを伴う。
「え、なに? あなたたち知り合いなの?」
クローディアとヘレパンツァーをシャルロッテは交互に見た。
「貴殿には関係なかろう」
シャルロッテではなくローディアの中の者に対し、相手をするつもりは微塵もないと跳ねつける。クローディアはシャルロッテを値踏みするかのごとく改めてまじまじと見続けた。
「そうですね。しかし見たところ閣下は彼女と契約は結んでいないよう。これ幸いなり。書物で私を呼び出したこの頭の悪い女よりこの女の魂の方がよっぽどいい。魔力も強力だ」
「ちょ! そこ強調して! クローディアより私の方が魔力も能力も段違いなんだって!!」
目を爛々とさせて訴えるシャルロッテに、さすがにクローディアも顔を引きつらせる。
「おまえは自分の状況をわかっているのか?」
ヘレパンツァーが呆れたように問いかけ、続けてクローディアを睨みつけた。
「で、私を出し抜くつもりか? 所詮お前は素人の呪文で呼び出されるほどの下層者だろう」
「ええ。だから絶好のチャンスなんです。契約者ではないなら閣下とはいえ手出しは無用。あなたほどの地位なら彼女は役不足でしょ?」
「あのー。さっきから当事者のけ者にして話を進めないでくれる?」
シャルロッテが口を挟み、クローディアに対峙する。しかしクローディアの目には勝算の色が浮かんでいた。彼女の思惑などシャルロッテにとってはこの際、どうでもいい。
「私にとって大事なのは、ラスボスとしてそばに置くのに、どちらが相応しいか。それだけよ」
言い切ったのと同時に、不意に背後からシャルロッテの肩が掴まれた。本人はさることながら、クローディアも驚く。
ずっと傍観者として動かなかったヘレパンツァーがここにきて不機嫌そうに口を開いた。
「生憎、私は目の前で自分の獲物に手を出されるのを、指をくわえて見ているほど心が広くないんだ。むしろ短気で狭すぎるくらいさ」
鮮血を彷彿とさせる紅い瞳が細められ、クローディアに睨みを利かせる。続けて彼の視線は自分の身長よりもだいぶ低いシャルロッテに移った。
「おい、シャルロッテと言ったな。我を呼び出し紫水晶の魔女シャルロッテ。汝の望みどおりここに契約を結ぶ。その名と血盟の証を我に差し出せ」
「って」
急展開すぎでしょ!とツッコミを入れる暇もない。続けてヘレパンツァーのとった行動にシャルロッテは目を剥いた。
彼は強引にシャルロッテに顔を寄せると、うっすらと血の滲んだ唇の端に舌を這わす。その瞬間、シャルロッテの体に熱を伴った電流が走った。
体中を駆け巡ったなにかがやがて彼女の中に溶けて落ちていく。
かすかではあるがシャルロッテの血の味をじっくりと堪能し、ヘレパンツァーはクローディアの中の存在に笑いかけた。
「契約も履行できない下賤者が。目障りだ、さっさと私の前から消えろ」
言ったそばからシャルロッテをクローディアの前に突き飛ばす。柔らかな金色の髪が揺れ、シャルロッテは慌てて体勢を整え直した。
「契約者なら、もう少し丁寧に扱ってくれない?」
うしろを向いて文句を垂れるシャルロッテに対し、クローディアの表情は打って変わって緊迫めいたものになる。そんな彼女にシャルロッテは改めて優しく問いかけた。
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