いよいよ因縁の……最強の騎士様と敵対します
「ちなみに、やっぱり手を貸すつもりはない?」
シャルロッテは微笑んで、隣に立つ悪魔に尋ねた。ヘレパンツァーはこちらに視線を寄越しもしない。
「召喚はされたが、お前とは契約を結んでいない。高みの見物といくさ。死んだときは、ついでにその魂をもらっていってやろう」
「そう、残念。ま、もう死ぬ気はないけどね」
不思議とシャルロッテの心は落ち着いていた。先ほどまでのフィオンに対する怒りも収まっている。今までずっと抑えつけていた魔力をもう隠さずともよいのだ。
図らずとも前世で幼い頃は真剣に魔女になりたいと思っていた。これは偶然なのか、否か。どちらにしろ、なにも遠慮しなくていいってことよね。
不敵な笑みを浮かべたところで大広間のドアが勢いよく開かれる。
「王家に反逆を企てているとわざわざ報せ、不穏な動きをしている者はどこだ?」
暗い濃紺の軍服を模した同じ格好の青年たちが姿を現す。その中心にいる人物がフィオンだとひと目見てシャルロッテには見当がついた。
表紙イラストにうっすらと描かれていたものね。
短めのダークブラウンの髪に、すっと伸びた鼻筋、鋭くも思慮深そうな赤みがかった茶色い瞳。
精悍な顔立ちなのは言うまでもないが、それだけではない。彼は他と圧倒的になにかが違う。雰囲気とでもいうのか、今まで経験してきた修羅場の多さとでもいうのか。
おもしろい。そうこなくちゃ。
「ようこそ、フィオン・ロヤリテート団長」
シャルロッテはおもむろに声をかけた。幾人もの殺気が彼女に向くが気にはしない。
「私は、
武士でもあるまいし、自分の正体をわざわざ明かすのは馬鹿げているかもしれない。だが、これだけは譲れない。ここはちゃんと伝えておかなければ。
ラスボスとして幅広く世間に認知してもらうために欠かせない情報だ。しっかり胸に刻んでおいてもらう必要がある。
一方で、いきなり名乗り出られ、フィオンたちは、呆気にとられていた。
「フィオン、助けて! すべては彼女が仕組んだことなの!」
必死に訴えかけるクローディアだが、フィオンは彼女を一瞥しただけで、シャルロッテをまっすぐに見つめた。
「シャルロッテ? 君が……」
「そう。私があなたたちの大切な聖女を人質にとって、今回のことを企てたの」
説明しつつ、フィオンの反応がシャルロッテにはいささか意外だった。
他の者たちと同じくてっきり怒りや憎しみに満ちた眼差しを向けてくるのだと思っていたが、その気配はない。
小説で処刑される自分を罵っていた彼の姿は、今はまったく異なる。
でもこれは彼の本当の姿じゃないわ。殺気を消して、こんな状況でも落ち着き払っているなんて……騎士団長の称号はあながち飾りじゃないわけね。
シャルロッテは冷静に敵対相手を分析する。相手が手強ければ手強いほど、接戦を繰り広げた自分の知名度も高まるというものだ。
聖女として裏切られたと罵られるくらいなら、最初から敵として憎まれた方がよっぽどいい。
「フィオン・ロヤリテートさま、情けは無用です。この者をどうにかしてください。母としては苦渋の選択ですが、どんな処罰を課せられても私は受け入れます。すべては義姉のクローディアの幸せを妬んだゆえの暴挙」
ペネロペが憐れな母を演じ、その場ですすり泣く。さっきから怒ったり泣いたりと忙しいものだ。しかし何人かの団員はペネロペに同情的な目を向けている。
「勝手なこと言わないでくれる? ラスボスがそんなしょぼい理由で王家と敵対するような真似、しないわよ!」
このままではラスボスの尊厳にかかわってくる。ここはさっさと話を進めるべきだ。
「この際、なんでもいいわ。聖女クローディアを王家にはわたさない。返してほしいのなら、その剣を抜き私を倒してみるがいい」
わざとフィオンを挑発する。正直、剣の腕にはまったく自信はないが、こちらは魔力を扱えるのだ。フィオンは騒ぐ周りを制し、自らシャルロッテに近づいてきた。
シャルロッテは思考を巡らせ次の展開に備える。
ある程度、張り合った方がいいわよね。まずは攻撃術ではなく相手の動きを封じる。チャンスは彼が剣を抜く瞬間。
フィオンは無表情のままシャルロッテとの距離を縮めてくる。シャルロッテは唾液を嚥下し、その機会を待った。
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