第一章
モブ聖女誕生と処刑までのカウントダウン
シャルロッテは読書好きな子どもだった。自身の持つ巨大な力を上手くコントロールするため魔術書の類を読み漁っていたのだ。
「お母さま、やっぱりシャルロッテは普通じゃない! この子は魂を悪魔に売っているのよ!」
静に本を読んでいるところに、ふたつ違いの義姉クローディアが顔を歪めてわざわざシャルロッテを責め立ててくる。
わっと泣き出し、顔を両手で覆ってうずくまったのは、責められている側ではなく責める側だ。長い茶色の髪や煌きらびやかなドレスの裾が床につくが、彼女は気にしない。
いかに妹が非道で異端なのかを訴えるのが最優先だからだ。
「お父さまが病気で亡くなったのもこの子のせいよ! 絶対にそう! なにか怪しげな術でお父さまを弱らせたのに違いないわ!」
とんでもない言いがかりだ。この猿芝居はいつ終わるのかと呆れていたら、そこに役者が加わった。
「シャルロッテ、いつもクローディアの優しさを踏みにじって、地下に籠こもってばかりでなにを考えているの? 私たちは正直、あなたが理解できないのよ」
クローディアの隣に立つ義母のペネロペは眉を釣り上げ、シャルロッテを睨めつけた。顔に塗りたくった白粉が眉間に寄せた皺の勢いでひび割れしそうだ。
「うちは王家からも目をかけられて、過去に聖女を何人も輩出しているシュヴァン公爵家なのよ。クローディアはじきに聖女として城に上がる予定なのに、その妹ときたら……」
「邪魔するだけならあっちに行ってくれない?」
きっぱりと言い切るのと同時に指を鳴らすと、クローディアとペネロペの足は部屋の外に勝手に向く。
「な、なんなの?」
「こ、怖い」
こうしてふたりが部屋から出て行くと、ドアが意思を持っているかのように、ばたんと勢いよく閉まる。
シャルロッテは再び、読書を再開した。
淡い紫色の瞳は珍しく、クローディアとペネロペには気味が悪いとよく言われた。たしかに両親のどちらの瞳にもない色だが、蜂蜜色の長い髪は母譲りだった。
元々爵位をもっていたのはシャルロッテの父、ロベールだ。母が亡くなった後、後妻となったペネロペは野心家で、おそらく父と結婚したのも公爵夫人という立場を欲したからだろう。
そしてもうひとつ。シュヴァン公爵家は歴代、不思議な力を持つ女性を多く誕生させ、王家に聖女として献上させている。公爵という爵位はそういった事情もあった。
ペネロペは自身の娘を聖女として城に赴かせたいのだろう。そうすると王家の人間に近づき、その花嫁となる可能性だって大いにある。
シャルロッテとしては聖女など興味ない。どうせなら魔力を使いこなす大魔女にでもなりたいところだ。それなのに、ああやって彼女たちは、いちいち自分につっかかってくる。
どうしてなのか考えるまでもない。理由はシャルロッテの存在を脅威に感じているからだ。彼女の持つ力の本質はともかく、その大きさはふたりも理解している。
ロベールが病で亡くなり、この家ではさらにペネロペが顔をきかせていった。未亡人として周りに哀れみの目を向けられながら、実質的に家長となったペネロペは、ますます実の娘であるクローディアと血の繋がらないシャルロッテを差別して扱った。
最初は自分に害がなければいいと思っていたが、こうも頻繁だと面倒だ。
だから、少し意地悪してやったのだ。自分を蔑み邪魔をしてくるペネロペとクローディアの希望である聖女に選ばれる未来。それを奪ってやった。
この家で正式にシュヴァン公爵家の血をついでいるのはシャルロッテだけになる。そこを強調して関係者に進言してやったら、あとは簡単だった。
シャルロッテが聖女として城に参入する旨が決まったと告げたときのクローディアとペネロペの絶望した表情。
笑みのひとつでもこぼしたくなるだろう。
聖女に興味はないけれど、この力が誰かの役に立つなら、この力が認められるなら、それはそれでいいかもしれない。
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