お望み通り聖女ではなく悪役になって生き延びてみせます

 シャルロッテは顔を上げ、ひとまずクローディアとペネロペに微笑んだ。


「聖女として城へ参入する件、クローディアにお譲りします」


 ドレスの裾を持ち公爵令嬢として優雅な振る舞いで宣言する。


「は?」


 あまりにも突拍子のないシャルロッテの発言にクローディアとペネロペは目を丸くした。


 無理もない。今の今まで聖女として選ばれた自分の能力を勝ち誇り、クローディアを蔑んだ目で見ていたのだから。


 呆気にとられているふたりを尻目に、シャルロッテは仕切っていく。


「私のことは死んだ者として扱ってください。お屋敷も出ていきます」


「な、なにを企んでいるの? 復讐? 呪いでもかけるつもり!?」


 動揺を露わにするペネロペにつられ、クローディアは怯えたように顔に両手をやり、叫ぶ。


「いやぁ!」


 ちょっと……なにもしてないのに完全に悪役扱いじゃない。まぁ、いいけど。


 シャルロッテがため息をつくと、その仕草にさえクローディアとペネロペは怯えて肩をすくめる。


 さっさとふたりに背を向け自室に向かい、せっせと屋敷を出る準備を始めた。比較的動きやすいシンプルなドレスに着替え、荷物をまとめる。


 とにかく処刑は絶対に回避! せっかく生まれ変わったんだから、シャルロッテでも人生楽しんでやるわ! 社畜根性舐めんじゃないわよ!


 屋敷のメイドたちも腫れ物のように自分を見つめてくる。行き先を尋ねる者もいなければ出て行くのを止める者もいない。


「では、今までお世話になりました。御機嫌よう。どうかお元気で」


 極力、爽やかな笑顔を向け屋敷をあとにする。


 これからどうしよう? 森でスローライフ? 力を隠してどこかで働く?


 それこそ鉄板だ。これで断罪ルートは回避され、シャルロッテを責める者はいない。極力、自身の持つ魔力を抑え、あまり目立たずに生きていけば……。


 前を向き希望に満ちた表情が、次の瞬間消えてなくなる。


 なんで? なんで私が自分の力を隠してひっそりと生きていかないといけないわけ?


 足が止まり、シャルロッテの肩がわなわなと震えだした。


『お前が聖女と偽らなければもう少し寛大な処遇を与えてやったものを』


 処刑される前、辛辣な言葉を吐き捨てた次期国王のセリフが頭によみがえる。


 ふざけんな、あなたたちが私の力を勝手に勘違いして聖女にしただけじゃない!


『偽善者ぶったところで持つのは聖力ではなく魔力。その本質はわからない』


 はぁ? 聖力だから立派って誰が決めたの? 魔力だってすべては使い方次第なのに。


 怒りで血管が切れそうになる。こんな腹立たしさには、さらに覚えがあった。


『白鳥さん、あなたでしょ、このシステムのミス!』

『違います。これは私の担当ではなく』

『言い訳はいらないわ。普段から他の社員とろくにコミュニケーションをとらないようなあなたが、こんなミスを犯したに決まっているでしょ?』


 とんだ言いがかりだ。前世で白鳥沙織として生きていた頃、仕事はできると自負していたが、可愛げのない態度が上司には気に入らなかったらしく、なにかと理不尽な理由で責められた。


「いいわ。こうなったら巨大な魔力を持つ身として、お望み通り極悪非道な悪役になってやろうじゃない」


 勝手に裏切られた気分になって責めている者どもに思い知らしてやるわ!


 不敵な笑みを浮かべシャルロッテは決意する。


 モブ聖女として処刑されるくらいならラスボスになってこの世界で恐れおののかれる存在になってやるから!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る