処刑されるモブ聖女、悪逆非道なラスボスとして生き残ります

くろのあずさ

プロローグ

転生したのは開始1ページ目で処刑されるモブ聖女でした

「なんで、なんであんたが聖女として選ばれるのよ! おかしいでしょ?」


 すごい剣幕でふたつ年上の義姉、クローディアが訴えかけてくる。今にも泣き崩れそうな彼女の肩を義母のペネロペが支えた。


「そうよ。ファートゥム王家はあなたの力の恐ろしさをわかっていないから! 怪しげな本ばかり読んで、なにを企んでいるのやら」


 ふたりの畏怖の混じった眼差しを、シャルロッテは意に介さない。長い蜂蜜色の髪を見せつけるように掻き上げた。


「なにを言っているのかしら? 私の方が強い力を持っているのだから聖女として選ばれるのは当然じゃない」


 勝ち誇った目で蔑んだようにクローディアを見つめ、口角を上げる。しかし次の瞬間、シャルロッテの表情が、無になった。


 い、いやいやいや。ちょっと待って! 今、シャルロッテって言った? シャルロッテ? ファートゥム王家? え、どういうこと?


 混乱して頭を抱えるシャルロッテをペネロペとクローディアは不審そうに見つめてくる。


 もしかして、これ【聖なる乙女と最強の騎士】!?


 やけに俯瞰して世界を理解できたのは、自分が“読んだことがある”からだ。


 膨大な記憶が頭を駆け巡り、自身の顔を触って、長い金色の髪にそっと触れる。身動きが取りづらいドレスは、ただの会社員だった身としては今すぐ羞恥心もあって脱ぎ捨てたい。


 それよりも、もしもこれが【聖なる乙女と最強騎士】だとするなら。私がシャルロッテ……シャルロッテ・シュヴァン・ヴァールハイトなのだとしたら……。


 シャルロッテの血の気が一気に引いた。


 開始一ページ目で処刑されるモブ聖女じゃない!! 本編どころかプロローグで戦線離脱の!!


 叫び声をあげて取り乱しそうになるのを、わずかな理性で押し留めた。


 【聖なる乙女と最強戦士】は社畜として生きていた前世で楽しみに読んでいた小説のシリーズ名だ。


 強力な力は聖力ではなく魔力であることが明らかになり、元々の性格の悪さも相まって国を滅ぼすと恐れられ、裏切り者と罵られながら処刑された聖女、シャルロッテ。


 そんな背景で物語は始まる。聖女に対する不信感が拭えず、自国ではなく異世界から聖女を召喚することになり、現れたのがヒロインだ。


 ヒロインはシャルロッテのせいで聖女なのにもかかわらず、不信感から最初は不遇な扱いを受ける。しかし彼女のひたむきで真っすぐな性格で周りを魅了し、気づけば王国の騎士団長、ひいては次期国王まで彼女に夢中になり……というストーリーだ。


 シャルロッテと言えば、一巻中盤あたりで名前が明かされるものの登場するのは過去の回想のみ。冒頭で死んでいるのだから無理もなく、登場したとしても毎回、主人公の引き立て役として登場する立ち位置だ。


 冗談じゃないわよ!


 どうやら時間軸としては、小説の物語開始前になるようだが、城に聖女として召喚されたところまで話は進んでいるようだ。断罪へのカウントダウンはすでに始まっている。


 落ち着け、落ち着くのよ。とりあえず今私がすべきことは……。

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