第36話

 迷子になってしまった私は観覧車の見えるベンチに座って途方に暮れていた。

 迷子になってすぐ、みんなを探して遊園地中を走り回ったが中々見つけることができず日も暮れてしまった。


 みんなを探して歩き回った疲労から私はベンチに座ったまま大きなため息をついたが、迷子になってしまったのは完全に私の責任で、むしろ私がみんなに迷惑をかけてしまっている側なのでため息をつく権利なんて無い。

 ジャンケンに負けたことにショックを受けてみんなとはぐれてしまったことも、スマホの充電が無くなって連絡が取れなくなってしまったことも、全ては自己責任であり誰を責めることもできないのだから。


 それにしたって、ジャンケンには負け続け、迷子になり、スマホの電源は切れ連絡も取れずかれこれ1時間が経過してもみんなと出会えないなんて呪われてるとしか思えないよ……。

 まあこの不運が自分にしか降りかからない物なのは不幸中の幸いだけど。


 あまりの運の悪さに落ち込む私とは打って変わって、暗闇の中でキラキラと輝きながら楽しげに回っている観覧車を眺めていると、その行雲流水な生き方が羨ましくなるとともに、その生き方こそが正しい生き方なのではないかと思えてくる。


 ここ最近の私ときたら勉強や友人関係、アニメ鑑賞なんて放ったらかしで永愛君のことばかり考えており、それと同様に永愛君と楠森さんの関係のことばかりが頭の中にあった。

 そして常に永愛君をめぐって楠森さんとバトルを繰り広げているような状態だった。


 そんなことばかりしていたから、神様に見放され今日1度もジャンケンには勝つことができずこうしてみんなとはぐれてしまったのだろう。


 周りのみんなからしても迷惑極まりない話だ。

 今日だって私と楠森さんが永愛君をめぐったバトルを繰り広げていなければ、ただ普通の友達同士で遊園地に来た時のように遊園地を最大限楽しむことができただろう。

 それなのに、千秋と茜には変な気を遣わせてしまい最終的にこんな結末を迎えてしまったのは、私と楠森さんが永愛君を巡ったバトルをしていたからに他ならない。


 次またみんなと会った時はちゃんと謝ろう。

 謝るだけでは許してもらえないかもしれないから、スタバくらいは奢らないといけないかな。


 そしてなんとか許してもらうことができたらまたゆっくりみんなと遊園地に遊びにこよう。

 今日は友達としての思い出を作ることはできなかったし、次は最高の思い出を作りにこよう。


 少しだけ気持ちの整理ができて前向きになり始めた私はベンチを立ち、観覧車に向かって歩き始めた。


 永愛君のことは大好きだけど、きっと今の運の悪い私なんかじゃ振り向いてもらえない。

 私なんかより積極的で可愛くて昔からよく知っている楠森さんを選んで当然だ。


 この運の悪さと、後ろ向きな感情は観覧車の中に置いてこよう。

 そう簡単に置いてこれるものではないかもしれないが、ここで変わらなければきっと私はこれからもずっと変わることはできない。


 そうして観覧車に到着した私は、スタッフさんが扉を開けてくれるのを待ち、扉が開いてすぐ観覧車に乗り込んだ。

 

「乗りまぁぁぁぁーす‼︎」


 どこからとも無く聞こえてきた聞き馴染みのある声。

 そしてその声がした扉の外を見ると、ものすごい勢いで観覧車に向かって走ってくる永愛君の姿が見えた。


「えっ、永愛君⁉︎」


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお‼︎」


 そして永愛君は扉が閉まるギリギリのところで転がるようにして私が乗っている観覧車に乗り込んできた。


「はぁ、はぁ、はぁ……。やっと見つけた」


 永愛君が息を切らしている姿を見て、必死になって私を探してくれていたことを理解した私は涙が込み上げてきて口元を抑えた。

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