第35話

「はぁ……。なんで私ってこんなに運が悪いんだろ……」


 最初楠森さんにジャンケンで負けた時は、今から何回もジェットコースターに乗るんだからそのうち勝てるだろうと楽観的に考えていた。

 ジャンケンは1対1の勝負で、勝つ確率も負ける確率も1/2なのだから、楽観的になってしまうのも無理は無いだろう。


 それなのに、私はあれから一度もジャンケンにに勝てず、ずっと1人でジェットコースターに乗っていた。


 最初は千秋と茜の2人が何をこそこそしているのかわからなかったが、今考えてみると茜が『ジェットコースターが怖いから千秋にしがみついてる』と言ってずっと2人で乗っているのは、私が永愛君の横に座ってジェットコースターに乗る確率を上げるためだったのだろう。


 千秋と茜が2人でコソコソしている理由がわかったのは喉の奥につっかえていた何かが取れた様な気がして気持ちよかった。

 しかし、その気持ちよさを大幅に超えていく永愛君の横に座れない--永愛君の横に楠森さんが座るという大きなストレス。


 私がジャンケン最弱人間なのが悪いので誰を責められるわけでも無い。

 とはいえ、せっかくお膳立てしてくれてるというのにこのまま何もできず帰宅することになってしまったら、せっかく協力しようとしてくれた千秋と茜に申し訳なさすぎる……。


 もう辺りは暗くなり閉園の時間も少しずつ迫ってきてはきているが、それでもまだチャンスが完全に失われたわけでは無い。

 あと1回か2回であればジェットコースターに乗ったとしても閉園時間に間に合うだろう。


「……よしっ。がんばれ私」


 トイレを終えた私は手を洗い、鏡に映っている自分を見つめながら頬を両手で挟む様にしてパンッと叩き、折れかかっていた心をなんとか繋ぎ止める。

 そして私はトイレを出てみんなのところへ向かって歩いて行った。


「……あれ、ここどこだろう」


 トイレを出て永愛君たちがいるところへ歩いていったつもりの私だったが、どれだけ歩いても永愛君たちがいるはずの場所に辿り着かない。

 来た道を引き返しているだけのはずなので、普通に考えればいつか永愛君たちと出会うはずなのだが、どれだけ記憶を信じて正解だと思われる方向へ歩いて行っても永愛君たちに会うことはできなかった。


 こんなに広い遊園地ではぐれてしまえば再会するのは不可能に近いと一瞬焦りはしたが、このご時世誰でもスマホというツールを持ち合わせている。

 たとえ迷子になってしまったのだとしても、電話で連絡を取れば万事解決だ。


 そう考えてポケットからスマホを出した私だったが……。


「えっ、あれっ、嘘っ……最悪、充電切れてる……」


 虚しくもスマホの充電は底をついており、スマホの画面が光ることはなかった。


 こうしてスマホで連絡を取るという手段を失った私は、高校生にして迷子になったのだ。







※短め回失礼しました🙇‍♂️

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る