第32話

 放課後、俺は楠森と2人でファミレスにやって来ていた。


 楠森からは家に来ないかと言われたが、流石に楠森の家に行くと何をされるかわかったものではないのでやんわり拒否し、ファミレスへとやってきた。


 実は今日の放課後は綾原たちとファミレスに行く約束をしていた。

 普通なら綾原との予定より大事な予定なんてあるはずないが、今回だけは綾原たちとの予定を断ってでも楠森とファミレスにこなければならなかった。


 それはもちろん、アレについての話をするためで……。


「……あの画面をわざわざ見せてきたってことは俺とAIとのやりとりも全部見たってことだよな?」


「うん。全部見た」


「だよな……」


 覚悟はしていたので今更恥ずかしがる素振りを見せることはないが、AIに恋愛相談をするヤンキーって恥ずかしすぎるだろガチで……。

 正直今楠森の前に座っているだけでもかなり気まずい。


 せめてもの救いだったのは、俺がAI先生に個人名を出して質問をしていないことだ。


 俺に好きな人がいることは明白になってしまったが、その相手が誰かまでは--。


「龍人が好きなのって綾原さんでしょ?」


「はっ--⁉︎ なっ、なんでそれを⁉︎」


「やっぱり」


 ……やってしまった。


 反射的に返答してしまったが、『なんでそれを⁉︎』なんて言ってしまったら『はい僕が好きなのは綾原です』と言ってしまっているようなものだ。


「図ったな⁉︎」


「図ったわけではないけど。というか図らなくてもバレバレだったけどね。AIに質問してた画面見る前から多分綾原さんのことが好きなんだろうなって思ってたから」


「そっ、そんなにバレバレか俺」


「うん。バレバレ。多分龍人の気持ちに気付いてないの、綾原さんだけだと思う。古里さんと鈴村さんはとっくに気づいてると思うし」


「マジかそれ」


「うん」


 綾原に気付かれていないのならセーフではあるが、限りなくアウトに近いセーフだ。

 古里と鈴村が綾原に俺の気持ちを伝えないとも限らないし。


 というかそもそも俺とAIとのやりとり全部見るなよおい。

 人のスマホの中身盗み見るなんで完全にプライバシーの侵害だからな?


「……それで、どうするつもりなんだ? 俺が綾原との関係を前に進めるためにAIを使ってたってことを綾原たちにバラすつもりか?」


「……バラさないよ。まだ」


 まだ、という言葉に込められたのはどのような意図なのだろうか。


「まだって、いつかはバラすつもりなのかよ……」


「それは私にもわからないわ」


 冷静になって考えてみると、楠森がこのことを綾原たちにバラしても何のメリットも無い。

 まあだからといって楠森がバラさないとも限らないし、面白半分でこのことを吹聴する可能性はある。


 とはいえ、楠森は面白半分でそんなことをする人間ではない。

 それなら『バラさないよ。』というのはどういうことだろうか。


 今はまだバラすつもりは無いが、いつかバラすべき時が来たらバラすということだよな。

 バラすべき時、とは一体どのような状況なのだろう。


「バラすなら今すぐバラしてもいいだろ。いつかバラすべき時がやってくるってことなのか?」


「……ええ。そんなところかしら。もしかしたらバラすべき時はやってこないかもしれないしね」


「俺としてはバラすべき時なんて死ぬまでやってこないでほしいんだけど」


「だからひとまず安心して」


「いや安心できるわけないだろ……」


「私は龍人が『ヤンキーが恋をするにはどうしたらいい?』みたいな感じでどれだけ恥ずかしい質問をAIにしていたとしても嫌いにならないから」


「うわぁぁぁぁぁぁやめてくれぇぇぇぇ! もうそれ以上俺の恥ずかしい質問を掘り起こさないでくれぇぇぇぇぇぇ!」


 それから俺は自分がAIにしてきた恥ずかしい質問を掘り返しに掘り返され、悶え死ぬ一歩手前まで楠森から辱めを受けていた。




 ◇◆




「なんか永愛君急いで帰って行ったけどどうしたんだろうね」


「さぁ、急用がって言ってたけど。永奈も詳しい話は聞いてないの?」


「えっ、うん……。何も聞いてない」


 今日は永愛君を誘ってみんなでファミレスに行く予定だった。


 それなのに、永愛君は突然急用が入ったと私たちの誘いを断り急いで教室から出て行ってしまった。


 何があったんだろ。もしかして楠森さんなら知ってるかな?


 そう思った私が楠森さんに声をかけようとした瞬間、私は楠森さんと目があった。


 そして楠森さんは少しだけ口角をあげて、したら顔をして見せた。


 えっ、えっ、えっ?


 もしかして永愛君の急用って楠森さんと……?


 それならなんで私たちの誘いを断ったのだろうか……。


 結局私は楠森さんに声をかけることができず、モヤモヤした気持ちだけが胸の奥に残って消え去ることはなかった。

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