第31話
登校してきて教室ではなく図書室に向かった俺は、夢川先生にスマホが落とし物として職員室に届いていないか確認した。
「スマホなんて届いてなかったぞ」
「マジか……」
夢川先生の言葉を聞いた俺は絶望した。
昨晩スマホが手元に無いことに気付いた俺は、間違いなくAI先生からアドバイスをもらって綾原を追いかける時に落としたのだと考えた。
スマホがなければ綾原たちと連絡が取れないし、すぐに学校に取りに行くべきか悩んだ。
しかし、どうせ誰かがスマホを拾って先生に届けているだろうし、そうなったらどれだけ学校の中を探しても職員室に行かなければスマホが手に入らない可能性もあったので、翌日登校してからスマホを取りに行こうと考えていた。
それなのに、夢川先生によると職員室にスマホは届いていないという。
じゃあ俺のスマホはどこに行ったというのだろうか。
スマホが無くなったことも心配ではあるが、俺が心配なのはAI先生の画面を開いたままでスマホを落としたような気がしていることだ。
AI先生の画面を開いた状態で誰かに拾われ、それが俺のスマホだとバレてしまった場合、単に恥ずかしいと言うのもあるが、綾原に俺がAI先生に恋愛を教えてもらっているということがバレてしまう危険性がある。
そうなってしまっては綾原と付き合える可能性が著しく低下するどころか、友達としての関係性も危うくなってしまうだろう。
……いやでもやっぱり綾原にバレるかもとかそんなことより普通に恥ずかしいが勝つかもな。
ヤンキーがAIに恋愛相談してるとか恥ずかしいしイタすぎるだろ。
「そうですか……。なら探してきます。学校で落としたのは間違いないと思うんで」
「スマホもそうだけどな……。綾原との関係はどうなったんだ? 最近報告が無かったが?」
先程まで穏やかだった朝の図書室の空気が突然ひりついた。
……やばい、確かにここ色々ありすぎて最近夢川先生に綾原との関係について報告するのを忘れていた。
綾原と母親の関係についてのことだったり、楠森が突然転校してきたりと忙しない毎日が続いていたせいで夢川先生への報告を怠ってしまっていた。
夢川先生は無表情だし表面上怒っているようには見えないが、あれは間違いなく怒っている。
ヤンキーの俺が唯一歯向かうことのできない昔の夢川先生が顔を見せてきたようだ。
「すっ、すいません……。最近忙しくて……」
「忙しいなんてそんなことが理由になると思ってるのか?」
「いや、理由になるとは思ってないんですけどそれが事実というかなんというか……」
「……まっ、別にいいんだけどな」
ついに夢川先生の化けの皮が剥がれて本性を表すのかと思いきや、夢川先生は怒るどころか俺が報告を怠ったことを咎めることすらしなかった。
「えっ、良いんですか?」
そんな夢川先生の予想外すぎる反応を見た俺は思わず聞き返してしまった。
「ああ。龍人からの綾原との関係の報告についての報告が無い代わりにな、龍人の悪評を聞くことも一気に減ったんだ」
「……え?」
そう言われてみると、意識していたわけではないが綾原とのことばかり考えて、鬼塚先生に追われる回数も減っていた。
それは俺が綾原との関係を次に進めることに夢中で、授業をサボったり学校を無断で欠席したりという悪事を働かなくなったからだろう。
なぜルールを守らずヤンキーのレッテルを貼られている俺が恋をしなければならないのかと思っていたが、どうやら俺は夢川先生の思惑通りなら行動してしまっていたようだ。
「……そう言われてみれば確かに」
「そういうことだ。最終目標が綾原と付き合うっていうのは変わらないが、今までみたいに細かく私に報告する必要は無いぞ」
「えっ、良いんですか?」
「気を抜くなよ。また悪評が聞こえてくるようになったら逐一報告してもらうから」
「はっ、はい……」
こうして俺は今起きたことが現実なのかどうかわからないまま、図書室を後にした。
◆◇
教室に到着した俺は、夢川先生の発言に驚かされてはいたものの、逐一報告しなくなったのは良いことだよなと前向きに考えていた。
きっとこのままスマホもどこかからひょこっと……。
「龍人」
夢川先生への報告義務が無くなった喜びを噛み締めていると頃に声をかけてきたのは楠森だった。
「楠森か。おはよ」
「これ」
そういって、楠森が差し出してきたのは俺のスマホだ。
俺のスマホを拾って保管してくれていたのは楠森だったのか。
「あっ、ありが--」
そう言って渡されたスマホには、AI先生と俺とのやりとりが映し出されていた。
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