第33話

 俺は楠森がいつ俺がAIを使って綾原をオトそうとしていたことをバラすか戦々恐々としながら毎日を過ごしていた。

 しかし、楠森は1ヶ月、2ヶ月、そしてついには3ヶ月が経過しても綾原にAI先生の件をバラすことはなかった。


 バラされるのはもちろん困るのだが、バラされないのはバラされないで、いつバラされるのだろうかと毎日それが気になってしまい俺の心は疲弊していた。

 その上俺とAI先生とのやりとりを完全に記憶していて、俺と顔を合わせるたびにイジッてくるし……。


 楠森に弱みを握られているせいで綾原との関係も中々前に進める事ができず、ついには夏休みも終わり季節は秋に突入した頃、突然チャンス……いや、ピンチがやってきた。


『うちの母親が会社の人からもらったらしくて。遊園地のチケット。みんなで行かない?』


 そう言ってチケットを俺たちにヒラヒラと見せたのは楠森だった。


 楠森が持っていた遊園地のチケットは運悪く5枚。

 なぜそう都合よく人数分のチケットを譲り受けてしまうのかと頭を抱えたが、誘われたからには断るわけにもいかない。


 今綾原と楠森の2人と一緒に行動すれば、楠森が綾原に俺の秘密をバラす危険性は増す。

 とはいえ、綾原との関係を前進させるためには遊園地に行くというイベントはチャンスでもある。


 そして俺たちは遊園地へとやってきていた。


「テンション上がるぅー! 遊園地なんて来たの久しぶりだから興奮せずにはいられませんなぁ!」


 鈴村は入場ゲートを通った瞬間小学生のようにはしゃぎ始めた。


 高校生にもなってみっともない……なんて思いはしたが、高校生ならまだはしゃいでいても普通の年齢ではあるか。

 まあ俺の場合は楠森に弱みを握られているせいではしゃぎたくてもはしゃげないんだけどな。


 そんな風にはしゃいでいる鈴村に、古里が耳打ちをし始めた。


「ごめんごめん。忘れてないから大丈夫だよ」


 古里からの耳打ちが終わってそう言う鈴村を見て、俺と綾原、そして楠森は目を見合わせ疑問符を浮かべた。


 何を耳打ちしたのかは知らないが、はしゃいでいた鈴村は落ち着きを取り戻した。

 落ち着きを取り戻したっていうか、普段から落ち着きがないので取り戻してはいないんだけど。


「それでどうする? とりあえず最初はあんまり怖くないジェットコースターから乗って少しずつ怖いジェットコースターに乗ってくか?」


「何言ってんの! 最初から一番怖いやつに乗らないと意味無い--イタッ⁉︎」


 とりあえずこのイベントを円滑に進めるために言った俺の意見を遮り一番怖いジェットコースターに乗ろうと言った鈴村に、古里は軽めのゲンコツを落とした。


「なっ、何するの⁉︎」


「何するのじゃないでしょ。さっきの話もう忘れる程頭悪く無いでしょ?」


「……ごめん」


 俺たちは再び目を見合わせるが、古里と鈴村が何の話をしているかはわからない。

 鈴村は普段あまり古里のいうことを聞いてはいないが、今日はやけに素直だな……。


 2人が何を企んでいるのかはわからないが、俺たちは絶叫レベルを10段階で表すとしたら2番目くらいのジェットコースターへとやってきた。


「どんな順番で乗る?」


 俺がそう訊くと、鈴村は訳のわからない話をし始めた。


「そっ、その……。私ちょっとジェットコースター苦手だから、千秋の横に乗ってしがみつくので、残りの3人でどの順番で乗るか決めてもらえる?」


 えっ、あれだけ遊園地に来てはしゃいでた鈴村が絶叫マシン嫌いなのか?


 それにさっき鈴村は1番怖いジェットコースターに乗ろうって言ったよな?


「えっ、でもさっき1番怖いジェットコースターから乗ろうって……」


「あっ、あれは最初に1番怖いジェットコースターに乗ればその後のが怖くなくなるかなと思って言っただけだよ?」


 理屈はわからなくもない。


 もっと訳のわからない理屈を述べられればジェットコースターが苦手だなんて嘘だろうと言えるのだが、ある程度理屈の通った言い訳をされたので、俺は反論することができなかった。


「……どうする?」


 綾原は混乱した様子でそう訊いてきた。


 俺は起点の聞いた策も思い浮かばず、唯一思いついた方法を呟いた。


「……じゃんけんするか」


「そうだね、それしかないよね」


「そうね。それしかなさそう」


 綾原と楠森が俺の意見に賛同したので、俺たちはグーを構えた。


「よし、それじゃあ……。じゃんけん」


「「「ポン」」」


 こうして俺たちはジェットコースターに乗る順番を決めた。

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