第28話
綾原が学校で1番のイケメンの先輩に告白されたシーンを目撃した俺は、その場で固まっていた。
綾原の男子生徒からの人気が絶大であることは理解していたし、こうして告白をされることが多いのも理解はしていた。
しかし、まさか目の前で告白されているシーンを目撃することになるとは思っていなかったし、告白をしてきた相手が学校で1番のイケメンだなんて……。
綾原は木戸先輩になんと返事をするのだろうか。
綾原が誰かに好意を寄せているなんて話は聞いたことがないが、学校1のイケメンである木戸先輩に好意を寄せている可能性は十分にある。
本来であれば盗み聞きするべきではないことくらい理解している。
それでも綾原の回答が気になった俺は、その場から離れることなく盗み聞きをすることにした。
しかし、綾原の声は小さく、口は動いているものの何を話しているのかは聞こえてこない。
「クソッ、せめてもう少し近づくことができれば……」
そんなことを考えていた俺だったが、1年生の女子生徒2人組が俺の方を見て、そそくさと俺の前を通り過ぎて行ってのを見た俺は我に帰った。
綾原が告白されて、その告白を受けようが断ろうが、それは綾原自身が選択することであって、俺がどうにかできることではない。
綾原が告白をOKして、俺が『その告白は受けるべきじゃない』なんて言おうものなら俺は間違いなく迷惑な男扱いされるだろう。
俺にできることは、綾原がこの告白を断ることを願うことだけだ。
それなら、こんなところに隠れて綾原と木戸先輩の会話を盗み聞きしている必要は無い。
そう考えて俺が遠回りして教室に向かおうとしたその時、綾原は木戸先輩に手を引かれてどこかに連れて行かれてしまった。
これは俺のあまりにも厚かましい考えかもしれないが、木戸先輩に連れ去られる瞬間の綾原は、不安そうな表情をしているように見えた。
もし綾原が本当に不安そうな表情を見せていたのだとしたら、追いかけるべきなのだろう。
しかし、もしいい雰囲気になっているのだとしたら追いかけたとしてもただの迷惑にしかならない。
それなら俺が追いかける必要は……。
そう思った矢先、俺はAI先生の存在を思い出した。
こんなところでまでAIに判断を委ねるなんて男としてどうかと思うが、自分で決めきれなかった俺はAIに判断を委ねることにした。
『好きな人が別の男に連れていかれたら追いかけるべき?』
『まずは冷静になって、その場の状況をよく観察することが大事です。感情に任せて行動してしまうと、後々後悔する可能性もあります。彼女が告白を受け入れているかどうか、その相手との関係性なども含めて、まずはしっかりと理解するように努めましょう。
好きな人にとって何が幸せなのかを考えると、自分ができることや支えられる形が見えてくるかもしれません』
綾原にとっての幸せ……。
勘違いだったとしても、俺は綾原が不安そうな表情をしているように見えた。
先程までは、もしかしたら迷惑になるかもしれないと踏みとどまっていたが、俺からは綾原が不安そうな表情をしているように見えたのだから、追いかけるしかないよな。
それにもし綾原と木戸先輩がいい感じになっているのだとしても、俺が少し邪魔したくらいでは二人の関係が悪化することはない。
やはり綾原を追いかけるしかないだろう。
そう考えた俺はポケットにスマホを入れ、綾原を追いかけ始めた。
◆◇
「……誰のスマホだろ、これ」
今日は両親が仕事から普段よりも早い時間に帰ってくるということで、本当は龍人ともっと一緒にいたかったが、龍人より先に教室を出て帰路についていた。
しかし、教室に今日の宿題で使うノートを忘れたことに気付き、学校に戻ってきていた。
そして見つけた、昇降口を入ってすぐのところに落ちているスマホ。
一体誰のスマホだろうかとそのスマホを拾い上げると、画面にはこんな文言が表示されていた。
『好きな人が別の男に連れていかれたら追いかけるべき?』
最初はなんだこれと思ったが、少しスマホをスクロールしたら、この質問はAIに向けて投げかけた質問だということがわかった。
そして申し訳ないとは思いながらも、持ち主を特定するためにしばらくスマホを操作した。
「……えっ、龍人のスマホ?」
驚くことに、このスマホの持ち主は、龍人だったのだ。
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