第27話
1日の授業を乗り切った俺は、カバンを持って教室を後にした。
「はぁ……」
普段は学校が終わったことに喜びを感じて清々しい気分で学校を後にする俺なのだが、今日の俺は疲れ切っており、学校が終わったことを喜ぶ気力が残っていなかった。
普通に学校で1日を過ごしているだけならここまで疲れないはずの俺が疲れ切っている理由は2つある。
一つ目は、どれだけ逃げようとしても楠森が1日中俺と関わろうとしてくること。
朝教室に入るなり挨拶をしてきて、それから世間話を数分こなす。
それだけなら普通の友達同士の日常的な風景だろうが、その次の休み時間も、またその次の休み時間も、俺に息つく暇を与えずに話しかけてくるのだ。
少し前までは一匹狼で1日中1人で過ごしていた俺にとって、多少の会話ならまだしも、1日中誰かと会話をするのはかなりの体力を必要とする。
しかも会話をする相手が俺に取って因縁の相手である楠森ともなれば、古里や鈴村と会話をするのもは疲労感が全く違う。
帰宅する体力さえ奪われてしまいそうになり危機感を感じた俺はトイレに逃げ込んだのだが、楠森は俺の後ろをついてきて、ゆっくりできたのはトイレの中でだけだった。
休み時間なのだから授業で使用した体力を回復させるために休ませてほしいのに、これでは全く心が休まらない。
挙げ句の果てにはクッキーまで渡されて……。
いやクッキー渡されるのは嬉しいんだけど、俺には俺の事情があるわけで……。
これでは俺が疲弊するのも無理は無いだろう。
そして俺が疲弊しているもう一つの理由、それは1日中綾原からの視線を感じていたからだ。
積極的に俺と関わろうとしてくる楠森とは打って変わって、綾原は俺に話しかけたりはしてこないものの、1日中俺の方に視線を向けてきていた。
何か俺に用があるのかとたまに俺が綾原の方へ視線を向けると、フイッと視線を逸らされてしまうし、綾原が何を考えているのかは全く分からなかった。
一緒にファミレスに行ったり映画を見に行ったりと、いい関係を築くことができていたはずなのに一体なぜ--なんて疑問に思う暇は無い。
1日中綾原から視線を向けられているとなれば、1つ1つの行動に気を付けなければならないし、1番気を付けなければならなかったのは楠森との接し方だ。
ファミレスであんな事件が起きた後で、俺と楠森があまりにも仲良さげにしているところを見られてしまえば、綾原から不信感を持たれるのは避けられない。
俺を疲弊させる2つの理由が最悪の方向に絡み合い、俺の体力はみるみるうちに削られていってしまった。
体力がゼロに等しくなった俺だったが、最後の力を振り絞って帰宅しようとようやく昇降口まで辿り着き、靴を取り出しながら出口の方を見た。
そして俺はため息をつきながら肩を落とす。
「……はぁ。最悪だ。なんだよこんなタイミングで」
窓の外を見ると、教室の窓から外を眺めた時は降っていなかった雨が降り始めていたのだ。
雨が降ったせいで、濡れて帰らなければならないのが最悪なのではない。
最悪だったのは、万が一のために教室に置いていた折り畳み傘を教室に忘れてきてしまったのだ。
この体力で再び教室に戻るのはかなりきついが、忘れてしまったものは仕方がない。
腹を括って教室に戻ろうと今来た道を引き返し始めた。
すると、綾原が1人の男子生徒と2人でいるところが目に入ってきて、隠れる必要も無いのに俺は思わず廊下の角に隠れた。
そして廊下の角からこっそり綾原と男子生徒の様子を確認する。
あれは確か……この学校で1番のイケメンと噂の
綾原は部活にも入っていないので、先輩や後輩との関わりなんて無いはずなのだが、なぜ木戸先輩と一緒にいるのだろう。
「綾原さん、僕と付き合ってくれ」
「……は?」
俺は綾原が告白されているところを目撃した俺は気の抜けた声を出してしまった。
これまでも綾原は多くの告白を受けてきているだろうが、今回はこれまでとはわけが違う。
学校1のイケメンと名高い先輩から告白されてしまえば、いくら全ての告白を断ってきた綾原といえど、その告白をOKしてしまうかもしれないのだから。
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