第26話
永愛君を巡る楠森さんとの恋愛バトル。
その火蓋を自ら切るべく、私は永愛君をデートに誘うことにした。
永愛君に好きになってもらうために何をすればいいのか、これまで恋愛をしたことがない私の頭ではどれだけ考えてもデートに誘うくらいの簡単な作戦しか思い浮かばなかった。
デートの定義が何かは分からないが、付き合っていない男女が2人で遊ぶこともきっとデートって呼ぶはずだよね。
デートだと思わなければこれまでファミレスに集まってアニメの話をしていた時と同じようにただの友達という感覚で接してしまいそうなので、デートだと思い込むようにした。
しかし、それはそれでデートだと思った瞬間怖気づいてしまい永愛君を誘う勇気が突然消え去ってしまった。
そうして勇気が消え去ってしまった私は、朝から永愛君をデートに誘わなければと思っておきながら、午前中の授業を終え、お昼ご飯を食べ、そして午後の授業も終え、ついには放課後になり永愛君は帰宅してしまった。
これまで色々な人からの告白を断ってきたが、まさかデートに誘うだけでこんなに緊張して勇気がいるなんて、私に告白してきた人たちってすごい勇気がある人たちだったんだなぁ。
軽い気持ちで告白を断ってきたわけではないけど、もっと真剣に考えて断るべきだったのだろうかと思えてしまう。
それに比べてデートに誘う勇気すら出ない私って……。
こんな私では永愛君と付き合えたとしても、永愛君にふさわしい彼女にはなれないだろう。
「……はぁ。ダメダメだな私」
「うん、ダメダメだね」
「ダメダメなんてもんじゃないよ。もっと勇気出さないと」
私の言葉を復唱するように辛辣な言葉をかけてきたのは茜と千秋だった。
もっと優しい言葉をかけてくれてもいいのに、なんて思いながらも、2人は私のためを思って厳しい言葉を投げかけてくれているのだから、甘えたことを言っていてはいけない。
「……だよね。まさかこんなに臆病者だったなんて、自分に失望しちゃってるよ」
「永奈がそうしてる間に転校生はどんどん永愛との距離縮めちゃうんだからね? 今日だって何の日でもないのに可愛く包装されたクッキープレゼントしてたし」
「あっ、それ私も見た。渡してる時の楠森さん、完全に乙女の表情してたね」
「あんなに可愛い顔見せられたら普通の男子だったらオトされてるね。永愛君に限ってそんなこと無いとは思うけど……いや、昔告白した相手ってなったら話は別か。うん、状況はかなりまずいよ永奈」
私も楠森さんが永愛君にクッキーを渡そうとしているところは目撃した。
あれだけ可愛い表情を見せられればどんな男の子だって恋に落ちるだろうし、女の子の私でさえ一瞬ドキッとしてしまったくらいの表情だった。
その上渡されたクッキーが美味しければ、永愛君の中での楠森さんの評価は更に上がってしまうだろう。
楠森さんとの恋愛バトルの火蓋を自ら切ろうなんて考えていたが、すでにこのバトルの火蓋は楠森さんによって切られているし、圧倒的に楠森さんが優勢で私が劣勢な状況である。
何の日でもないのにクッキーを渡すなんて、もうあなたのことが好きですって伝えてるようなものじゃん……。
いや、いつかは伝えることになるんだし、積極的に行った方が好感度も上がるのかもしれないけど……。
「……だね。私も頑張らないと」
「勇気がいることだとは思うけどさ、ここで勇気を出さずに永愛と楠森さんが付き合ったら後悔するでしょ?」
「厳しいこと言っちゃってるかもだけど、私たち、なっちに幸せになってほしいんだよ」
勇気が出せないでいる私の背中をこうして押してくれる友達がいるなんて、私はどれだけ幸せなのだろうか。
私自身のためにも、そして何より私のことを応援してくれ2人のためにも楠森さんに負けている場合ではない。
「……ごめんね。……ありがと。私永愛君追いかけるね!」
「頑張ってね!」
「永奈ならできるよ」
そう言ってくれた2人に、私はファイティングポーズを見せてから教室を出た。
しかし、とある事件が発生したことで、私は永愛君に声をかけることができなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます