第25話
「永奈、これは一大事だよ」
「うんうん、これは強敵現るだね」
永愛君を無理やり店から出した千秋と茜は神妙な面持ちで話し始めた。
「な、何の話? というか永愛君追い出すみたいな形になっちゃったけど何であんなことしたの?」
突然のこと過ぎて何をすることもできず黙り込んでしまったが、なぜ千秋は永愛君を無理矢理ファミレスから追い出すようなことをしたのだろう。
楠森さんがファミレスを出て行ったのは理解できる。
私と少しだけ、ほんの少しだけ険悪な雰囲気になっていたし、あのまま楠森さんがこの場にいたとしても状況は更に悪化していただろうから。
でもやはり永愛君を無理矢理追い出した理由だけはわからない。
「そうしないといけないくらい一大事だからだよ。その様子だと永奈はこれがどれだけ大事かってことにも、自分の気持ちにも気付いてないみたいだけど」
「うーん……。当の本人がこれでは中々劣勢になっちゃうかもね……」
「えっ、2人とも何を言ってるの? 一大事だとか劣勢だとか、何を言ってるのか全然わからないんだけど……」
「「……はぁ」」
あたふたする私の前で2人は目を見合わせてから大きなため息をついた。
「えっ、なっ、なんでため息なの〜。ため息をつく理由を教えてもらわないと何が何だかさっぱりだよ」
「どれだけ遠回しに言って気付かせようとしても無理そうだから単刀直入に言わせてもらうわね」
真剣な表情でそう言う千秋の姿に、私はゴクンと唾を飲み込んでから「うん」と返事をした。
「永奈、永愛のこと好きでしょ」
「……へ? ……好き?」
「うん」
「私が?」
「うん」
「永愛君のことを?」
「うん」
「……えええええええええええっ⁉︎」
私は周りに別のお客さんがいることを忘れて叫んでしまった。
そして一瞬店中の視線が私たちの席へと集まり、反省した私は一瞬で冷静になって縮こまった。
私が永愛君のことを好き……?
そう思ったことは一度もないし、そんな話2人にしたことは無いはずなのだが、なぜそう思われたのだろう。
「自分の気持ち気付いてなかったんだから驚くのも理解できるけどさ、そこまで驚くこと?」
「そっ、そりゃ驚くよ! だって私、2人に永愛君なことが好きだなんて一言でも話した⁉︎」
「いや、話してなくても伝わってくるって。ね、茜」
「うん、友達の私たちだからこそわかることかもしれないけど、私たちの目にははっきりなっちが永愛君のことが好きなように写ってたよ」
私はこれまで一言でも永愛君のことが好きだなんて話したことは無い--というか永愛君以外の誰かを好きだという話も2人にはしたことが無い--というかそもそも好きな人なんていたことが無い。
だからこそ、2人の私が自分永愛君のことを好きという話は頭の中に入ってこなかった。
「え、っていうかその、こんなこと言ったら怒られちゃうかもだけど、私って永愛君のこと好きなの……?」
「「……はぁ」」
2人は再び息を合わせたようにため息をついた。
「やっぱりそこからか……。じゃあ逆に聞くけど、永愛が転校生と付き合ったらどう思う?」
「え、そりゃあそんなおめでたい話、祝福するしか……あれ、何でだろ、素直に喜べない」
「でしょ。そういうことだよ」
永愛君の存在が私の中で大きくなっていたのは自覚していた。
アニメ好きという共通点から始まり、アニメの話をしたり映画を見に行ったり、更には長年続いていた母親との問題を解決してくれたり。
しかし、それはただ友達として永愛君の存在が私の中で大きくなっているだけだと思っていた。
それがまさか、私が抱いているこの気持ちが恋心だったなんて……。
永愛君と楠森さんが付き合うことを考えたら素直に祝福できなかったのだから、それが恋心であることを否定するのは難しいが、未だに私が永愛君に恋心を抱いているなんて信じられない。
「永愛君が良い人だってのは私たちだけが知ってるじゃん? 周りの人はヤンキーって思ってるだろうしライバルも現れないだろうから焦ることないと思ってたんだけど、事情が変わっちゃったからね。こうしてなっちに自分の気持ちに気付いてもらおうって思ったわけ」
「なるほど……」
「それでどうなの? 永奈は永愛と付き合いたいの?」
まだ2人に自信を持って永愛君に対する気持ちを伝えられるほど自覚をしたわけでは無い。
それでも私は今私が思っている正直な気持ちを伝えるべきだと思った。
「……それは正直まだ突然過ぎてよくわからないけど、さっきの千秋からの質問に対する反応が私の気持ちなんだと思う」
「……よし。じゃあ私たちは永奈に協力する」
「だねっ。なっちには幸せになってほしいし」
「2人とも……」
こうして私は永愛君に対する自分の気持ちに向き合い、先に進むことに決めた。
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