第29話
綾原のことを追いかけて、俺は校舎裏までやってきた。
先ほどまでは追いかけるべきかどうかを悩んでいた俺だったが、AI先生のおかげで迷いは完全になくなっており、すぐに二人の間に割り込んだ。
「綾原!」
「えっ、永愛君⁉︎ どうしてここに⁉︎」
予想外だったであろう俺の登場に驚きの表情を見せた綾原だったが、俺が来たことを嫌がっているような表情は見えなかった。
ということは、俺が先程木戸先輩に連れて行かれる時に見た綾原の不安そうな表情は見間違いではなかったのだろう。
「偶々綾原が木戸先輩に手を引かれてどこかに連れて行かれるところみてさ、綾原が嫌がってるように見えたから追いかけてきた」
「おい、永愛とやら。君が綾原さんの何なのかは知らないが、今大事なところなんだ。邪魔者はどこかに行ってくれないかな」
木戸先輩のことはとにかくイケメンだということしか知らないが、今の話し方を聞く限り、心の方はイケメンではないのだろう。
この状況から考えて、綾原は木戸先輩からの告白を断ったが、その返事が気に食わなかった木戸先輩が無理やり綾原の手を引っ張って校舎裏まで連れてきたってところか。
「邪魔者はどっちだろうな。綾原が嫌がってるのに無理やりこんなところまで連れてきて。一体何するつもりだったんだ?」
「綾原さんが嫌がってる? そんなわけないだろう。僕はこの学校で1番のイケメンなんだ。実際数え切れないほどの女子から告白されてきたし、僕から告白されたいと思っている女子はたくさんいる。そんな僕に告白されて嫌がる女子なんているわけがないだろ?」
……木戸先輩の言葉を聞いた俺は、思わずため息が出そうになるほど呆れてしまった。
木戸先輩がイケメンであることに疑いは無い。
芸能人だと言われても違和感がないほどに顔立ちは整っており、イケメンかどうかを訊けば100人中100人がイケメンと答えるだろう。
しかし、そんな整った顔を持ってしまったせいで、木戸先輩の心は腐ってしまったのかもしれない。
自分に告白されることを嫌がる女子なんていないと言い切れるとは、よほど性格がひん曲がっているのだろう。
まあヤンキーで有名なこの俺にこれだけ自信満々に言い返してこれるのは中々な度胸の持ち主だとは思うが。
「……あー、そうかもですね。でも綾原は嫌がってます」
「そんなわけがない。綾原さん、僕から告白されて嬉しいだろ?」
「えっ、嫌です」
「え゛っ--」
「ブフッ」
俺は綾原の辛辣な返答と、木戸先輩が猫が踏み潰されたような声を出しながら固まってしまった様子を見て思わず笑ってしまった。
「なっ、うっ、嘘だよね? 僕に告白されたのが恥ずかしくて思わず嘘を--」
「本当です。さっきも言ったじゃないですか。あなたとは付き合えませんって」
綾原の表情でなんとなく察していたが、やはり綾原は木戸先輩からの告白を断っていたんだな。
こんな時にそんなことを思うべきではないが、俺は綾原が木戸先輩の告白を断ったことを喜んでしまっていた。
「あっ、あれはただの照れ隠しで……」
「照れ隠しでもなんでもありません。本当です」
「そっ、そんなわけがない! 僕ほどイケメンで女の子に優しい男中々いないんだぞ⁉︎」
「それくらいにしといてくださいよ。みっともないですから」
「みっともない⁉︎ 言わせておけば後輩のくせに生意気な口ききやがって、教育がなってないようだなぁ!」
「じゃあ先輩が教育してくれますか?」
「ああしてやろうじゃないか--」
「おい何してるお前ら!」
「うわっ、鬼塚先生だ」
木戸先輩が綾原を諦めてくれるように圧をかけて見たが、木戸先輩は予想以上に諦めが悪く、引こうとしなかった。
そして、そうこうしているうちに騒ぎを聞きつけた鬼塚先生がやってきてしまったのだ。
「ちっ、ここは一旦退散だな。覚えとけよ、永愛!」
「綾原、すまんが俺たちも逃げるぞ」
「えっ--」
こうして俺は綾原の手を引っ張り、鬼塚先生に見つからないよう隠れる場所を探し始めた。
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