第21話
忘れもしない、肩下程度に切り揃えられた艶やかな黒髪に、常に少し冷めたような目。
それにスッと通った鼻筋にシャープな骨格、華奢な体付き。
あれはどこからどう見ても俺が昔に『柄が悪い』という理由で振られてしまった女の子、楠森菜緒だった。
その内面は最悪かもしれないが、外見だけを見ればやはり綾原にも匹敵する超絶美少女だ。
「転校生が来るだなんて全然知らなかったね。すっごく美人な子」
「えっ、あっ、まっ、そっ、そうだな……」
俺の右前の席に座る綾原の言葉に、俺はどう返答していいのか分からず言葉を詰まらせた。
楠森が転校してきてしまったことを頭の中で処理するだけでもキャパオーバーで、好きな女の子から別の女の子が美人だと言われてどう返答するのが正解かなんてことを考えている余裕なんて無かった。
本来は自分の好きな女の子の前で他の女の子が美人だなんて意見に賛同するべきではなかっただろう。
『綾原の方が美人だよ』なんて顎クイしながら言うべきだっただろうか--ってそんなわけないだろ馬鹿!
綾原も特に深い意味を交えて言っているわけではなさそうだったので、今は楠森のことに集中しよう。
「みんな仲良くしてやってくれ。それじゃああそこ、あの坊主……って永愛おまえなんで坊主に⁉︎」
「こっ、これには色々ありまして」
「そうか……。とりあえずあの坊主の右隣の席が空いてるから、そこに座ってくれ」
……は? 右隣の席⁉︎
俺と同じ高校に転校してくるだけでも最悪なのに、その上俺の右隣の席に座るってどんな因果だよそれ!
楠森のことに集中しようとは思ったが、距離が近すぎると集中できる気がしないんですが!
先生に席の場所を教えてもらった楠森はトコトコと歩いてきて俺の右隣に座り、右隣が楠森、右前は綾原という俺にとってあまりにもカオスな空間が生まれてしまった。
「よろしくね楠森さん」
「よろしく。席も近いし色々教えてくれると助かるわ」
「もちろんっ。わからないことがあったらなんでも聞いてね」
転校生である楠森に対して綾原は後ろの席を振り返って100点満点の対応を見せた。
そんな姿に、俺は思わず惚れ直してしまった。
転校生は右も左もわからない状況だろうし、その上人間関係まで築いていかなければならない。
そんな状況の転校生にとって、綾原という存在は天使にも女神に見えることだろう。
やっぱり綾原、最高の女の子すぎる。
そして綾原との会話をそつなくこなした楠森の様子を見た俺は目を丸くしていた。
俺の中の楠森の記憶といえば酷い振られ方をした記憶なので、テンションが低いのは相変わらずだが綾原から話しかけられて普通に返答している姿には驚かされた。
そうだよな、楠森も通常時は別段酷い言葉を言ったりするわけではなく、人と会話をするのが好きそうではないものの、上手に会話をこなするクラスメイトから愛される存在だったんだ。
そんな姿を見て俺は楠森を好きになったんだったなと、楠森に惹かれていた時のことを思い出した。
「永愛君ってあの永愛君よね?」
「へぇあっ⁉︎」
楠森から突然話しかけられた俺は情けない声をあげてしまう。
楠森に対する当てつけのようにヤンキーであることをポリシーにしてきた俺だが、こうして最大の敵を目の前にした時に弱気になってしまったのは髪型を坊主にしてしまったからだろう。そういうことにしといてくれ頼む。
というか楠森が転校してくる直前に坊主にするってどんだけタイミング悪いんだよ……。
綾原を助けるためにしたことなので、坊主にしたこと自体は後悔していないが、そのタイミングの悪さには自分の運の悪さを呪うしかなかった。
「あの永愛君」という楠森の言葉に含まれている意味が、『私に告白をした永愛君』という意味なのか、『小学校の時にクラスメイトだった永愛君』という意味なのかはわからないが、俺のことを覚えているのは間違いなさそうだ。
というか綾原の前で意味深なこと言うのやめてくれ⁉︎
『二人は知り合いなの?』的な感じで首を傾げてこっちを見つめてきてるじゃないか!
俺が好きだった女の子というだけでは別に綾原はなんとも思わないだろうが、それでもやはり自分が現在進行形で好きな女の子に、楠森は俺が告白して振られた相手だと知られるのはなんとなくバツが悪い。
「あっ、ああ。同じ小学校だった永愛だ」
「……へぇ。坊主にして少しは好青年になったんだ」
「……え?」
楠森がどのような意味でその言葉を言ったのかはわからないが、楠森は俺が告白をして振られた時に俺に向けていた軽蔑の視線とは全く別の類の視線を俺に向けてきていた。
※第2話の回想シーンで楠森が別の中学校に進学したことを書いていたつもりでしたが、書いていないことに気付いたため、楠森は親の都合で別の中学校に進学する、という内容を追記しておきました(m´・ω・`)m
AIに恋愛相談したら好きな子とお近づきになれた 穂村大樹(ほむら だいじゅ) @homhom_d
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