第16話
「なっ、なあ」
翌日のお昼休み、俺はAIの指示通り、綾原を助けるために協力を仰ぐべく再び古里と鈴村に声をかけた。
こういう時に頼ることができるのが自分の友達ではなく綾原の友達なのが情けないが、綾原を助けることができるならなりふり構っていられない。
俺は他人に声をかけること自体を苦手としているのではなく、声をかけることで相手を怖がらせてしまうのが申し訳なくて苦手としているだけなので、できるだけ威圧感を無くした声で二人に話しかけた。
「あれ、また永愛君じゃん」
「私たちに話しかけてくるってことはまた永奈の話?」
再び俺に話しかけられたことに驚く2人ではあったが、2回目ということもあってか2人にあまり驚く様子は見られなかった。
ひとまず怯えさせずには済んだようで一安心した俺はすぐ本題に入った。
「ああ。やっぱり綾原の情報って何も無いのか?」
「そうなんだよね〜。私たちも流石に心配で何があったのかずっと聞き出そうと思ってるんだけど、LINEの返信も無い、電話にもでないとなるともう詰んじゃっててさ」
やはり2人も俺と同じ状況に陥ってしまっているようだ。
「2人なら綾原の家の場所知ってるよな?」
俺が綾原の家の場所について話を始めると、先程まで少しリラックスして話していた2人の雰囲気は一転して警戒した様子を見せ始めた。
「あんた、どうするつもり?」
特に警戒した姿を見せたのは古里の方で、古里は俺を睨みつけてどうするつもりかを尋ねてきた。
そんな古里に気圧されそうになりながらも、俺は引くことなく話を続けた。
「綾原の家に行こうと思ってる」
「何しに行くの--って訊くまでもなく永奈を助けに行こうとしてくれるんだろうけど、それで今より状況が悪くなったらどうするの? このまま手を出さなければもうしばらくしたら永奈が帰ってくる可能性だってあるのに、あんたが永遠奈の家に行ったことで状況が悪くなったらどう責任取るつもり?」
古里の言っていることは何も間違ってない。
綾原が抱えている問題が母親との問題であることは俺しか知らないだろうが、家族間の問題だからこそ俺が家に押しかけたところで俺にできることは無く、それどころか状況を悪化させてしまう可能性があることは十分理解している。
それでも俺はこのまま何もせずに結局綾原が学校を退学してしまい、2度と会えなくなって後悔するなんてことは絶対にしたくなかった。
「そう思うのは仕方がないと思う。俺も何百回も同じこと考えてたから。でも今のまま何もしなかったところで状況は変わらないし、行動すればいい結果になる可能性だってあるだろ? それなら俺は綾原を助けるために動きたいんだ」
「それはわかってる! 私だって永奈に戻ってきてほしくて、何かしたくて、何かしないとこの状況は良くならないかもしれないってずっと考えてた。でも私のせいで余計に状況が悪くなったらと思うと……」
古里は本気で綾原のことを考えてくれてるんだな。
このままでは綾原を助けるめに協力してもらえないかもしれないと焦りを感じながらも、俺は綾原に俺のようなヤンキーに対してでも綾原のことを本気で考えて意見してくれる友達がいることが嬉しかった。
「ちょいちょいお二人さん、そんなに重い空気にしなさんなって。ただ永愛君がなっちを助けにいってくれるってだけの話でしょ? それなら助けに行ってもらおうよ。私たちみたいな小娘が助けに行くよりも可能性あるんじゃない?」
鈴村は俺と古里が口論をしている状況を見て、俺の背中を押してくれるような発言してくれた。
いつもはただ自分のやりたいように行動しているだけに見えていたが、意外と視野が広くて周囲に気を遣える人間なのかもしれない。
「鈴村……」
「いや普通に考えて家にヤンキーが押しかけてきたら状況悪化するでしょ」
「まあその可能性もあるね」
おいさっき背中を押してくれたのは嘘だったのか。
「でもそうだね。私いつも後先考え過ぎて逆に後悔しちゃうタイプだから。今回は永愛に乗っからせてもらおうかな」
「い、いいのか⁉︎」
「でも永奈の家を教えるからには絶対に連れ戻してしてよね」
「任しとけ」
こうして俺は2人から綾原の自宅の場所を聞き出すことに成功した。
ただその後で、なぜ俺が綾原のことを気にかけるのか、綾原とはどんな関係なのかを根掘り葉掘り聞かれてしまったのだが、綾原を助けるための情報を手に入れられたのだからよしとしよう。
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