第14話

 綾原の悩みを聞き出しアドバイスを送ってから数日後、俺は図書室にやってきて夢川先生に綾原から聞き出した悩みについて報告をしていた。


「--てな感じで綾原から悩みを聞き出してアドバイスはしました」


 解決とまでは至らなかったものの、綾原から悩みを聞き出したという一定の成果は報告できているはず。

 それなのに、夢川先生は無表情ながらに何か言いた気な表情を見せている。


「悩みを解決したわけじゃないってのは物足りないな……まあアドバイスしてるだけマシではあるが」


 これまで人との関わりが少なかった俺からしてみれば、人から悩みを聞き出したというだけでも褒めてもらいたいものである。

 しかもその相手はただの人ではなく学校1の美少女で、俺が好意を寄せている綾原なのだから労力に見合った評価をしてもらわなければ困る。


 それに、綾原から聞き出した悩みは母親との関係についてだった。

 家族関係というデリケートな問題をたった1ヶ月で解決するのは夢川先生だったとしても難しいのではないだろうか。


「流石に家族関係を改善させるのは1ヶ月じゃ難しいでしょ。てか全くの部外者である僕が口を突っ込んでいい話なのかどうかもわからないし」


「本来なら次の課題を出したいところだが、綾原の悩みがデリケートな部分だっただけにもう少し様子を見ることにする。綾原から聞き出した家族関係についてはにケアしとけよ」


「言われなくてもわかってますって」


「少し綾原といい関係になってきたからと言って調子に乗るんじゃないぞ。綾原からしたら龍人からアドバイスをもらっただけで何も解決してないんだから」


 確かに根本的な問題が解決したわけではないが、綾原は俺のアドバイスを聞いて『もう悩まないで済む気がしてきた』と明るい表情で言っていたので、このままいけば綾原の悩みは晴れる方向に進む気がしている。

 楽観的に考えていては痛い目を見るかもしれないが、あの綾原の曇りが晴れた表情を見てしまっては楽観的になるのも仕方がないだろう。


 まあそうは言っても夢川先生の言う通り問題が解決したわけではないので、今後も綾原から母親の情報を仕入れようとは思うけど。


「チーッス」


「返事は『はい』だよな?」


「はい、夢川先生。それではっ」


 最後に皆見えた夢川先生の本性に怯えた俺は、図書室をそそくさと後にした。




 ◆◇




 夢川先生に綾原から悩みを聞き出したことを報告した翌日、登校してきて教室に入った俺は綾原の姿が無い事に気がついた。


 俺はいつも担任の先生が教室にやってくる少し前で教室に入ってくるので、綾原は必ず俺より先に来て古里と鈴村と会話をしている。


 それなのに今日は綾原の姿が見当たらない。


 綾原にラインで連絡を取ればわかる話ではあるが、それだと休みの理由を聞くまでに時間がかかるし、今すぐに綾原が学校に来ていない理由を知りたかった俺は意を決して古里と鈴村に話しかけた。


「なっ、なあ」


「えっ、永愛?」


「永愛君から話しかけてくるなんて珍しいねっ、ていうか初めてじゃない?」


 古里も鈴村も俺から話しかけられたことに驚き、身構えて俺を警戒しているように見える。


 この反応をされると楠森の時のように柄の悪い人間だと思われて嫌われているのではないかと不安になる。

 いやまあ柄の悪い見た目をしているのだから当然のことなんだけど。


 それでもそこで怖気付いて綾原のことについて訊こうとするのをやめることはなかった。


「突然ごめんっ。そのっ、綾原って今日休みなのか?」


「あれ、なんで永愛君がなっちのこと心配してるの?」


「あっ、いやっ、別に、ただいつもいる人が教室にいないと気になって……」


「……ふーん。今ちょうど私たちも話してたところなんだけど、なっちから休むって連絡は無くてなんで学校に来てないのかわからないんだよね」


「えっ、二人も知らないのか?」


「いつもなら私たちのところに永奈から休むって連絡が入るんだけど、今日はまだ連絡が来てないんだよね」


 綾原が学校を休む時にいつも古里たちに連絡をしていないのなら今回連絡が来ていないのも当然だが、いつも連絡しているのに今回は連絡がない……。

 ただ風邪をひいて寝込んでいるだけかもしれないが、何か嫌な予感がする。


「突然悪かった。ありがとう」


「どーいたしまして!」


 その日の間、俺はずっと綾原に何が起きているのか気になりラインも送ってまたが返信はなく、結局嫌な予感は的中してしまい、1週間が経過しても綾原が登校してくることはなかった。

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