第10話
盗撮犯を捕まえてスタッフに突き出したというのに、盗撮したのは俺ではないかと疑われ、俺はスタッフに事務所へ連れていかれそうになっていた。
事務所に連れて行かれたところでスマホの中身を確認すればすぐ俺の真実は証明されるだろうが、せっかく盗撮犯を連れてきてやったのに外見だけで俺が悪いと判断されたのは気に食わない。
どうするべきかと頭を抱えていたところに割って入り、俺の無実を証言してくれたのは綾原だった。
「そう言われてもね……。私としては今この場でそこのヤンキーが盗撮をしていないって証拠を見せてもらわない限り一旦事務所まで連れていくしかないんだよね」
初対面の人間をヤンキー呼ばわりするなんて失礼だと思わないのかこいつは。
いやまあヤンキーのような外見をしている俺が悪いのは理解してるんだけど。
それでも俺は人の中身を外見で決めつけるような人間に腹が立っていた。
「証拠ならあります。だって永愛君、自分のスマホポケットに入ってるでしょ?」
「え、自分のスマホ? --あっ、そうか」
綾原の言葉を聞いた俺はポケットから自分のスマホを取り出した。
自分のスマホがあるだけで簡単に俺が盗撮犯ではないことを証明できるのに、なぜそんな簡単なことに気が付かなかったのだろうか。
「ほら、俺のスマホならここにある。そいつのスマホは今アンタが持ってて、俺のスマホが俺のポケットから出てきたんだから盗撮したとは言えないだろ」
「……それだけならお前がそこの太った人からスマホを奪ってる可能性もあるだろう? そんなんで調子に乗ってもらっても困る--」
「じゃあこの人に聞いてみましょうよ。このスマホの待受画面が何の画像なのか」
綾原に俺のスマホがポケットに入っていることを指摘された俺は、綾原が考えていることをその場ですぐに理解した。
確かに今盗撮をしたそこの太った男のスマホがスタッフの手にあり、俺のポケットに俺のスマホが入っているだけでは俺がスマホを奪い取っている可能性もあるので、俺が盗撮をしていないことの証拠にはならないだろう。
しかし、俺のスマホの待受画面を知っているのは俺だけだ。
そこの盗撮犯が俺のスマホの待受が何かを答えられなければ、俺が犯人でないことの証拠になる。
「そ、それは……」
「今俺の手にあるこのスマホがお前のものなら待受がなんなのか絶対答えられるよな?」
「ぐぬぬぬぬぬぬ……」
「ほら、答えられないだろ? 俺のスマホの待ち受けが何かなんてこいつに答えられるわけないんだから。だから俺は盗撮なんてしてない」
「……フンッ。ほら行くぞ」
「クソッ……」
結局俺が犯人ではないと理解したスタッフは俺に謝罪をすることもなく、盗撮犯を連れて裏へと歩いて行った。
「はぁーー腹たったわ」
とにかく事務所に連れて行かれずに済み一安心だが、苛立ちは治らない。
この苛立ちをどこにぶつけるべきなのか--。
「ほんっとムカつくっ! 永愛君が悪いことしてた人を捕まえて報告してくれたっていうのに、外見だけで決めつけて永愛君を犯人呼ばわりするなんて許せない。そもそも永愛君別にそんなに見た目怖くないし!」
スタッフに腹が立っていた俺だが、綾原が俺よりもスタッフに怒っている姿を見て俺の怒りはスッと消えていってしまった。
「……なんかごめんな。変なことに巻き込んで。助かったよ。まあ事務所に連れてかれたとしてもすぐに俺は悪くないってわかっただろうけど、悪いって決めつけられて腹たったし、綾原が助けてくれてなかったらしばらく拘束されてただろうから」
「当たり前だよ。永愛君すごくいい人なのに疑われたら腹立っちゃって」
普通は俺が悪くないとわかっていたとしても、面倒ごとに首を突っ込みたくはないと見て見ぬふりをするだろう。
そもそも俺も綾原に迷惑をかけたくなくて野暮用と言って言葉を濁したわけだし。
自分も巻き込まれるかもしれないことを顧みず、人のために当たり前のように怒ることができる、そんな綾原は俺が好きになった、外見だけで俺を判断しなかった頃の綾原そのままだった。
「……俺のために怒ってくれてありがとな」
「当然! 永愛君のためでもあるけど、シンプルに私も腹立ってたからね」
シンプルに腹が立った、というのは俺に気を遣わせないためのセリフなのだろう。
綾原はどこまで行っても綾原なんだな。
「本当にありがとな。でもこれからはこんな面倒ごとには首突っ込まなくても--」
「突っ込むよ。おかしいと思ったことはおかしいって言わないと気が済まない性格だし」
「……そっか。無茶はすんなよ」
「もちろんっ。よし、まだ映画終わってないし早く戻ろ!」
「あっ、そうだな」
それから俺たちはスクリーンへと戻り、何があったかはわからないが既に敵を倒し終わってしまったキュリプアの映画をエンドロールが終わるまで見続けていた。
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