第5話

 綾原から突然『私も好きなの!』と告白された俺は状況を飲み込むことができなかった。

 なぜ先転の話をしてる時に突然俺に告白をしてきたのだろうか。


 綾原が何を考えているのかわからなかった俺は、焦っていないフリをして綾原に訊いてみた。


「え、そ、それはその、えっと、う、嬉しいんだけど、なんで好きなんだ?」


「うーんとね、まずタイトルがいいよね! 明らかに韻を踏もうとしただけで考えられたタイトルじゃん? 実際作者の人も『先生の転生』はタイトルだけ先に決めたってインタビューで言ってたし、その適当で緩い感じが私は好きかな」


 ……え? タイトル?


 待て、それって--。


「--あっ、タイトルね! うんうんわかるぞ! あの明らかに適当に決めた感が逆にいいんだよな! 韻を踏んだだけのタイトルなのに内容は濃くて面白いってのがすごいんだよな! ははっ! はははは! あはははは!」


 俺は綾原の「私も好きなの!」という言葉を聞いて、綾原が俺のことを好きと言っているのだと盛大に勘違いしていた。

 綾原が好きだと言ったのは、俺のことではなく先転のことだったのだ。


 話の流れ的にどう考えても先転に対する発言だったのに、なぜ俺は勘違いをしてしまったのだろうか……。


 幸い綾原には俺が勘違いをしていたことに気付かれていなさそうなので、何も無かったかのように会話を続けることにした。


「だよねっ! タイトルもさることながら、先生が事故で死んで転生する時に神様から無限の知識を得て、その知識で俺TUEEEEするところが最高なんだよ! よくある魔術とかスキルとかじゃなくて知恵を使って俺TUEEEEするっていうのが他にはない魅力なんだよね」


「お、おお。それは先転の魅力の一つだよな」


「お、流石永愛君、今私が語った内容を魅力の一つと言ってのけるとはね。そうなんだよ、先転にはまだまだ魅力がたくさんあるんだよ!」


 目を輝かせながら自分の好きなアニメの話をする綾原が可愛すぎて、自分が恥ずかしい勘違いをしていたことはすぐ気にならなくなった。

 自分の好きなものの話をする人間のめ目は輝いて見える。


 アニメというジャンルに偏見を持たず、こうして目を輝かせながら俺に先転の話をしてくる純粋無垢な綾原だからこそ、俺がヤンキーだと知っていてもそれをカッコいいと言ってくれて、今もこうして俺に話しかけることができるんだろう。


 恥ずかしい勘違いをしてはしまったが、こうして綾原から話しかけられているのはAIの教え通り、綾原から声をかけられるよう行動した結果だ。

 それは俺があたかも先転の主人公、佐藤学さとうまなぶ先生のように無限の知識を手に入れて、俺TUEEEEをしているような感覚だった。


「それな。てかまさか綾原がアニメ好きだなんて思ってなかったわ」


 盗み聞きして知ってましたけども。


「へへへ。みんなには隠してるからね」


 綾原ほどの人気者の周りには、アニメが好きな生徒は少ないだろう。

 時代は変わり、昔のようにアニメオタクが皆から気持ち悪がられたりいじめられたりすることは少なくなってきただろうが、それでも陽キャの面々がアニメが好きだと大々的に口にしているところは見たことがない。


 話しているとしたら鬼滅の刀とか、柔術廻戦くらいメジャーになったアニメの話くらいだ。


 そうなれば自分がアニメ好きだと話をしたところで話は合わないし、それどころかアニメ好きなことを馬鹿にされ、友達が離れていってしまう可能性もある。

 綾原がアニメ好きであることを周囲に隠しているのは得策だろうな。


 てかみんなには言ってないってそれ俺と綾原二人だけの秘密ってことだよな⁉︎

 綾原はそんなこと意識していないだろうが、俺としては自分のみんなには見せていない一面を見せてくれたことが嬉しかった。


「ねぇ、もし良かったらなんだけど今からファミレスでも行かない?」


 「……え、ファミレス?」


 綾原から突然ファミレスに誘われた俺は自分の耳を疑った。

 いや、そりゃ綾原と付き合うためにまずはお近づきにならなければと思って綾原に声をかけられるよう行動していたわけだが、声をかけられたその日にファミレスってそんな上手く行くことがあっていいのか⁉︎


「私友達にアニメ語りできる人って全然いないから語り合いたいなと思って。ダメ……かな?」


「い、いや! 丁度今日は暇してたところだったから!」


 突然ファミレスに誘われたことには驚いたが、ここで怖気付いて綾原からの誘いを断っていたのでは綾原と付き合える日はやってこない。

 予定的にも暇をしていたどころか、綾原から声をかけられなかったら次の作戦を考えるつもりだったので、綾原からの誘いを断る理由は無い。


「本当に? 気を遣ってくれてるなら気にしなくていいんだよ?」


「いや、むしろめちゃくちゃ行きたいから。アニメの話を語り合いたいのはもちろん、俺前々から綾原のこと好きだし」


「……へ?」


「……あ?」


 綾原とのファーストコンタクトで、俺はとんでもないミスをやらかしてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る